帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第一 春歌上(66)さくら色に衣は深くそめてきむ

2016-11-07 19:23:48 | 古典

             


                        帯とけの「古今和歌集」

                ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――


 「古今和歌集」の歌を、原点に帰って、紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成に歌論と言語観を学んで聞き直せば、歌の「清げな姿」だけではなく、隠れていた「心におかしきところ」が顕れる。
それは、普通の言葉では述べ難いエロス(性愛・生の本能)である。今の人々にも、歌から直接心に伝わるように、貫之のいう「言の心」と俊成の言う「歌言葉の戯れ」の意味を紐解く。

 

「古今和歌集」巻第一 春歌上66


題しらず                紀有朋

さくら色に衣は深くそめてきむ 花の散りなむのちのかたみに

題しらず                   紀有朋(友則の父)

(桜色に、衣は深く染めて着よう、花の散ってしまうその後の、形見に・思い出のよすがに……男の色情に、心身は深く染めておこう、おとこ花の散ってしまうその後の、かたみに・片身のために)

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「さくら色…男の色」「色…色彩…色香…色情…色欲」「衣…ころも…心身を被うもの…心身の換喩…身と心」「花…木の花…男花…白いおとこ花…おとこ端」「なむ…(完了して)しまうだろう…強調する意を表す」「かたみ…形見…思い出のよすがとなる品…片見…不満足な見…片身…女の身」「見…覯…媾…まぐあい」「に…ために…(形見の品とする)為に…(喪失感を和らげる)為に…(女性の不満を和らげる)為に」。

 

薄い紅色の白に、衣は深く染めて着よう、桜の散るその後の、形見の品とするために。――歌の清げな姿。

男の色情に、身と心は深く染めて、着けておこう、おとこ花の散るその後の、女の嫌う片見を和らげるために。――心におかしきところ。

 

おとこ花が散った後の男の喪失感と女の不満足感に備えて、日ごろから男の色情は深い色に染めておけよという教えだろう。散った後、又見るのは、一過性のおとこの性(さが)にとって難しい。せめて心身を色情深く染めておけよと。

 

紀有朋は、友則の父。貫之の父とは兄弟。歌は古今集に二首あるのみ。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本に依る)