本塁打のシーズン日本新記録を49年ぶりに塗り替えたヤクルト・バレンティンら、外国人助っ人たちのパワーあふれる豪快なプレーはプロ野球には不可欠だ。ところが今オフ、主力としてチームを支え続けた彼らの来季契約がどうにもまとまらない状況に陥っている。年俸などの条件面で本人の希望と球団側の開きが大きいとされるが、その背景には今年の流行語大賞の候補にも挙げられた経済政策「アベノミクス」が関係しているとか。切っても切れないプロ野球と経済の関係性とは。 (片岡将)
球団が選手と来季も契約を結ぼうと希望する場合、2日に公示される「契約保留者名簿」に記載しなければならない。だが、今オフ、この名簿から漏れるであろう助っ人の面々がものすごい。
セ・リーグではホールトン、ボウカー(ともに巨人)、スタンリッジ(阪神)、モーガン(横浜DeNA)。パも李大浩、バルディリス(オリックス)、ヘルマン、サファテ(西武)、ウルフ(日本ハム)ら、そうそうたる名前が連ねそうだ。
すでに退団が発表されているクラーク(中日)やファルケンボーグ(ソフトバンク)も含め、多くは国内の他球団への移籍が濃厚で、投打の主力として活躍した有力助っ人たちが職場を変えることになりそうだ。
だが、今後の交渉で深刻な事態に陥りそうなのは不動の4、5番コンビを組んでいた李大浩、バルディリスが流出必至のオリックスだ。バルディリスに今季年俸3500万円から2年2億円を提示していたが「他球団からも条件提示があれば見る。いい条件を出してくれるところが自分を必要としてくれるところ」と強気。横浜DeNAが獲得を検討している。同じく李大浩も2年8億円を上回る大型契約を「この中身ではイエスとはいえない」と拒否。ソフトバンクへの移籍が有力視されている。
DeNAで一躍人気者となったモーガンも横浜に「アバヨ!」と別れを告げそうだ。108試合に出場し規定打席には届かなかったものの、4番ブランコの前で打率・294、11本塁打、50打点とまずまずの成績を残した。だが、今季年俸1億5000万円からの大幅増額を希望して球団と折り合わず、他球団との交渉に入る。
それにしても、なぜこれほど助っ人たちとの契約交渉が難航しているのか。あるセ球団の編成担当者は「円安の影響は無視できない」とため息を漏らす。
第2次安倍内閣の発足から26日で1年を迎える。今年の流行語大賞候補にも挙がった経済政策「アベノミクス」のおかげで国内の経済状況は上向きつつあるが、アベノミクスの主な狙いの一つは過度な円高の是正。昨年12月1日時点の円ドル相場は1ドル82円12銭。これがちょうど1年後には1ドル102円41銭とおよそ20円の円安が進んだ。
通常、年俸はドル建てで支払われるため、助っ人の交渉に大きく影響しているというのだ。
例えば今季の年俸が1億円だった選手Aが、来季は現状維持の提示を受けたとする。選手Aが手にする金額は昨年のレートで約121万ドルだったものが、今年のレートでは約97万ドル。事実上の20%ダウンとなってしまうのだ。
前出関係者は「助っ人が大幅な増額を求めてもめるケースが増えているが、彼らの立場ならばそれも自然なことではある。20%アップで現状維持だからね。そこにこじつけて無理な増額を求めている代理人が多いことも事実だ。ない袖は振れない。レートがどうあれ、手元の1億円は1億円だから」と苦悩の表情を浮かべるのだ。
円安は貿易での輸出には追い風になるが、多くの外国人選手を日本に呼び寄せて興行を成立させるプロ野球はいわば“輸入産業”。円安が進めば進むだけ、年俸アップを求められる球団の負担は膨らんでいくわけだ。
日本人選手の国内フリーエージェント(FA)移籍も来季の戦力分布に大きな影響を与えているが、アベノミクスの大波に揺られる優良助っ人たちの移籍事情も、ペナントの行方を左右しかねないのだ(金額はすべて推定)。