月の晩にひらく「アンデルの手帖」

writer みつながかずみ が綴る、今日をもう一度愉しむショートショート!「きょうという奇蹟で一年はできている」

2012 正倉院展の回想

2012-11-21 20:43:35 | どこかへ行きたい(日本)


窓から見える景色は、六甲山脈の尾根の向こう側まで一面に紅葉の森だ。
紅葉は一日で燃え上がる、というのをここに暮らしていると毎年、体感する。
ゆっくりゆっくりと木々が染まるのではなくある日、目覚めたら山々が「朱」に燃え上がっている。
自然の一日の変身はすごい!いよいよ本格的な紅葉がはじまった。


さて、10月の中旬から仕事がたてこみ始めて、
今は4つの案件を同時に進めている。
キャパの小さい私にしてはかなりハード!

しかも、その合間を縫ってものすごく魅力的な遊びのお誘いが入ってくるので、それらの一部を1週間のなかに無理やり押し込め、
スケジュールを組み直したりして、またまた自分で首をしめる。

先週はスケジュールがパンパンなのに、歴史好きのご近所ママに誘われて「正倉院展」へ行ってきたし、
土曜日には、お世話になった先生が主宰する「コーチングワークショップ」にも出掛け、日曜日は、撮影のロケハンで一日中外出だった。

まず正倉院展の話を忘れないうちに少し書いておこう。

11時半に奈良に到着して、まず向かったのは
蕎麦「百夜月」だった。
(奈良市中月町38、0742-24-5158 11:30~14:30 17:30~19:30(火は昼のみ))。

東向北にあるしっとりした店構え。石臼引き自家製粉の手打ちそばを看板にする。
大阪・大正の「そば切り凡愚」に影響を受けたという店主が打つそばは正統派で、
北海道産の蕎麦の実を使い十割か二八かを選べ、野菜素揚げ天そば(写真)やおろしも美味しい。


この日は、私が鴨そば。
友達は野菜素揚げ天そば。



奈良市内で蕎麦といえば、やっぱり今西家書院の離れ(室町時代の書院造り)で食べられる「玄」がオススメだが、「百夜月」は駅前なので利用しやすい。

若いご夫婦の接客も感じがいいし、
趣味のいい器で供してくれるのが私には好感がもてる。



奈良国博に行く前に、同伴の友人に「奈良女」の記念館(明治41年建設)を紹介。

水曜日だというのに、学生はどこにいるのやら。ひっそりした大学だ。

「ここは時間が止まっているままだね。
私はこういうの好きなんだけど卒業してから、
大阪や神戸の大学出身者と就活で闘うのが怖いなあ」
と一昨年前になっちゃんが話していたのを思い出した。

さて、正倉院展は、40分ほどの待ち時間で入場できた。

人、人、人の列のなかで、人の頭越しに背伸びをして、
ガラスケースのなかに収まった天平時代の宝物の数々をみせていただいた。



写真が撮れないのでポストカードで。

一番のお目当ては、「螺鈿紫檀琵琶(らでんしあんのびわ)」かな。
聖武天皇が愛用した弦楽器で、紫檀で描く曲線のなめらかな輪郭。
背面に貝とウミガメの甲羅で作った花や鳥、雲など
自然の造形がユーモラスな模様にはめこまれていて、キラキラと輝いていた。

眺めるだけでこれほど綺麗なのに、これを天皇や貴族が奏でるのだから、さぞかし優美なことなのだろうな。

また、今回特に印象に残ったのは、天平人の遊戯具である。
木画紫檀双六局(もくがしたんのすごろくきょく)。
いわゆる「すごろくのゲーム盤」。なんて風流なゲーム盤であること。
側面に鳥や草、上面には細く折れそうな三日月が描かれていて、
ゲーム盤のたたずまいのなかに、どこか宇宙的なものを感じた。

乳白色や瑠璃色、朱色などのガラスのコマや象牙のさいころもたくさん展示されて、
ひとつひとつが美しくて。

動物の皮をめぐらした小さな銅色の箱。

巻物を読むための書見台。

お香を焚くボールのような銅薫炉(どうのくんろ)は、銅版をくりぬいた透かし彫りの細工が精緻であって、
コロコロ転がしても火や灰がこぼれないようになっているそうである。

瑠璃杯の色も、これがシルクロードの碧なんだろうか。
1時間待ってみたけれど、少し暗い碧だ。
展示ケース下にライトを仕込んでもよかったのではないかしら。

ともかく、1250年前の貴族の暮らしぶりを、
調度品や楽器、器などの用の美を素に、
あれこれ連想して、思いを巡らせる、
そのこと自体が愉しい。やっぱりここが奈良だから。
安易というか、自然とそれができる。


このあと、興福寺の特別公開「仮金堂」を見て、
3年ぶりに公開された厨子入り吉祥天倚(きっしょうてんい)像(重要文化財)と大黒天立像にもお目に掛かって、
それからお決まりの「奈良ホテル」ラウンジでティータイム。






荒池のまわりに繁る紅葉の海はライトアップされていて、夕方から夜に移り変わっていくさまをここでゆっくりと味わった。

(まだ、この時は奈良公園の木々は色づいていなかったので)

今回の奈良行きで感じたのは、
奈良女の「講堂」(明治41年建設)にはじまって、
宮廷建築家の片山東熊設計が明治27年に竣工した「奈良国立博物館」、
明治42年に建設された桃山御殿風檜造りの「奈良ホテル」と、
同じ明治期のクラシックな洋風建築を訪ねて、建物の木々が放つ、
歴史ある空気感のなかにいる気持ちのままで、
古いきれいなものを沢山見られたのが有意義だった。

古いものたちは、静かで気高い。どんな歳月もずっーとくぐりぬけてきたものだけがもつ優しさと、そして強さが備わっている。
その美しさ、そのユーモラスたるや、今の時代のどんな天才だって真似できないなあ。

時々はこんな崇高な美意識にふれて、沈滞するあれこれの思いを浄化していきたい。


帰りは、奈良駅近くのベトナム居酒屋「コムゴン」で、ビールとベトナム屋台料理で〆!!
バーバーバーは、最高だ!



ここも使いやすい、よく利用する店。コスパがいい。今回はオーダーしなかったが生春巻がおいしくて、もう4回くらい通っている。



ああ~また行きたいなあ「奈良」。
「なら」という音は、古代の朝鮮半島の言葉でも国とか故郷を意味するそうである。