現在の政局の焦点は、「ポスト菅」であろう。9月末までに予定される自民党総裁選で、菅義偉首相が再選されるかどうか。菅義偉首相を脅かす候補者は誰かということだ。そして、安倍晋三前首相の3度目の首相登板があるかどうかに焦点が当たっている。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)
「議連」の核となった安倍前首相、菅内閣の倒閣に動くのか
今、政局で注目されているポイントは2つある。
一つが、自民党内で「議員連盟」を結成する動きが相次いでいる「議連ブーム」。もう一つが、自死した近畿財務局職員・赤木俊夫さんが、学校法人森友学園(大阪市)への国有地売却をめぐる財務省の公文書改ざんの経緯を記した「赤木ファイル」が、遺族側に開示されたことだ。いずれも中心人物は、安倍前首相である。
安倍前首相は、今数々の「議員連盟」に名を連ねている。
例えば、21年4月、安倍前首相に近い稲田朋美元防衛相を会長とする「脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース推進議員連盟」が発足して安倍前首相が顧問に就いた。また、5月には甘利明党税調会長が「半導体戦略推進議員連盟」が発足した。ここでも、安倍前首相が麻生太郎副総理・財務相とともに最高顧問に就任した。6月15日には、二階俊博党幹事長を会長とする「『自由で開かれたインド太平洋』推進議員連盟」が設立された。ここでも、安倍前首相が最高顧問だ。
また、6月11日には、岸田文雄前政調会長が「新たな資本主義を創る議員連盟」を設立した。自民党の全派閥から議員145人が集まった設立総会では、安倍・麻生・甘利のいわゆる「3A」が最高顧問などへ就任することになった。この設立総会で挨拶した麻生副総理・財務相は会場をジロリと見まわして、「真面目に政策を勉強する顔ばかりとはとても見えない。政局の顔がやたら見える」と、歯に衣着せず「議連ブーム」の本質を指摘した。議連は、政策を勉強する会という「建前」があるが、そんなことは誰も信じていない。
今、これら「議連」という政局の核となった安倍前首相が、本当に3度目の首相登板を目指して、菅内閣の倒閣に動くことがあるのかについて、ジャーナリストや識者が論している。しかし、私は、菅首相が辞任せざるを得ないような事態にならない限り、安倍前首相が自ら動くことはないと思う。
そう考える根拠だが、いまだに「森友学園問題」「桜を見る会」「河井夫妻選挙違反事件」と、安倍前首相を取り巻くスキャンダルがくすぶっていることだ。
安倍前首相を阻む「赤木ファイル」、落としどころは?
「森友学園問題」では、「赤木ファイル」が公開されたことで、野党が文書改ざんに当時の安倍首相や菅官房長官らの関与があったとみて再調査を求め、国会の閉会内審査で追及する構えだ。
というのも、「赤木ファイル」には、佐川宣寿理財局長(当時)が改ざんを「直接指示」したとするメールが残っていた。しかし、これは、佐川氏の関与を曖昧に記述した18年の財務省報告書と明らかに内容が異なっているのだ。
政府与党は、再調査を拒否しているが、これだけ明らかな証拠を突き付けられたら、世論に押されて、いずれ応じざるを得ないかもしれない。だが、たとえ応じても、政府与党は全ての責任を財務省に押し付けるだろう。
この連載では、延々と続いてきた「森友学園問題」の落としどころは、「財務省をスケープゴート」にするしかないと主張してきた(第172回)。それが、政府与党と野党の双方が大きなダメージを負わず、それぞれの支持層からも一定の納得を得られる「均衡点」だと考えたからだ。
政府与党は、事態の沈静化をひたすら待つ姿勢を貫いてきた。だが、それは国民の理解を得られていない。一方、野党が安倍前首相らを延々と追及し続けるのは、存在しないことを証明させる「悪魔の証明」のようなものだ(窪田順生『愛国マスコミが反日マスコミを糾弾できない理由』)。この問題に政治家が関与した証拠が出てこないからだ。
「カネをもらった」ケースでさえ、その政治家に権限があるのか、証明は難しいのが日本政治の歴史だ。ましてや、「カネをあげた」首相の関与との因果関係の証明である。それはほとんど不可能ではないだろうか(第152回)。
スケープゴートという手段を使いにくくなった理由
この問題が延々と続いていることにウンザリした気分が国民に広がっている。特に、与党のスキャンダル発覚のたびに、政策を放り投げて嬉々として疑惑追及に走る野党の低支持率は、目を覆うばかりだ(第231回)。ゆえに、与野党ともに「財務省をスケープゴート」にする「落としどころ」が必要だと言ってきたのだ。
政治家が、秘書、官僚などを「スケープゴート」にして、疑惑追及から逃れようとすることは、いい悪いは別にして政界ではよく行われてきたことだ。森友学園問題でそれができなかった理由は、安倍前首相の「私や妻が関係していたということであれば、もう間違いなく総理大臣も国会議員も辞める」という国会答弁があったからだ。
これで、政府与党も財務省も、必要以上にかたくなに守りに入ってしまった。野党も後には引けなくなってしまったのだ。しかし、事ここに至れば、与野党ともに「落としどころ」を探らざるを得ない。
赤木さんのご遺族の心中は察するに余りある。世論も納得しないのは当然だ。しかし、政治は自らの関与を否定し、財務省を処分・蹂躙することになるのだろう。
そこで、焦点となるのは菅首相が「赤木ファイル」で安倍前首相を守るかどうかということだ。
