たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

農道のリスクと説明責任 <台風21号 県の農道整備「崩落誘発」>などを読んで

2017-12-28 | リスクと対応の多様性

171228 農道のリスクと説明責任 <台風21号 県の農道整備「崩落誘発」>などを読んで

 

もう年の瀬ですね。今年一年の出来事もいろいろありました。昨今は貴乃花親方の処遇をめぐる報道が過熱気味ですね。私の方はしばらく新しい車シートにどう自分をなじませるかで日々悪戦苦闘していて、痛みをどう軽減するかという小さな悩みに難渋しています。

 

とはいえ今日のお題をと思ったら毎日の和歌山版で<台風21号県の農道整備「崩落誘発」 紀の川市被害、検討委が中間報告>という記事内容が気になりました。

 

台風は毎年のように異常さが目につきますが、温暖化が進むと、アメリカのハリケーン並に巨大化するとかの情報もありますね。時間雨量100mm超えも珍しくなくなった気がしますし、従前の安全基準の見直しが必要ではないかと思うこの頃です。

 

そんなとき、上記の毎日記事では、<10月の台風21号で住民1人が亡くなった紀の川市西脇の土砂崩れについて、県が設置した有識者らによる調査検討委員会は27日、県による農道整備が斜面崩落を誘発したとする中間報告を明らかにした。設計や工法に問題はなかったが、想定以上の大雨で土台部分の排水が追いつかなかったとして県の責任を認めた。>と稲生陽記者が報じています。

 

この記事は報告内容を簡潔に要約したためか、意味がよくわかりません。<設計や工法に問題はなかった>というのに、<県の責任を認めた>というのは責任をどう考えているのでしょうか。

 

<想定以上の大雨で土台部分の排水が追いつかなかった>ことが県の責任ということであれば、結果について無過失責任を認めたような説明ですね。大雨で、それが想定以上となれば、そのままとれば回避不可能な自然災害ともとれます。

 

検討委の説明自体が曖昧に聞こえます。<検討委は、通常の想定雨量通りなら問題はないが、史上最大レベルの大雨に対しては排水能力が足りず、地下水の圧力や流れが変わったとみられるとした。検討委の大西有三会長(京都大名誉教授)は「農道を造ったことで地下水の流れが変わったことは確か。これほどの雨は通常の設計では想定しないが、県にも責任がある」と述べた。>

 

ただ農道について、<史上最大レベルの大雨に対しては排水能力>を要求するのだとすると、一体いかなる技術基準なり法令根拠によっているのか、ここではわかりません。原子力発電と同じでないことは確かでしょう。他方で河川水害より高い安全基準が求められることは判例上確立していると思います。しかし、この検討委の説明だけでは一体いかなる根拠に基づいているのか不明です。

 

それで少しネット情報を調べてみたら、和歌山放送の記事が少し詳細でした。まず<斜面崩落事故で仁坂知事が謝罪>では、<仁坂知事は会見で「暫定的な結論が出た。さらなる調査が必要だが、盛り土の存在が斜面崩落につながった」と県の責任を認めました。>

 

この会見内容からは農道建設のための<盛り土の存在が斜面崩壊につながった>と因果関係を認める内容ですが、問題は国家賠償法2条1項にいう「道路の設置又は管理の瑕疵」があったことまで認める趣旨に読めますが、その内容は明らかでありません。

 

前日の記事<紀の川市西脇斜面崩落・調査検討会「農道の存在が斜面崩落を誘発」>にはその点少し具体的です。

 

<協議会会長の大西有三(おおにし・ゆうぞう)京都大学名誉教授は・・「いろいろな要因は考えられるが、農道の存在は少なくとも影響があったとみていて、一番の原因が大雨で、想定の130ミリを超える200ミリ以上の雨量に盛り土がもたなかったのではないか。通常、盛り土の部分には十分な排水システムが整備されるが、西脇は不十分だったと思われる。農道を作ったことで斜面の中の雨水の流れの変化に伴い、土中の圧力も変化したと考えられる。地元の方の意見が非常に役に立った」などと話し、今後も、盛り土の排水の整備を含めて検討を続ける考えを示しました。>

