赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』

すでに生起して戻ることのできない変化、重大な影響力をもつ変化でありながら一般には認識されていない変化について分析します。

イスラエルとハマス①――ネタニヤフ首相の責任

2023-10-18 00:00:00 | 政治見解



イスラエルとハマス①――ネタニヤフ首相の責任 :231018情報

激動する中東情勢、国際政治学者の解説です。


ハマス奇襲攻撃を受けて、イスラエル側が全く準備できていなかったということで、国の最高責任者であるネタニヤフ首相の責任は非常に重大だと思います。

彼からすれば今、戦争の責任者となって報復戦をやるわけですから、そこにおいて戦争の指揮を執って成果を上げれば自分は国内の司法改革の問題で反対派が多くて、ネタニヤフ政権自体が風前の灯であるという感じもあるわけです。それを何とか乗り切って首相をより長く務められるし、自分の権力維持ができると言って張り切ってやっている側面もあると思います。

この危機を逆利用して自分の力を強めようということになるかもしれませんが、なぜタカ派で対テロの専門家と言われていたネタニヤフ首相が敵の奇襲攻撃を許してしまったのでしょうか。この責任は重大であり、ことが落ち着いたらイスラエル国民から厳しく糾弾されるでしょう。

そのことに関して言うと今回は世界に誇るイスラエルの諜報機関「モサド」も、ハマスの攻撃を予知できなかったということで反省すべき点があると言われていますが、それは正しい情報ではありません。諜報部や軍は警告していたのです。イランは危ないから、ヒズボラやハマスも連携してイスラエルに攻めてくる危険性もあるということについては、十分な警告をしていました。

しかし、ネタニヤフ首相としては国内で反ネタニヤフのデモが連日で起きていたことに関心を持っていたのです。そうすると国内治安の方に気を取られて、そちらに集中していて国際的な安全保障の中でも特にハマスからの攻撃については、目配りができていなかったのではないかと言われています。

例えば、今回イスラエルのインテリジェンスがうまくいってなかったということにおいて、一般的にいくつか言われていることがあるのです。

一つはレバノンのヒズボラの方はイランが同じシーア派ということで応援しています。かなり力を持っていて組織力もあるということで、ハマスよりはヒズボラの方に重点を置きすぎていたのではないでしょうか。それでイスラエルはハマスの動きが掴めなかったのではないかという反省があると言われています。昨今のハマスは派手な動きをしていなかったので、警戒を緩めていたのではないかとも言われていました。

2番目としてイスラエルはハイテクな国ですから、携帯電話や様々なコンピュータ通信などを傍受するといったサイバーインテリジェンスは非常に優れています。シグナルインテリジェンスを略してSIGINTという言い方をするのですが、それに対応する形で言えばHUMINTというヒューマンインテリジェンス、いわゆる人間のスパイを送り込んで情報を得るといったところが甘かったのではないでしょうか。

要するにSIGINTに頼りすぎていたのではないかと言われています。むしろコンピュータ通信も携帯電話も使わないで、古い形ですが手紙を出したり、直接人間が会ったりして、今回の奇襲攻撃が練られていました。だから、イスラエルが情報を掴みにくかったのではないかという説があります。SIGINT、サイバーインテリジェンスを過剰重視して、HUMINTなどの重要性を忘れていたのではないかと言われているのです。

3番目として「アイアンドーム」というミサイル迎撃システムが今まではうまくいっていたのですが、今回はこれが機能を発揮していなかったのです。そもそも20分間に5000発もガザ地域からイスラエルにミサイルが飛んでくるという飽和攻撃(飽和爆撃)の場合は、すべて撃ち落とすことができません。元々技術的にそういうことは不可能であって、これはアイアンドームの欠点でもあると言われています。

ただし、SIGINT過剰重視説やヒズボラだけを見ていたのではないかといったことは、当てはまらないようです。1973年10月6日はヨムキプール戦争と言って、第4次中東戦争が始まった日でもあります。この第4次中東戦争というのは序盤戦でイスラエルが負けて、その後、頑張って逆転したのですが、このときもサプライズアタックでイスラエルはやられてしまいました。初戦では敗北を被っているわけです。