菅首相は、安倍前首相を守るのか
安倍政権時代、菅氏は官房長官として官邸に集まるヒト、カネ、情報を一手に握ることで絶大な権力を掌握してきた(第253回・p5)。その権力は、安倍前首相とその周辺が「権力の私的乱用」をして、うまい汁をすすることを守るために使われてきた。一連の隠蔽、改ざん、虚偽答弁とそれらに対するメディアの甘い対応は、菅官房長官の指揮によって行われてきた。
ところが、昨年秋、検察が「桜を見る会」に関して安倍事務所の事情聴取に入ったことに対して、菅首相が「黙認」した。菅首相は、検察もメディアも抑えることなく、安倍前首相を切り捨てたとみえた(第260回)。「赤木ファイル」でも、メディアが安倍前首相への批判を強め、菅首相がそれを放置すると、「安倍復権」への障害になる。
言い換えれば、安倍前首相が「菅降ろし」のような動きを見せるならば、菅首相は即座に安倍前首相の「復権」の芽を摘むことができる。安倍前首相の生殺与奪を握っているということだ。安倍前首相は簡単には動けない。菅首相自ら辞任するような事態にならない限り、菅首相を支えるしかない。
さらにいえば、「赤木ファイル」以上に「河井夫妻選挙違反事件」のほうが、安倍前首相にとって危険である。河井克行被告に懲役3年の実刑判決、案里元被告に懲役1年4カ月、執行猶予5年、公民権停止5年の有罪判決が出て、ともに議員辞職した。
河井夫妻は自民党を離れ、政治生命を絶たれたわけだ。自民党本部から1億5000万円の巨額の選挙費用が投じられたことについて、裏の話を墓場まで持っていくだろうか。ともかく、河井夫妻が何を暴露し始めるかわからない。
この件は、安倍前首相も菅首相も深く関わっていたといわれている。安倍前首相は、菅首相と権力闘争できる状況にはない。
安倍前首相が議連の核となる本当の理由
首相に戻るよりも大事なこととは
もう一つ考えるべきは、安倍前首相が、そもそも首相の座に戻りたいかということだ。安倍前首相の政治家としての「悲願」が憲法改正であり、保守の価値観に基づいた社会の実現であることはいうまでもない(第101回)。
ところが、安倍政権期の政策は、「働き方改革」「女性の社会進出の推進」や事実上の移民政策である「改正出入国管理法」「教育無償化」、子どもから高齢者まで全ての世代が安心できる「全世代型社会保障制度」の構築など、社会民主主義的傾向が強いものだった。
政権を担当すれば、自身が「やりたい政策」よりも国民が望む政策に取り組まなければならないのが現実だ。結局、史上最長の長期政権を築きながら、「悲願」の憲法改正はほとんど手をつけられなかった。
一方、安倍前首相は、政権を担う前と首相を辞めた後の時期に、自由な立場で保守的な言動を繰り返している。かつて、SNSでの過激な発言が問題になったが、現在も「選択的夫婦別姓」「LGBT法案」を推進する稲田元防衛相に対して、安倍前首相が強い難色を示しているという話がある。
安倍前首相からすれば、「悲願」の実現には、なにかと制約の多い首相の座に戻るよりも、自由に発言できる立場のほうがいいと考えるのではないか。
また、安倍前首相は、自らの政権が社会民主主義的な政策に取り組まざるを得なかったことを、実は保守派が自民党内で少数派だったからだと総括しているかもしれない。
なにより、有力な後継者がいない。保守派の次期総裁候補は稲田元防衛相、下村博文党政調会長だろうが、党内の幅広い支持を得る器量に欠ける。まず、後継者の育成が急務だ。
そして、保守派が党内多数派になるように動かねばならない。そのために、安倍前首相は次々と結成される議連の顧問に就任しているのではないか。
もちろん、安倍前首相が3度目の首相登板を決意する可能性がないとはいえない。ただし、そのときは本当に「悲願」を達成するためでなければ意味がない。
実力ある保守政治家を育成し、保守派が党内多数派を形成する。その基盤を整えることで、たとえ自らの3度目の登板がなく、誰が「ポスト菅」となろうとも、保守派が強い影響力を行使して、「悲願」を実現する。それが、なによりも優先されるのではないだろうか。
貼り付け元 <https://www.msn.com/ja-jp/news/national/%e5%ae%89%e5%80%8d%e5%89%8d%e9%a6%96%e7%9b%b8%e3%80%8c%e4%b8%89%e5%ba%a6%e7%9b%ae%e3%81%ae%e7%99%bb%e6%9d%bf%e3%80%8d%e3%81%af%e3%81%82%e3%82%8b%e3%81%8b%ef%bc%9f%e8%ad%b0%e9%80%a3%e3%83%96%e3%83%bc%e3%83%a0%e3%81%ab%e4%b9%97%e3%81%a3%e3%81%8b%e3%82%8b%e6%9c%ac%e5%bd%93%e3%81%ae%e7%90%86%e7%94%b1/ar-AALyjzS?ocid=msedgntp>
以上、ダイヤモンドオンライン
当然、ポスト菅の動きだろうが、日本を本当に愛する愛国政治家が少ないですね。
皆、金儲けのために政治家をやっている連中ばかり、野党は反日のために政治家をやっている。
西郷隆盛が、「命もいらぬ、名もいらぬ、官位も金もいらぬ」と言って明治維新で活躍したが、
その爪の垢を煎じて飲んでほしいものだ。
今、中国から日本を守るために命も名も官位も要らぬという政治家が首相になるべきだが、外国から操られた人間ばかりで選びようがない。