夕方から雨が降ってきた。6月の雨と5月の雨はあきらかに違う。
この時季のほうが、緑がわさわさと嬉しそうだ。葉っぱの先から枝、土の奥深くまで水の力を、ごくごくと吸収しているように感じる。
デスクの前の、葉っぱたちが唄うたっている。
さて先日の続き、岩茶房「ことり」でのイベント第二部を。
第一部は(南条好輝ひとり語り 近松門左衛門の世話物24話「心中天の網島」。
5時からは、「ことりでお食事」ーーー。
岩茶とともに、マーラーカオやミルク饅などの軽食はいただいたことがあったものの、食事とはお初の試み。
ワクワクしながら、その時を待つことに!
表に出て、ちょっとだけ界隈を散歩。
お濠の側は緑も自然もいっぱい。器屋さんを1軒のぞく。
それでもまだ少し時間があるわね、と玄関先に出て話していると、
ふと背後からニヤッと笑う誰かの気配が。
そして。「お久しぶりでございますねーーー!」とテノールで声を掛けられ、ギクリ、
そこにはあらま、懐かしい中年のおじさまが。
まぁ谷村新司似といえば、私を知る人はたいがい「ぷっ!」と吹き出して、オーバーリアクションすること間違いなし、
最後の職場での大先輩のそのお方が奥様とご一緒に。
ともあれ、14年ぶりの再会でした。
帰り際までに3回くらい会話したので、互いに懐かしかったのでしょうか。やはり広告業界の方は気が若い。
1年ほど前にガンを患い、死の床をさまよったとおっしゃるが、そんな風には微塵にも感じさせない、おでこの上のつややかさ(笑)。
もう70才も近いはずだが声はよく響き、谷村モード全開。
いつもの、ずっこけジョークを期待したものの、いたってダンディー風でありました。(やはり奥様の前ではこうなのね)。
さて、食事である。
点心と伺っていたが、中華風にアレンジした素晴らしい家庭料理の幕開けです。
最初の前菜。
自家製焼き豚と丹波篠山産の野菜づくし。
豚汁のスープがよく沁みたバツグンの蒸し具合。甘いジュースのほとばしるネギに、きぬさや、
赤黄緑の3種のトマト。うわっ甘い。
野菜はまだ生きているみたい。花山椒が、すばらしい。
もしや!このお料理の器!と二人目を合わせる、そうそう当たり前ですよね。
器は全て、「ことり」オーナーのお父様である柴田雅章氏が作陶された器のオンパレード。
贅沢で、もったいなくて。1品ごとにため息がこぼれます。
2品めは、
自家製OX醤を効かせた海老チリ。
口あたりはピリッと。その後、旨みがじんわりと伝わる。
ぷりぷりの海老。完璧な下ごしらえの後がわかる丁寧な仕事。添えられた野菜をワシワシと噛みしめます。
続いて、たけのこと山菜の含め煮。
あーーほっこり山の味。
スープも全部飲めるほど美味しい。
山菜のほろっとした苦みがたまらん。
友人は「さっそく家で作ってみよう!」と膝を叩く。そして、私は飴色の器に見惚れてしまう。
こちらは八宝菜。
シンプルな中にパンチがある1品。スパイスがきいている。
青菜はシャキシャキ。
淡泊なお出汁と、とろりと溶いた葛が豚にたっぷりとからんだ、いいお味。
そして、そして。ドーン!
中華粥。高菜の中華まんじゅう。
あーー幸せ。視覚にも舌にも、申し分なし。
この艶やかな木の盆は、ハイハイそのとおり。
勘は的中、「居七十七(いなとや)」さんの木の盆ですね。
見惚れるねーーー。
デザートまでぬかりなく全て手作り。この出来映え。
露地物いちごは甘かった。
メープルシロップをかけた、アイスクリーム、ゼリーと寒天入りのフルーツポンチ。お代わりしたい。
これだけの夜のコース、3千円とは。
隣のテーブルの南条好輝さん(第一部の近松 ひとり語りでご活躍)も、とてもご満悦のようでした。
写真ではこの器の重厚さ、味わいの深さはおそらく伝わらないとでしょうね。
器が上質だと、素材がイキイキと輝き、
時間がさらに特別なものになるのだなーーと改めて実感、再確認。
おいしい家庭料理と器の饗宴が、これほど幸せな気持ちにしてくれるナンテ。
もちろん存じておりましたが、想像を超える豊かさでした。
来年、もし機会があればぜひ訪れてみておくれやし。
初夏の篠山。器と美味。素朴な自然が美しいところ。近くに温泉もございます。