帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第一 春歌上(65)折りとらばおしげにもあるか桜花

2016-11-05 19:11:55 | 古典

             


                                                    帯とけの「古今和歌集」

                                ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――


 「古今和歌集」の歌を、原点に帰って、紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成に歌論と言語観を学んで聞き直せば、歌の「清げな姿」だけではなく、隠れていた「心におかしきところ」が顕れる。
それは、普通の言葉では述べ難いエロス(性愛・生の本能)である。今の人々にも、歌から直接心に伝わるように、貫之のいう「言の心」と俊成の言う「歌言葉の戯れ」の意味を紐解く。

 

「古今和歌集」巻第一 春歌上65

 
         
(題しらず)              (よみ人しらず)

折りとらばおしげにもあるか桜花 いざ宿かりて散るまでは見む

(折り取れば、惜しい気がするなあ、桜花、さあそれでは、宿借りて散るまでは花見しょう……折り取れば・降り去れば、惜しい気がするなあ、おとこはな、いざ、宿借りて・や門かりして、散り果てるまでは見よう)

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「おりとらば…降り去れば…をりとらば…(桜の枝)折り採れば…(身の端)折り取れば」「おしげ…をしげ…惜しげ…愛しさ感じる…愛着を感じる」「か…感嘆・詠嘆の意を表す」「桜花…木の花…男はな…身の端…おとこ」「いざ…さあ…人を誘う時に発する言葉…井さ…おんな」「やど…宿・家の言の心は女…や門…おんな」「かりて…借りて…狩りして…猟して…めとって」「見む…見よう…連れ合となろう」「見…覯…媾…まぐあい」「む…意志を表す…勧誘する意を表す」

 

折り取っては、愛おしく感じるなあ、桜花、さあそれでは、宿に泊って散るまでは、花見しょうよ――歌の清げな姿。

折り取られ降り去れば、愛着感じるなあ、おとこ端、さあ、や門借り狩りして、散り果てるまでは・効能なくなるまでは、見よう――心におかしきところ。

 

この歌も、男の心に思うことを、桜にこと寄せて、清げに言い出した歌と聞いた。添えられてある「心におかしきところ」が、歌言葉の戯れのうちに顕れている。一過性はおとこの性(さが)である、散り尽きるまでは、めんどう見ようというほかない。

 

 (古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本に依る)