情報と物質の科学哲学 情報と物質の関係から見える世界像

情報と物質の関係を分析し、波束の収縮問題、心身問題、クオリア、時間の謎に迫ります。情報と物質の科学哲学を提唱。

量子測定はどの段階で終了するのか?

2019-05-12 14:37:23 | 情報と物質の科学哲学
粒子検出前の領域には粒子に関する物質現象は何もありません。
この領域における粒子の状態は未確定で、それを記述するのは波動関数のみです。
 
測定前と測定後におけるこのような質的違いは、量子力学特有のものです。
古典力学では、測定前と測定後の何れにおいても物質現象は存在します。
 
測定器以降の領域に対して波動関数を適用すると次の困難が生じます:
観測者や測定器と観測者を含む外部世界を波動関数の対象としなければ
ならないからです。
理論的には可能かも知れませんが意味のある結果は出ません。
そもそも、方程式を解くための初期条件が決まりません。
 
観測問題の研究者が波動関数の対象をどの範囲にするのかは恣意的です:
並木美喜雄『量子力学入門-現代科学のミステリー-』、岩波新書210(1995)
 
ハイゼンベルクは、測定過程に関して次のように説明しています:
(河野、富山訳)『現代物理学の思想』、p.33、みすず書房(新装版1989)
 
測定前: 可能性の世界(波動関数による記述)
測定後: 現実の世界

そして、「可能」から「現実」への移行が観測をしている間に起こる。(引用終わり)
 
この説明は、測定前と測定後の事象全体を時間の流れと共に捉えています。
しかし、測定前の領域に対して流れる時間を適用することはできません。
何故なら、測定前の領域に対する記述は複素数である波動関数という抽象的な記述
だからです。
測定前の抽象的な記述に対して流れる時間を適用することはできません。
 
従って、「可能」から「現実」への移行というハイゼンベルクの主張には無理があります。
この主張が観測問題や解釈問題という擬似問題をもたらしたのです。
測定前の非物質的事象と測定後の物質現象とは分離して議論すべきです。
 
以上の状況をモデル化したものを示しますす:
 
粒子の検出過程は、以下の三つからなります:
(1)検出前に関する部分
 波動関数による抽象的説明です。
 最も簡単な場合、二つの状態ベクトル(複素ベクトル)が重なった状態です。
 ここに流れる時間を適用することはできません。
 
(2)検出現象に関する部分
 検出器はマクロな物質なので波動関数による説明は事実上不可能です。
 最も簡単な場合、二つの状態ベクトルのいずれかに対応する物質現象が生じます。
 
ここで注意すべきことは、観測者の有無は(1)(2)については関係ないことです。
 
(3)検出信号発生に関する部分
 二つの異質な説明が必要になります:
  (イ)信号発生の物質現象に関する物理的説明
  (ロ)信号が運ぶ検出情報に関する情報的側面
 
観測者の存在は、(ロ)の検出情報の読取りの場面で初めて関係します。
観測者が検出現象(2)に直接影響することは不可能です。
 
ノイマンやウィーグナーらは、検出過程がこれら異質な部分から成ることを無視しました。
その為、測定に主観あるいは意識の関与を持ち込み、観測問題に無益な混乱をもたらしたのです。
 
物理学者は、測定器以降の現象も物理理論のみで説明できると錯覚しています。
しかし、別のブログで説明したように測定値は情報概念であり、この概念は物理学の
説明対象から逸脱しています。

「量子現象の測定がどの段階で終了するのか」は、観測問題に関係します:
町田茂
 『量子論の新段階-問い直されるミクロの構造-』、フロンティア・サイエンス・シリーズ、
  丸善(1986)
 
物理学者は、測定器における物質現象については詳細に分析しています。
しかし、測定器が物質現象として情報を定義し創発していることへの理解が
ありません。
そのため測定がどの段階で終了するのかについて見解が分かれるのです。
 
測定と測定値の読取りは別の行為です:
(1)測定結果を何らかの媒体に記録したり遠隔地に送信したりする場合
(2)測定値の読取りがいつ、どこで、誰によって、どのようになされるのかは
観測者の都合で決まります。
 
このような状況を想定すると、
「測定器から測定値情報が出力された時点で測定は終了する」
と考えるのが合理的です。
 
詳細は、パソコンサイト 情報とは何か 情報と物質の関係から見える世界像 を是非ご覧ください!


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