 

どうやら大西氏(別の記事では調査検討会会長とされています)の説明は発言内容をそのまま掲載されいるようですので、少なくとも大西氏が説明したのでしょう。ただ、中間報告なるものが和歌山県のホームページでも、担当部署と思われる県土整備部や農林水産部農林水産政策局などにも見当たりませんでした。和歌山県のホームページ自体がかなり簡素なもので、内容も充実しているとは言いがたいですね。予算がとれないのでしょうか。

 

ともかく記者会見の写真では文書化されたものが大西氏の前にあるわけですし、中間報告といえば暫定的でも、おおよそ最終報告書になりうる可能性が十分あるのですから、最近ではほとんどがネットで開示していると思います。これは改善してもらいたいですね。

 

大西氏の説明は少しわかりにくいです。大雨が想定外であったことを指摘しています。<一番の原因が大雨で、想定の130ミリを超える200ミリ以上の雨量>と発言しています。設計基準を超えるわけですから<盛り土がもたなかったのではないか>との推測は合理的なものですね。だからといって責任問題に直結するとは言えませんね。

 

しかし、次の発言は瑕疵を認める趣旨となっています。災害が発生した西脇地区は排水システムが不十分というのです。<通常、盛り土の部分には十分な排水システムが整備されるが、西脇は不十分だったと思われる。>もう一つの原因に関わる発言があります。<農道を作ったことで斜面の中の雨水の流れの変化に伴い、土中の圧力も変化したと考えられる。>

 

この2つの点は、定性的な判断と言えるかと思いますが、いかなる科学的な根拠に基づいているのか、ここでは明らかでありません。とくに後者は地山に盛り土・切り土を行えば通常生じる可能性があり、こういった一般論がいかなる意味をもつのかよくわかりません。

 

最後の言葉が気になります。<地元の方の意見が非常に役に立った>という大西氏の発言です。それはこの記事の最初に指摘していますね。<今日の検討会では、死亡した住民の50代の長男と60代の農業の男性1人の西脇地区の住民2人の意見聴取が初めて行われました。そして「県が整備した農道の斜面の土台となる盛り土の中の排水が不十分なため、大量の雨水の逃げ場が無くなって斜面の崩落を引き起こした」と指摘したということです。>

 

調査検討会はこの日、地元のヒアリングを行ったようです。たしかに遺族の方や農業者は農道開設による土砂流出や排水の変化などは定性的に把握しているでしょうから、体験に基づいた発言として貴重であることは確かです。しかし、そのことから農道の設置・管理に瑕疵があったと言えるかは別の話ですね。

 

ここで災害内容を確認しておきます。和歌山放送の記事<紀の川市西脇土砂崩れ・県が調査委員会設置へ>では、以下のように報道されています。

 

<崩れたのは、県が紀の川南岸の紀の川市北涌(きたわき)から荒見(あらみ)にかけて、来年度(2018年度)の完成を目指して整備中の「広域農道・紀の里(きのさと)地区」6・4キロの一部で、22日の午後8時半ごろ、紀の川市西脇の民家から14~15メートルほど上の部分が崩れて土砂が民家を直撃し、住民の82歳の男性が死亡しました。>

 

この農道についての情報自体あまりなく、ちょっと検索しただけですが<紀の川フルーツライン(広域農道紀の川左岸地区)の高野山関連区間の開通について>くらいでした。たしかに上記記事にある「紀の里地区」の記載がありますので、この広域農道であることは確かでしょう。

 

ところで、農道も道路ですので、こういった場合国交省の道路構造令や具体的な施工基準を示している日本道路協会作成の「道路土工要綱」などに基づいて(あるいは準じて)設計・施工しているのかもしれません。ここはまだ確認がとれていませんが、一般に農道(といっても広域農道などのような大規模なもの)のそういった基準を示したものを見たことがありませんので。

 

