先日東博で見た川村清雄(1852~1934)の「形見の直垂」が心に残っていたところに、中村屋サロン美術館でも素敵な絵に出会えました。
川村清雄「ベニス風景」
クリアファイルになっていたので、購入したものです。
ヴェネチアの風景画といえばそうなのですけれど、なんだか重たさがなくて、気持ちが瑞々しくなる感じ。
解説には、左側の余白に水墨山水画を思わせるとありました。
1852年、幕臣の家に生まれた清雄は、子供のころから手習いとして南画や花鳥画を学び、開成所の画学局で高橋由一、川上冬崖らから西洋画も学びます。
清雄が画家になることを決意したのは、徳川家給費生としての19歳での渡米がきっかけ。画業のための留学ではありませんでしたが、絵を学びます。二年後にパリへ、24歳の時にヴェネチア美術学校へ入学。29歳の時に、留学の延長が認められずに、帰国。
ヴェネチアでの先輩格でジャポニズムを好んだスペイン人画家、マルティン・リコは、清雄に、日本的なものを失わないようにということを伝えたそうです。
この絵が、日本的なものを意識したのか、それとも幼いころから南画や花鳥画を描いた清雄の自然な感性だったのか。
構図は確かに水墨のような割り方。
でもそれ以上に、私は線に見惚れたのかもしれません。水墨の筆のような潔さ。木の葉には、溌墨のような。空を描く筆は、速さと集中した精神の軌跡のような。
屋根やヨットの帆、雲などは、塗り込めず下地の色を活かし、筆目を残しているのも、日本の古い絵に通じるような。
水墨や掛け軸や屏風が、余白を残してなにも塗らず描かず、それでもその余白に世界や気配が広がっているのは、構図のなせる技だけではなくて、花鳥や山水などを形づくったその線の意思が、筆を下ろしていないその先までも見せる力があるからではと思ったりするのですが、
清雄の線も、そんな力があるように感じ、目で追うと心地よかったです。墨が緑や白の絵の具に変わったかのような、一心の勢い。
清雄の絵は西洋画なのだけれど、系譜ということでいうなら、室町や江戸中期への流れにあるのではと思うくらい。
数年前には清雄展が続いた時があったというのに、知らずに残念。
ちなみに、マルティン・リコがヴェネチアを描いた作品も魅力的。(ウィキペディアより)
La Riva degli Schiavoni en Venecia (1873)
マルティン・リコの他の絵も、画像で見る限りですが、なんだかとてもよさそうです。