月の晩にひらく「アンデルの手帖」

writer みつながかずみ が綴る、今日をもう一度愉しむショートショート!「きょうという奇蹟で一年はできている」

京都寺町「スマートコーヒー」から一保堂の喫茶室「嘉木」

2020-08-09 23:17:00 | コロナ禍日記 2020

 

ある日。6月16日(火曜日)曇り時々雨 (1)

 

7時半に起きる。ベランダでヨガ、瞑想10分。Nも一緒に1セットを行った。

 

 紅茶にはウーフのダージリン タルザム茶園 2019年夏摘み。木次牛乳を入れて、オールブランのシリアルで朝食。デザートには石垣島の熟成パイナップル。

 

 この石垣島のパイナップルを食べながら、数十年前の時間に心を馳せる。

 広告の制作会社に入社してすぐ、2週間くらい石垣島に出張した。東京支社からの女の子もきていて南西観光ホテルに滞在。杏里のコンサートの動員を手伝い、昼休みにはプールで泳ぐ。滞在の間、果汁のしたたる黄色く甘い熱帯のフルーツをくる日もくる日も、ホテルのバイキングで食べた。昼にはきまって小麦の風味がする八重山そば。

 食べ物の記憶は褪せないと思い出す。

 

 さて。午前中は原稿を書いて、午後にはNと京都へ行く予定にしていた。

 京都行きの目的は、こんなヨーロッパのペーパーを買いにいく予定である。

 

 

 一目惚れして、ブックカバーにしてから、「積ん読」「持ち歩き本」数冊にもカバーをつくりたいと思っていたのだ。

 

 阪急電車にゆられて、約100分。阪急河原町から寺町方面にむかってあるく。おなじみの「スマート珈琲」へ。ソーシャルディスタンスで、1席ずつ空間をあけて座るので、とてもゆったりと過ごせた。椅子も照明も、レトロな珈琲喫茶店。京都にはこういう大人が珈琲をたのしめるいい店が多い。

 お決まりのフレンチトーストと珈琲。Nは、ホットケーキにカフェオレ。



 化粧っけがない品のあるおねえさんが運んできてくれた。胸まである黒のエプロンがかわいい。

 フォークを刺すと、つんと固く焼かれているのに中はふわりとなめらか。卵とはちみつの風味。黄金の卵をまとうことで食パンの味わいを完全に飛び越えたおいしさ。しつこさがない正統派の味。Nのホットケーキも、1口いただく。しっかりと固く厚みがあって、中はふわっとほどけた小麦の風味でこちらもよかった。ああ、この濃くすっきりした珈琲の味だ。

 

 珈琲の豆を購入して、寺町界隈をそぞろ歩く。なんだか新鮮、2ヶ月近く外出自粛していたから。


 見慣れた寺町商店街と京都市役所の通り。鳩居堂京都本店、器の大吉、西洋民芸の店グランピエをのぞいて、夏用の暑中見舞いのハガキやお香立てなどを買う。

 明治創業のお菓子の店「村上開新堂」へもたちより、ダックワーズ、ロシアケーキ、ガレットを購入。今度はNが一保堂さんの炒り番茶を東京の自宅用にほしいというので立ち寄り、喫茶の「嘉木」へ。

 

 こちらも、距離をしっかり確保し、スタッフの目前で消毒液をシュッとしてから入室。部屋に入ると広い空間はシーンとして、お茶室にいるような清々しさだ。

 さあ運ばれてきた新茶。

 

 とろみがあって若葉のしずくを啜っているよう。あまくて、奥行がありしぉっぱい宇治本場の新茶だ。お茶菓子にはアジサイ。葛がきらきらっとしてきれいだ。餡も、ほど甘く、粒がはんなりよい味。

 途中で、いかにも茶が大好きというような黒眼鏡のおじさんと若い女性が来た。おじさんは京都のよさを熱っぽく訴えかけていた。大学教授なのかな。

 Nといろんなことを話したようで、なにも話していないようで、ふくしい時間が流れていた。ふと、格子越しに表の通りをみる。ぱらぱらと雨がふりはじめ、湿気を感じる。あぁもう行かなくては。今朝、夢のなかでみた朝蜘蛛がつーっと部屋の角のすみを降りていったのを、みえないはずなのにみたような、いにしえの時間が隣にあった。