この要綱に依拠して、以前道路の瑕疵をめぐる裁判を担当したことがあります。計算がややこしいというか、裁量的な部分が結構ありまして、その具体的な当てはめはより専門性を要するかなと思っています。

 

さて、農道と道路法が適応となる国交省管轄の道路はかなり違う印象があります。前者は後者と比べ、法面養生や排水設備などが十分とは言えないように感じるのです。

 

たとえば道路の構造要素となる砂利などが下方に容易に流れ出すことが普通に見られるように思います。むろん私が農道をたくさん見ているわけではないので、具体の農道はしっかりと整備されているのが大半かもしれませんので、ここは私が見た体験のみの発言です。

 

ところで、道路についてはこれまで多くの災害が発生しており、裁判例も少なくありません。といっても瑕疵を認めた例はそれほど多くないと思います。著名な裁判例の一つは、地附山地すべり国賠訴訟(平成9年6月27日長野地裁判決・判例タイムズ956号58頁など)は、TV放映もずいぶんあった事件ですね。

 

そのほか、平成13年12月25日仙台高裁判決(出典ははっきりしませんが判例秘書データベースかもしれません)は、あまり有名ではないですが、女川原発に通じる道路災害で、道路瑕疵を比定した一審判決を覆してこれを認めたケースで、私が参考にしたケースです。

 

ここでそれぞれの判決解説をするだけの気力は残っていませんのと、一時間が過ぎましたので、ここらで打ち止めとします。要は、調査検討会も県知事も、当該農道が「通常具有すべき安全性」を欠いていたとまでいうのであるかどうかをはっきりさせる必要があるし、その根拠をも示す必要があると思うのです。おそらくは報告書の中でその当たりはきっちり説明するのでしょうから、それを早急に開示することが必要でしょう。

 

今日はこれでおしまい。また明日。


石の不思議 <「蛇紋岩」庭石加工で肺がん>とアマゾン川の「清流」に触れて

2017-12-26 | リスクと対応の多様性

171226 石の不思議 <「蛇紋岩」庭石加工で肺がん>とアマゾン川の「清流」に触れて

 

まだ新しい車のシートの影響で首筋当たりからずっしり重い荷物を持っている感じで、痺れも残っています。そんな状態でも仕事があるとそれなりになんとか終わらせています。今日もようやく終わりました。刑事事件の接見もあるのですが、今日はちょっと避けようかと思います。

 

そんなわけでいつも以上に新聞も書籍も読む元気がありません。とはいえよくしたものでTV番組は楽しく見ています。録画していたグレートレース<絶景アルプス・トルデジアン330Kmイタリアも感動ものので、参加者すべてに感謝したい気持ちで一杯です。とてつもない痛みに耐えながらも笑顔を忘れない姿は私自身の痛みにもいい影響を与えてくれました。

 

たしか痛みは脳の中のある細胞が作用して、頸椎や腰椎などの形状変異があるかないかと関係なく痛みを記憶していて、その恐怖から動かなくなり余計に悪化するともいわれていますね。その痛みの実態を映像で何度も患者に見せると、自然に痛みが緩和することが多くの事例で証明されているようです。私の痛みの場合はこのレース参加者の、とくに日本人の笑顔には感謝、感謝でした。

 

もう一つ、録画していた<驚き!地球!グレートネイチャー「神秘!黄金大河の謎を追え~南米 アマゾン~」>は、私の個人的な体験と共鳴して、気分を良くしてくれました。

 

番組最初にアマゾン川中流の大都市、マナウスが登場したのですが、私もたしか37時間くらいかけてここに降り立った記憶があります。そして番組で紹介された不思議の白色と黒色の二つの流れが続くアマゾン川、その真ん中で私は面白半分に飛び込んだら底に危うく引き込まれるような恐れを感じたことを思い出しました。私は二つの合流地点の真ん中に飛び込んだので、黒色の方が重いと感じ、黒色の川ネグロ川に吸い込まれそうになったといままで思っていました。

 

