シティ・マラソンズ(三浦しをん、あさのあつこ、近藤史恵)
会社のお昼休みに本屋さんで見つけました。
ニューヨーク、東京、パリのそれぞれの都市で開催されるマラソンをモチーフに、夢、挫折、そして再生が描かれています。
3編に共通するのは、主人公が皆、昔、心から夢中になったものがあるにもかかわらず、自分の限界に直面し、諦めて普通の生活をするという「大人の選択」をしてきたということです。
夢を追うこと、自分の限界に直面すること、挫折やあきらめ、未練、そんなものを抱えながら生きている男女が主人公です。
最初の短編『純白のライン』で主人公は、中学・高校と陸上競技に打ち込み大学も推薦で入ったのですが、結局平凡な記録しか出ない自分に見切りをつけ競技生活にピリオドを打ちます。
そして就活をしていたある日、面接で思わずこんなことを言ってしまいます。
「本当は努力の意味がわからないんです。わからなくなった。俺は無駄なことばっかりして、結局のところ、何も実らせてきませんでした。」と。
それを聞いた社長は、
「俺は努力の効果を信じているやつにはあまり興味はない。そういうやつは思う存分頑張ればいいし、止めはしない。だけど、努力してもかなわないことってあるなと身をもって知ることから、はじめて本当にスタートできるんじゃないのかな。」
と言うわけです。
『金色の風』では、妹の才能と比較し、自分はプロでやっていける器ではないと悟り1年前にバレエを辞めることを選んだ女性が主人公です。
全てを犠牲にしてバレエに捧げた時間はどこに行ってしまうのだろう、と暗澹たる気持ちで彼女は逃げるようにパリへ旅立ちます。
そして、滞在中の出来事を回想しながらパリの街並みを走るうちに色々な思いが胸を去来します。そして、
「音と一つになる幸福。拍手を浴びる幸福。最終的に結果は出せなくても、ひとつひとつ努力の対価の幸せは与えられていた。」
と思い至ります。
実際、自分の全てを賭けて何かをし挫折した経験は、蓋をしておくだけではきっといつまでも心に痛みや疼きを起こすものなんだろうと思います。
まして、面接などで良く言われるような「その経験から何を学びましたか?」などという質問に答えるには、それ相応の時間がかかるのだとも思います
「夢はあきらめなければ必ず叶う」
この言葉をどう感じるかは人それぞれだと思いますが、私自身、昨年1年というほんの短い経験でしたが、感じたのは、
夢を持つことができた人は幸せだということ、夢に向かって挑戦できる環境にあるということは幸せだということ。
夢は“あきらめなければ”叶うのかもしれないけれど、実は「諦めなければならない状況」というものも世の中には沢山あるということ。
そんなことでした。
一方で、あの頃は涙が出るほど苦しかったことも沢山あったし、辞めたい思うこともありました。でも、コンマ何秒の数字に一喜一憂し、徐々にコンスタントに出るタイムが縮んでいく喜びは、確かに「努力の対価」だったのだとも気づかされました。
他の人が読んでどう感じるかはわかりません。
でも私にとってこの1冊は、ずしりと心に響くものでした。