その日は、薄曇りの少し寒い日で小雨が降っていたので、傘を持たねばならなかった。
電車のなかは、生ぬるく中途半端にエアコンが効いていて、乗り合わせた人々やその街の匂い、雨の湿気が入り交じった、特別な冬の匂いが漂っていた。
私は、本町駅の7番出口で降りて、地下鉄の階段を駆け上がり待ち合わせのホテルまで急ぎ足で向かった。
と、ここまで読んだら、あら、どんな衝撃的なお話が続いていくのかしら、と思うのかもしれないが、その期待には反して、ごく普通のありふれた、ある休日のことをこれから書こうと思っているので
肩の力を抜いてホットココアでも飲みながら、少しくだけたくらいの調子で読んでもらっていっこうに構わないから、(余計なお世話よね)と言っておこう(笑)。
セントジレス大阪。
御堂筋の通り沿いから見えているのは、パリのカフェテラスのような籐の椅子とテーブルが並ぶフレンチビストロの「ル ドール」だ。
私はそこからぐるっとホテルを半周して船場センタービルの方角であるメインの玄関口から入り、案内に従って1階のエレベーターの前に置かれた
長いすの前で友人を待っていた。
3分ほどすると、彼女はやってきた。
ブルーグレーのワンピースに軽いコートを颯爽とはおり
「すいません、お持たせしてしまいました?」と。
ここにも以前書いたことがあるコピーライターの元同僚である。
ふたりで向かったのは、セントレジス大阪12階のイタリア料理「ラ ベデュータ」。
広告・印刷業界は通常、11・12月が一年中でも指折りに数えるほどの忙しさなので、ここは、「秋休み&クリスマス休暇」を兼ねるくらいの勢い(の、つもり)で、
女ふたりちょっぴりセレブなランチを予約してしまったのだ。
セントジレス大阪といえば、
昨年船場のレストランで夜のごはんを食べた後、クリスマスツリーを見るためにわざわざ立ち寄ったほど、
好きなホテルだ。というのは、以前に家族でバリを旅したとき、私はセントレジス・バリリゾートにてスパ(ルメードゥ) スパ」を体験し、
興奮と歓喜に充ち満ちた素敵な思い出などもあったりして、
勝手に幸福な妄想がむくむくと膨らむ特別なホテルなのである。
イタリア料理「ラ ベデュータ」。
イタリアの田舎地方にある別荘を彷彿させるというコンセプトの空間は
外からの光をたっぷりと取り入れ、開放感のあるダイニング。
天井から吊された照明や狩猟モチーフのあれこれなど調度品が重たくていい。
ちょっとした小さなところにも、ヨーロッパのエスプリが仕込まれ、でも豪奢すぎるところが全くない
温かな造りのレストランだ。
さあ、今日は「トラディッツィオーネ」(3,800円)をオーダー。
まずは再会をシャンパンで乾杯!
臨場感あふれるオープンキッチンをチラリとみながら、いろいろ話した。
一皿めは、「サーモンのマリネ 赤パプリカのセミフレッドを添えて」。
ジュノベーゼソースをチョンとつけて頂いた軽やかな食べ心地のマリネ。
冷製だから、新鮮さが際立っていた。
次は、温か~い北イタリアの、家庭的な味わいに仕立てられたスープ、
「野菜たっぷりのミネストローネスープ ラ べデュータスタイル」で、
この季節にぴったりの、やさしい味わい。
パスタはそれぞれチョイスし、
私は「ムール貝のグラニャーノ産リングイネ」を、
友人は、「イタリア産黒オリーブのトマトスパゲティ、魚介を添えて」。
そしてコーヒー&紅茶とともに
好きなデザートをいくらでもオーダーバイキングで召し上がれる、フィナーレという構成である。
アールグレー紅茶のソースがかかった
「柿といちじくのデザート」は最高においしかったな。
「三種ジェラートとフルーツの盛り合わせ」もよかった。
お料理としてハッと意表をつくほどの斬新さは正直なかったが
あくまで基本に忠実に、家庭的なあたたかい味つけが施されている
居心地のいい安らかなレストランだと思った。
接客は自然で、笑顔と親切心が感じられて、それらが行き過ぎないところにも好感がもてた。
周りの雰囲気も手伝ったのか、旅先のどこかで友人と再会して
ゆっくりごはんを食べているような錯覚になったのが面白かった。
ホテルを出ると4時少し前。
歩きたい!という衝動にかられて、
本町から北浜までOSAKAの街を散歩
する。
友人は事務所も自宅マンションもここOSAKAの中枢にあって、
都心生活を謳歌して暮らしている。
だから抜け道やセンスの良いショップの情報にも詳しいのである。
この日は、北浜プラザ1階の「リネンバード」と「エヴァムエヴァ」をひやかして、
温かそうなカシミアのスヌードやホームウエアなどに心惹かれながら、
インテリアショップ "Visions(ヴィジョンズ)"へ!
〒540-0039 大阪府大阪市中央区 東高麗橋6-2-1 F 06-6944-4777
http://www.v-i-s-i-o-n-s.com/
ここは、フランス(南仏)を中心に買付けた食器やアンティーク・ブロカント、アート、バッグ、小物雑貨が実に美しくコーディネートされていて、
見ているだけで吸い寄せられるような素敵なモノたちに、癒された。
そして、な、なんと衝動買いしてしまったのがこのバッグ。
ブルーグレーのような、薄いラベンダーカラーのような微妙なニュアンスが
きれいだなあ、と思って手にとってみたら離れがたくなってしまったのだ。
本当に私自身の欲しいモノを買ったのは久々。夏以来かも。
神様ごめんなさい、受験生の親として全く自覚がない、不甲斐ない私なのであります。
この日のOSAKAはいつもと違う。
灰色の空と濡れた道路に、冬仕立ての
イルミネーション。
きっと12月まであとわずかという、華やかさやドキドキ感が街に溢れていたように思う。
仕事で歩く時とは別の顔をもった、
異国のようなしっとりとした表情で
迎えてくれていた。