ところが、番組では比重はネグロ川の方が軽いので、実のところは白濁したようなアマゾン本流の中で引き込まれそうになったのですね。

 

このネグロ川、実は透き通っていてとても澄んでいるので、きれいなのですね。番組ではその理由を求めて源流に向かって遡り、砂浜でその原因を解説していました。白く輝く砂浜、とてもきれいですが、生き物がいないのです。花崗岩が細かく破砕され、石英が微粒子となって堆積していたのです。それは微生物も棲めないわけで、当然ながら葉っぱも分解されず、水も透き通っていますが、プランクトンも発生しないから、魚介類をはじめ生態系的に単純で貧相ですね。ただ、茶渋のように、長年水に浸っているので自然にタンニンが溶け出し、赤茶色のような川の色になるのですね。

 

花崗岩は地球上に多く分布していますが、ところ変わればこういう形態もあるのですね。そういえばボルネオ島のニア洞窟でしたか、以前訪ねたことがありますが、やはりそのそばの川は赤茶色でした。当時は違法伐採で水質が汚濁しているのかと一瞬思ったのですが、その周辺は全面ホタルが敷き詰めたように輝くのです。微生物などがいない川のそばでホタルが生息するのも不思議と言えば不思議ですが、当時はそのホタルの群生(これは日本では見られませんね)に感激した次第です。

 

ここまで書いてきて、首は重たいものの、意外とやれるなと、自分自身、感心しています。それはきっとあのグレートレース参加者の熱い、そして信じられないような傷みに耐える気力に感化されたのかもしれません。

 

そろそろ本題に移ります。

 

今朝の毎日記事は<造園業者石綿労災「蛇紋岩」庭石加工で肺がん>と柳楽未来記者が蛇紋岩からアスベストが飛散し、長年庭石作業をしていた男性が労災認定を受けたことを報じています。

 

これは驚くべき事実ですね。

<蛇紋岩は北海道から九州まで広く分布し、石綿を含むことが多い。資源エネルギー庁によると、近年は採掘量が減っているものの、10年前の2007年には国内で年156万トンが採掘され、セメントの材料や石材として流通している。石綿そのものの使用は労働安全衛生法で禁止されているが、蛇紋岩の使用は認められている。>

 

蛇紋岩の利用は場所によっては相当広範囲で行われているように思います。むろん庭石業者のように業として扱う人は少ないかもしれません。

 

というのは当地にやってきて蛇紋岩を含む緑色岩が割合多く産出してきたようで、石垣や庭石によく見かけます。緑色片岩が多いかもしれませんが、私自身、この違いもよく識別できるわけでないのと、アスベストの含有という点ではまだ研究が十分でないと思われることから、注意が必要かなと思うのです。

 

私自身は緑色片岩を加工することは、素人的には無理があり、すぐにあきらめ、単純に庭石として配置する程度で遊び心を満喫してきました。ちょっとした石垣や、階段にも使えるので便利です。

 

大きな蛇紋岩だと、クレーンが必要かもしれませんが、緑色片岩だとわりあい簡単に割れそう(実は割ったことはない)なので、持ち運びも人力でOKかなと思うのです。

 

すぐに脇道に入りますが、蛇紋岩は見た目に雰囲気があるので、庭石としてはそれなりに評判がいいのではないかと思うのです。その意味では多くの庭石業者、職人の健康調査を検討することも考えて良いかもしれません。

 

いままで想定してこなかった蛇紋岩からのアスベストの飛散という事態は、これまでもアスベスト被害の発見、拡大の経過から見て、油断できないと思います。

 

一時間近くタイピングをしてもなんとかなりました。少し自信がうまれてきました。

今日はこの辺でおしまい。また明日。


将来のリスク <大阪・城東区役所 撤去求め提訴へ 土地一部所有者「賃料、勝手に倍に」・・・>を読んで

2017-10-09 | リスクと対応の多様性

171009 将来のリスク <大阪・城東区役所撤去求め提訴へ 土地一部所有者「賃料、勝手に倍に」・・・>を読んで

 

