☆中之島香雪美術館 サイト
特別展『香のいろは―道具とたどる香文化』 ※会期終了
茶道を習っていると、花月とか七事式といった5人以上で集団方式で行う稽古もやることになる。
その中で、お香を焚いて回し聞きする「聞香(もんこう)」もやらねばならなくなって、
その素養は覚えることになる。
私が知ってるお香の知識はその程度。
青年部に入っていた時、香道の講師を招いて聞香体験行事に1度参加した。
そんな聞きかじりの初心者だったので、この展覧会はとても興味深かった。
まずは香道具の紹介。
日本における香道の歴史は古く、仏教の伝来と供に唐から日本に伝わったそうだ。
柄杓のような形状の「柄合子」という手で持つ香炉は東大寺や正倉院展とかで見かけた。
ここで展示されていたのは唐招提寺に伝わった蓮華形柄合子も唐のもの。(白鶴美術館所蔵)
「おぉ~」と圧倒される。
展示物の合間にはパネルで解説展示もあって、これがとても分かりやすい。
パネルによると、奈良時代に伝来したお香は「空香(そらもの)」といって、薫物(たきもの)のお香だったそうだ。
つまり、現在の練香(ねりこう)。
これが平安時代になって大流行しただそうな。
藤原範兼による「薫集類抄」という書物もあるそうな。
練香といえば、茶道では炉の炭手前で用いる。炭を継いだ後に温灰(ぬくばい)のところに一つ焚く。
ゆえに馴染みがある。
やはり、青年部行事で松栄堂に入って練香作り体験に参加したなぁ。
いろんなお香を混ぜて、すり鉢で練り練りして、最後に蜂蜜で固めて丸薬のように丸めた粒を幾つも作ったっけ。
座学では様々な香木などに触れたり、においを嗅ぐ体験も面白かった。
そんなことを思い出しながら、薫物のお香を使うお道具をみると「なるほど」と思う。
香枕や伏籠は薫物だよね。
香炉の上から金属で編んだ伏籠(←六角形の亀甲の網目も美しければ枠の蒔絵も素晴らしい)を置く。
実際はこの上から着物をかぶせて、着物に香りをしみこませるのだ。
香枕も箱に引き出しに入ってる構造で箱には格子状の隙間があいていて、引き出しに入れた香炉ごしに香り立つ。
香枕は直接に頭をのせるのではなく座布団のようなクッション系のものをのせてから枕替わりに用いたようで。
直接には目に触れないのに、箱の蒔絵のなんと凝ったこと!
そんな豪華な香枕が3つばかり並んでいて、なんとも雅だった。
中には脇息(きょうそく)もあった。時代劇で見かけるのと違って、ちょっと縦長。
あと大きな風鈴(地球儀みたいな?)透吊香炉もすごかったぁ。
これら香りを楽しんだ香道具はいずれも江戸時代の作だったけど、
きっと平安時代からお公家さんや高位のお武家さんの生活の中で綿々と同じ形状で用いられたのだろう。
そうして、鎌倉時代になって香木ほか塊になったものを切り取って、小さな片として灰で温めて香らせたものを楽しむ聞香が伝わった。
中国の王朝は宋か明といったところか。
塊を破片として切り取る作業も「道」の一つとなったことで、香道具。
それらを収める香箪笥もできちゃって、より大規模に、そしてより豪華に発展していく。
(江戸時代には大名家の婚礼道具の一つになるくらいに)
香道が発達したのはこういう背龍涎景があるのだろうなぁ。
博物館や美術館でモノを鑑賞したことがあったけど、一つ一つの道具や用途に注目したことなんてなかった。
今回はパネル展示を見ながら、道具の名称を確認できた。
まず「打ち出の小槌」で認識している小槌があるのにびっくりした。「香槌」というらしい。
「香槌」の他には「香鉈」「香鋸」「香鑿」とあり、以上4種が切り取りセット。
「切る取る」ということを想像してみると、確かに鉈や鋸、鑿は必要だな。槌だけよくわからん。叩く?なぜ?
切るとる対象の塊の種類もずらっと。
沈香、白檀、麝香、龍涎香、貝香(←巻貝だそうで、保香剤として使ったらしい)、零陵香(バラ科の草)、
藿香(かっこう)(南方のシソ科の多年草の葉)といった知ったものから知らないものまであって興味深い。
沈香は樹皮、白檀は木、麝香は鹿(ジャコウジカといって、種が限定される)の腹部のアソコのナニ。
といったことは松栄堂の体験会で聴いた座学で学んだけど、龍涎香って?
龍涎香とはマッコウクジラの結石なんだって!
なんでそんなものを少量焚くといい香りがするって、わかったんだろう?
(最初は海に死骸が打ち上げられて~ ってとこか?)
フラスコで香り体験できるコーナーもあったけど、新型コロナ対策でそれは展示だけになっていた。(残念)
そして、忘れちゃならない名香も。
六国五味(りっこくごみ)。
灰形の稽古しながら、先生がいきなり「六国とは~」と講義を初めて困惑したなぁ。
6つの香木。伽羅(きゃら)、羅国(らこく)、真那伽 (まなか。マラッカ産) ,真南蛮 (まなばん) ,寸聞多羅 (すもたら。スマトラ産) ,佐曾羅(さそら)。←ぐぐれば出てくる。
5つの香味は甘、酸、辛、苦、鹹(かん)。
そして、これらの香りを楽しむ人々の光景も展示されていた。
江戸時代の菱川師直の「美人焚香図」、作者不詳の「邸内聞香図」、伝菱川師宣の「美人聞香図」など。
楽しんでいるのは女性だけど、男性の髪に香炉を近づけて、香りをつけている絵もあった。
そして、最後は香道の聞香をして香銘をあてる「組み香」で使う道具。
私は且座でやるくらいなので、そこで用いられる道具ぐらいしか知らないけど、
香道はもっと複雑。当然のことながら見慣れない道具に興味がわいた。
そして、硝子盤のギンヨウは「銀葉」という漢字をあてることを初めて知った。
日時計みたいな香番。源氏香のような複雑な場合の記録に用いる。パネル展示で用途を理解し、感心しちゃった。
貯金箱みたいな容器は札筒。
小棗みたいな容器は焚空(たきがら)。字の通り焚き終わった香木や銀葉を入れる。
且座では三段の容器の一番下の段に入れるけど、こういう独立した容器もあるんだぁ。ふうん。
お香を焚く為の香炉の熱元となる炭団を収める炭団箱というのもあって、びっくり。
ストックするためだけの容器にこんなに凝った蒔絵を施した箱にするなんて、なんて贅沢な。
そんなこんなでお香と日本文化のかかわりがよっくわかった展覧会で、たいへん楽しかった。
「家に帰ったら、香炉の灰形の稽古をやりたいっ!」と無性に思ってしまった。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、展示期間が大幅に短縮されてしまったがたいへん惜しいことだ。
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