第3次中東戦争は「6日戦争」と言われていて、イスラエルが圧倒的に強かったのですが、そこで今度は73年の10月6日にエジプト軍はスエズ運河の方から来て、ゴラン高原の方からはシリア軍が連合して挟み撃ちで攻めてきたため、初戦はイスラエル軍が非常に苦戦します。それから戦争は10月24日には停戦になって、イスラエルはそこで勢力を盛り返していたのですが、どちらにしても10月6日前後は危ないと言われていました。

そして、まさに10月7日の朝にハマスの奇襲攻撃が起きています。そういうレポートは政府の中であったけど、ネタニヤフ政権がそれに対応できなかったというのが実態のようです。

また、これに関してはウクライナの横流し兵器がハマスの手に渡っていたのではないかとも言われています。その可能性は、かなり高いでしょう。ウクライナも西側から兵器援助をもらっているのですが、以前からウクライナの中でマフィア的なものが横行している社会です。

だからと言って、もらった戦車を横流しするわけにはいかないでしょうが、兵器をアンダーグラウンドの世界の闇マーケットで捌いてマフィアが儲けているといったことも言われていたました。それがハマスの手に渡っていたとしても不思議ではありません。そういった情報も出ています。

それから、ウクライナ戦争の悪影響ということで言いますと、ウクライナ支援のためにイスラエルは兵器が不足していて、現状として最低限のものしかないということで反撃するにしても、大変な状況であると言われています。

このタイミングでの攻撃ですから、当然ながらハマスがやった政治目標は何かというと、イスラエルとサウジアラビアの正式な国交樹立を阻むものです。これは間違いないことであり、多くの中東専門家も指摘しています。

ところが私はハマスの背後にイランがいると思っていて、サウジアラビアもイスラエルも両方とも敵視しているのがイランです。サウジアラビアとイスラエルが国交正常化してしまうと、イランが益々孤立化して苦しくなります。イランがハマスをけしかけて実行したのではないかという観測が非常に濃厚です。

しかし、長期的にはイスラエルとサウジアラビアの国交樹立を阻むハマスの行動は裏切られて成功しないと思います。これを大きな力学から言ったら、イスラエルとサウジアラビアの国交正常化をした方がお互いに良いです。そういう大きな国益の判断を妨害することは長期的にはできないでしょう。もちろん今の紛争が続いている限りは、それはできません。サウジアラビアとしてもパレスチナを支持すると言わざるを得ないということです。

こういう攻撃をハマスがやることによってガザ地域にイスラエル軍の報復攻撃が行なわれて、イスラエルは国軍36万人を動員しています。まもなく、このガザ地域に入っていき地上戦が始まるでしょう。既に空爆が行なわれています。空爆では民間人被害者も出ているところで、イスラエルをハマスが攻撃すれば報復があることもわかっているのです。

非常に狭いガザ地域には200万人が住んでいます。この地域は世界一、人口密度が稠密なところの一つとも言われているのです。そこで空爆が行なわれたら、必ず被害者も出ます。またハマス側も民間施設の間に自分たちの軍事施設や政府軍事部門の基地に当たるようなところを置いています。

要するにイスラエルが反撃してくれば、必ず民間人に被害が出るような形で配置してあるわけです。そして、イスラエルが民間人を殺したと言って非難するという流れでしょう。それでイスラエルも非常に戦争やりにくいのですが、ハマスはイスラエルの報復があることを承知の上でやっています。しかも、今回は非常に残酷なことを一般市民に対してやっているのです。その報復を引き起こしているのはハマスであるとも言えます。そのことも忘れてはいけません。

日本のマスコミの傾向として、初めに攻撃してきて戦争を起こしたハマスを非難するのではなく、それに対して反撃しているイスラエルを残酷だと言って非難する完全に誤った報道姿勢があります。これは間違っているということは十分に申し上げておいて良いでしょう。



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