森友・加計事件がうやむやのまま国会冒頭解散、選挙ということで、いまだ批判の声は上がっているものの、総選挙の争点全体からすると問題がベールに包まれてきたように思われます。

 

今日は体育の日でしたか、高野三山をもう一度と思いつつ、まだ体力が十分でないので、散歩気分で上れると近くの三石山を登りました。とんでもない、登りにつぐ登りで息絶え絶えでした。やはり運動不足と体力がもどっていないためでしょう。登山者もわずか3組でした。倒木もかなり多く、蜘蛛の巣も張っていて、それ以上に湿気がむんむんで、これは困ったと思いました。散歩気分ですから、飲み物も携帯せず、万が一熱中症にでもなったらどうしようと、とくに抑制気味でとぼとぼと歩きました。

 

ちょうど山頂に2組いて食事していました。私が2時間かかったといったら、ずいぶんゆっくり登ったんですねと言われてしまいました。ま、熱中症で倒れるよりはましと思ったのです。帰りは、下る一方で、さほど膝の疲れもなかったので、快適に降りていき、30分あまりで降りました。このあたりは若い頃に近くなった?なんて油断すると転んで骨折しそうなところもあり、油断大敵でした。

 

そんなこんなで疲れ果てて帰ってきて、弁護士会から依頼された「私の薦める一冊」の原稿を書き上げました。安直に、昨日毎日広告にでていた五木寛之著「孤独死のすすめ」がいいと思い本屋に直行したのですが、田舎の小さな本屋さん(以前しょっちゅう通っていた東京駅前の丸善や神田の各書店と比べてはいけませんが)には案の定、ありませんでした。ただ、「玄冬の門」という昨年出版された本があり、同じような趣旨の内容でしたので、これでいいかといい加減な選択でした。でもその内容は驚くほど私がこれまで考えてきたことと一致し、一気に読み上げました。昨日のことです。

 

そして今日はその原稿の下書きを書いたのです。1200字という字数制限ですが、1500字以上と当然のように超えてしまいました。まだ〆切には余裕があるので、後日校正なりしようと一段落。

 

さて本日のお題はと考えたのですが、昨夜ちらっと見た「盗伐」(討伐ではありません)問題もおもしろいとは思いつつ、最後の数分しか見ていないので、別の機会にしようと思います。ただ、盗伐は森林法違反の森林窃盗です。昔は価値も高かったので、森林窃盗も多かったようで、パトロールもしっかりしていたと思いますが、昨今は低価格の影響もあって放置され、荒廃する一方ですから、盗伐されてもなかなか発見されないのかもしれません。他方で、悪質なメンバーだと、境界を間違ったなどと、過失を主張して逃れようとするから困ったものです。

 

この話は、また別の機会にして、そろそろ見出しの本題に入ります。森友のときも不動産鑑定が問題になりましたが、今回も不動産鑑定結果が問題ですね。ただ、新聞記事からだけの判断ですが、基本的に契約書が将来リスクを勘定に入れていない、お役所頼みのような印象を受けます。

 

私も最近、ある貸し地の貸主が、借主が所有する土地建物のうち、建物を買取り借地契約を取り交わすのですが、地代を双方チャラにすることで契約書を取り交わしたのです。それぞれについて不動産鑑定をすれば、異なる評価になった可能性が高かったと思いますが、そういう交渉や鑑定費用に金や時間をかけるより、早期の土地利用を優先して、確定額で合意したのです。その分、当然、リスクが大きく減少しますね。

 

他方で、見出しの記事では、大阪市城東区役所と城東鶴見工業会が<10年、工業会が事務所としていた土地を貸す代わりに、市が新庁舎に工業会を入居させるとの合意書を交わした。>のですが、肝心の工業会側の貸し地の地代と、区役所側のテナント賃料とについては曖昧になっています。

 

<工業会によると、市が払う借地料と、工業会が払う庁舎の賃料は不動産鑑定で算定するものの、「近似することが望ましい」との文言が盛り込まれ、実際は相殺する前提だったという。>

 

