I上さまの推薦作品です。寺山修二「田園に死す」。
恥ずかしながら、初めて観ました。寺山修二作品。寺山修二については、ある程度の知識はありましたが、作品としてはかなり、その毒気に圧倒されました。全体像はいまだ釈然とはしません。あとで、いろいろ調べてみました。
観終わった直後の感想は、かなりシュールであるということ。知らずにに鑑賞したら、好き嫌いがはっきり分かれると思います。ひとりの天才、芸術家が、幼い頃の実体験をベースとして、「母親殺し」をテーマに、若き日の自分との決別を意図して描かれていたように思います。1974年当時としては、かなりのインパクトをもって迎えられ、文化庁芸術祭奨励新人賞、芸術選奨新人賞を受賞しています。
賽の河原。血の色をした池。黒マントに白塗りの顔をした村人。庄屋の老婆の不気味な笑い顔、見世物小屋の住人たちとサーカスの空気女。村にやって来た美しい嫁。壊れてしまって鐘を打ち続ける柱時計。川上から流れてくる雛人形を飾ったひな壇...美しさ、気味悪さ、怖さ、懐かしさ、苦しさ、恥ずかしさが込められたシーンの連続で、意味分らないけど圧倒される、そんな映画です。それらが何を意味するのか、哲学的に深い意味を持つのか、整理できない自分がいます。まあ、芸術作品というものはそういうものかもしれません。ラストシーンは、かなりの演出力だと。
「父親殺し」「エディプス・コンプレックス」は、心理学的に有名ですが、寺山の世界では、『母親殺し』。彼の生い立ちによるものが大きいと思われます。私自身、母との関係を再度考えさせられました。彼の才能の多彩さには驚かされますが、とくに作詞の分野で「コメットさん」のテーマや、「あしたのジョー」のテーマの作詞がそうだとは・・。詩や短歌、俳句の才能は、やはりすごい。48歳の若さで、逝ってしまわれたことは、残念なことであるけれど、それによって没後20年以上経っても変わらず、若い世代から熱狂的に寺山修司が支持される理由なのかもしれないです。
鑑賞後に、みんなでいただく夕食は、トマト鍋でしたが、味もはっきり覚えていない感じ。深層心理に働きかける内容であったと思います。
I上様、自分からは、そうそう観ることのないと思われる問題作品を、ありがとうございました。
◆あらすじ(後半ネタバレ注意)
寺山修司が自身の同名歌集をもとに映画化した、自らの少年時代を描いた自伝的色彩の強い作品。青森県の北端、下北半島・恐山のふもとの寒村。父に早く死なれた少年は、母と二人で暮している。母と二人だけの生活に嫌気のさしている少年の唯一の楽しみは恐山のイタコに父の口寄せをしてもらうこと。ある日、村にやってきたサーカス団の団員に遠い町の話を聞いた少年は隣家の憧れの娘に一緒に村を出ようと持ちかけるが……。少年時代の回想シーンが象徴的な映像で綴られていく。
父のいない中学生の私は、恐山の麓の村で母と二人で暮らしている。唯一の楽しみといえば、イタコに父親の霊を呼び出させて会話をすることだった。私の家の隣には他所から嫁入りした若い人妻が住んでおり、それが意中の人である。ある日、村にやって来たサーカスへ遊びに行った私は、団員から外の世界の事を聞かされ、憧れを抱くようになった。今の生活に嫌気がさした私は家出をすることを決心し、同じように生活が嫌になった隣の人妻と共に村を離れる約束をした。駅で待ち合わせをして線路を歩く二人・・・
実はここまでは、映画監督となった現在の私が制作した自伝映画の一部である。試写会に来ていた人々は映画の出来を褒め、私を称えた。その後、評論家と一緒にスナックへと入った私は、「もし、君がタイムマシーンに乗って数百年をさかのぼり、君の三代前のおばあさんを殺したとしたら、現在の君はいなくなると思うか」と尋ねられた。質問の意味を深く考えていた私は、少年時代の自分自身に出会う。少年の私は、映画で描かれた少年時代は脚色されており、真実ではないと言い放つ。そして、本当の少年時代がどの様なものであったかが語られる。
村に住む人々はみな狂気じみており、サーカス団も実は変質者の集まりだった。人妻からは家出の計画を本気にしていなかったことを告げられ、目の前で愛人の男と心中されてしまう。そんな中、少年は現在の私と出くわした。現在の私は、過去の私が母親を殺せば自分がどうなるのかを知るためにやって来た。二人で話をするうちに、少年は母親を捨てて上京することを決意する。しかし、出発の準備を整える中、東京からの出戻り女によって童貞を奪われてしまう。たまらなくなった少年は電車に乗り、故郷を離れていった。結局母殺しは起きなかった。それでも私は少年を待ち続ける。しかし、何も変わりはしなかった。今、現在の私は20年前の母親と向き合い、黙って食事をしている。やがて家の壁が崩壊すると、そこは新宿駅前の交差点だった。その周囲を沢山の人間が行きかっている。それでも私と母は黙って飯を食っている。
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