松涛美術館「穎川美術館の名品展」2016.4.5~5.15
工芸品は全期入れ替えなしでしたが、絵画はほぼ前期後期入れ替え。その後期に行ってきました。
頴川美術館を知らなかったのですが、西宮市にある昭和46年設立の美術館。
江戸時代から廻船業で繁栄を誇った頴川家。そのコレクションがもとになっているのかと思えば、そうではなかった。第二次世界大戦の戦禍で先祖伝来の美術品をすべて失い、その自責の念から、戦後ゼロから収集を始めたコレクションが、この美術館を構成しているそう。
今回見た森狙仙の「雨中桜五匹図」は、頴川徳助翁がいつも傍らにおいたのに、戦争で燃えた「千匹猿」(もふ猿が千匹ですと!?)の思い入れから手に入れたものだとか。そのお話を知ったせいかもしれないけれど、このコレクション全体に、自然や生き物、庶民の四季折々の暮らしを見る、やさしい目線の絵が多かったように思いました。
会場にはまず光琳款「群鶴図」
左隻には水葵が。川の流れもはねるように勢いよく。鶴にもせわしない動きが。
右隻は燕子花。鶴も静かに集まっていて、水の流れも細やかに。
水の波紋は銀で、とても美しい。鶴の目には気高い気品が。
次は漢画・水墨画の章。
長谷川等伯が影響を受けた「牧谿」。今日の目当てはこれでした。
伝牧谿「羅漢図」
が、よく見えない(涙)。画像より本物はもっと判別つきにくかった。
長谷川派の長谷川等雪の「人物花鳥図」には感じ入った。12幅のうちの6幅ずつ展示していました。その3幅。
ふくろうは、等伯の烏梟図のふくろうの顔によく似ている。等雪は江戸時代前期の長谷川派絵師とは言われているそうですが、経歴がよくわかっていないそう。
背景も中途半端なものはなく、鶴の絵の笹は枯れている。鶴もふくろうも、甘さを排した感が。
面する私もしっかり目を開いて(ふくろうにつられて)、正面から見つめてしまった。
もう3幅。
キジの絵は、まっすぐの幹にも雪が積もって、緊張感が。絵の半分以上を満たす余白も、しんと止まる冬の空気。
等雪ってどんなひとだったのか、知りたくなります。
そして南画の章へ。
南画は、これまであまり親しみがなかったのですが、今回は、独自の感性の19世紀南画に感動。南画の魅力に新たな発見。
山本梅逸(1783~1856)の3枚には、びっくり。「芭蕉野菊図」
雅びっていうのじゃないけど、裏返ったり破れたり、芭蕉の葉が魅力的。墨と抑えた色調で、アジアンな芭蕉と日本的な野菊が取り合わせているのが、新鮮。自然が新鮮に描かれている感じ。
「老松群蟻図」には、さらに見が釘付け。
よくよく見ると、蟻がいっぱい!
クセありげな梅逸。自然をまじまじと見ていた人だって気はします。
「柳桃黄鳥図」
梅逸は「描き込みすぎで、描き殴ったような荒々しい筆致が目立つと評されることもある」とウィキに出ていましたが、たしかにその通りではある。でも魅力満開。
この絵では桃や柳よりも、木の足元に引き込まれてしまいました。
雑草がこんなにも生き生きとリアルに。西洋画のようでもあります。
書き込みすぎなんだけれど、それだけ自然のそのままを、小さなものまでみつめていたんだろうと。その性格。普通だったら絵に描かないものまで、描いてしまう。このひと好きかも。
岡本秋揮「桜・雪牡丹図」
繊細な感じにいつも見惚れてしまいます。独自の美意識。
写生画の章は、やはり共感するイメージが多い。
円山応挙「猪図」
かわいい♪。筆目の妙が楽しめる。日本人でよかった。
応挙の「鮒鯉図」も水の表現がきれい。
上からの目線だったり、水中での目線だったりと交錯しながら、水の中にいざなわれる。
柿崎波響「花と鶏図」が見られたのもうれしかった。
蠣崎波響は別日記で触れましたが、アイヌ絵も描いた松前藩の家老。絵を売って前藩の家計を助けていたということでしたが、この画力。納得です。
岡本豊彦「漁樵図」
漁師が単なる景色の一部ではなく、生き生きしている。人にポイントがあるような気がするのです。奄美で出会って以来、気になる絵師。
西山芳園「四季耕田稼?図」も、田おこし、田植え、刈り入れ、脱穀と、日本の一年の風景。
小さく描きこまれた犬も遊び、ほのぼの。このコレクションの優しい感じが改めて伝わる。
近代絵画も、少ないものの、どれもよかった。
竹内栖鳳「瀑布図」
小林古径「梅に鶯図」
地面に足で立って、見上げる鶯があどけない。飛び上がってとまりたいのかもしれないけど、しだれ梅の枝は下に向いていて困っているのかな?。
速水御舟「小春日和」
猫のぺろりとした赤い舌に、少し妙な予感を感じつつも、一見は朝顔が鮮やかに。
でも見るほどに、ヒマワリはもう花の盛りをとうに終え、首を垂れ。葉も枯れてだらりと下がり。そこに巻き付く朝顔も、葉は変色しはじめ、多くはもう種になっています。咲いている二つの花は、最後の感が漂うとともに、自分の中の既視感も呼び起こされる。
和のリアリズム。
でも、葉の枯れてしおれた部分や変色した部分が、金で描かれているのに、感嘆。静かにかすかにきらめいています。
頴川徳助翁の気持ちが感じられるような素晴らしいコレクションでした。
工芸も、長次郎「赤楽茶碗」、本阿弥光悦「黒楽茶碗」本能寺で火中にあったと伝わる「肩衝茶入」などなど。
久々の松涛散歩も楽しかったです。