陽だまりのねごと

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ささらさや

2006-08-23 04:33:54 | 
ささらさや

幻冬舎

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ささらさや なんだか呪文のような題名に惹かれた。
ホラーじみた話かしらん?
ホラーにしては装丁の絵がやさしい。すこし乙女チックでもある。

ひとりでは生きてゆけないような頼りない妻と
生後間もない赤子を残して交通事故で夫が死ぬ。
夫は心配のあまり
一人の人に一回乗り移れると言うルールで
時折、妻を助けにやってくる。

私も何度、主人公のさやのように
蛇口の壊れた水道のように泣いただろう。
涙腺のゆるむ時は、ふいにやってくる。
小さな刺激で、まるで泣きなさいスイッチが入ってしまったかのように
悲しみのエアーポケットに落っこちたように、
はまり込んだらもうダメ。

ふたりで築いていた家庭を一人に任されて、
不安で不安でしかたがなかった。
何か重要な決め事には必ず夫の判断を仰いでいた。
世間の防波堤で夫が居てくれた事が、居なくなって痛切に身に沁みた。
被3号保健者から一気に戸主になってしまった。
扶養家族だったのに、自分に扶養家族が付いている
現実の保険証に身震いがした。

私の夫は夢枕にさえ一度も現れてはくれなかった。
この小説は
逝く者、残された者どちらの願望の形のよう。

赤ん坊の首がすわり、ハイハイをし、捕まり立ちをし、
突発性湿疹の高熱を出し、
1年の成長が新米ママの不安と共に昨日のような記憶として
読み手の私にもよみがえってきた。


馬鹿っさや、弱虫さや、泣き虫さやと呼んでいた妻は
不器用でも何とか問題を解決してゆく力を持っている
むしろ中途半端に現れる自分の存在が
いつまでも一人立ちさせない邪魔な存在になりそうだと気が付いたから

そして佐々良と言う土地、とりまく人たちの力もしっかり助けになると
分かったから

赤ん坊のユウスケのはじめての言葉『パパ』を最後に
夫は安心をして黄泉の国へ旅立つと言う。


8月18日。死んだ夫の来ない5回目の誕生日だった。
9月22日。最後の呼吸をした日。

9.11は死線をさまよっていて、
翌日、意識の戻った夫とTVで知った。

 『これからたいへんな世の中がきそうだ』

たいへんな世にまだまだ生き続けそうな言葉が重かった。


夫の仏壇の前で、なぜ残していったのか、なにもかも私に放置してと
恨み節で泣いた日もあった。
今は、大丈夫でないけど、大丈夫。
100満点で生きられないけど
えっちらおっちら落第せずに
かろうじての『可』で
この世を泳ぎきる自信が出来てきた。

たしかに周りの人たちに随分助けられた。
頼ってはいけないけれども、
何かの時にはお願いできる人たちの存在はありがたい。
ひとりで生きていると言うのは
無理な力みや思い上がりだろう。

すべての寡婦に勇気をくれそうな小説だった。
寡婦仲間に教えてあげよう。

 さらやさら

住んでいる地名と名前とをくっつけた
作者のネーミングのセンスがまた
とてもいいわ~