工業会は、<「近似することが望ましい」との文言>が合意事項であったとするようですが、契約上の拘束力があるように記載されているのか疑問です。不動産鑑定は本来、客観的に算定されるわけで、たしかに森友学園での財務省の鑑定はいい加減のような評価をされてもやむをえないと思います。しかしそれは財務省側が行ったもので、本来の不動産鑑定ではありません。

 

たしかに不動産鑑定は、3人の鑑定士が行えば3通りの結果が出るとも言われていますが、それでも客観的な裏付けや、鑑定基準に基づく合理的な評価が行われる必要があります。最初から、「近時にすることが望ましい」と鑑定結果について鑑定士に対して偽装を依頼するようなことが認められるとは思えません。

 

むろん財務省のように、航空法上の規制がある地域だとかの便法で、自分たちで独自の評価をすることも、区役所の場合、まったくないとはいいませんが、よほどのことがない限り、会計監査で認められないと思うのです。

 

たしかに工業会にしてみれば、自分の所有地がないと庁舎が建築できなかったわけですから、敷地の10%に過ぎないとしても、特別の配慮があっても契約上は合理性が認められることもあると思うのです。区役所の行為だから公平でなければならないとしても、とくにその用地部分が必要だとすると、特別の配慮はあっても認められる場合があるように思うのです。

 

ただ将来の建築物の評価との関係で、限度があってしかるべきでしょう。当初の設計段階の見積もりから費用が嵩むことが一般で、それが予定の2倍になっても、元の賃料予測を前提に、地代価格と近似にしないといけないような制限は有効でないと思うのです。

 

その意味で、当初の合意の段階で、あいまいな「近似」条項と異なる規定で将来のリスクを見込んで賃料設定をすべきであったと思うのです。一定の限度額を設け、それ以上の賃料になるような場合は貸し地として提供できないといった条項も必要でしょう。

 

はたして建築費を抑制できるような合意が可能かは、具体的な条項の定め方、その後の建築費の増大の事情との関係で工夫が必要でしょう。

 

そろそろ1時間が過ぎました。この辺で今日はおしまい。


見えないリスク <西鉄バス元運転手 石綿労災認定「点検で吸引」 昨春死亡>を読んで

2017-09-30 | リスクと対応の多様性

170930 見えないリスク <西鉄バス元運転手石綿労災認定「点検で吸引」 昨春死亡>を読んで

 

いつの間にか9月も終わりです。紅葉シーズンで内外各地への旅行も盛況でしょう。いやそれどころではない、というのは選挙関係者でしょうか。それはともかく旅行に行く手段が多種多様になりました。それもバスや電車も高級化の動きがすごいですね。他方でバス業界はコスト競争が激化しているので、運転手の労働条件は適正化の動きと労働強化・賃金抑制とのせめぎあいが続いているように思えます。

 

地方に住んでいると、バスの車体や内装を豪華にしたりして、盛況なのは、所得格差の一つの表れかなと思ってしまいます。路線バスにしてもコミュニティバスにしても、公共交通機関の利用が進むことが望ましいと思うのですが、人気が今ひとつもあって、厳しい経営と労働条件にあるように感じます。

 

そんな中、今朝の毎日記事<西鉄バス元運転手 石綿労災認定「点検で吸引」 昨春死亡>は驚きです。会社が西鉄ということですから、路線バスなのでしょうか。路線バスの場合、昔は収入も少し高めで安定していて、勤務条件も緩やかだったと思います。だいたい運転手の中でも特にまじめな方が採用されていたのではないでしょうか。ところが、最近はいずれも厳しくなっているようですね。

 

バス運転手の作業環境という面では、有害排気ガスで充満していた70年代と違って、その後の規制強化で90年代後半以降は、交通状態があってもさほど厳しいものではなかったように思うのです。とはいえ、私などは、バスが従前ほとんど有害性の高いディーゼルエンジンだったので、その後を走るのは基本避けるか、相当距離をおいて走ってきました。最近はバスも以前ほど有害な排ガスを出していないようには思いますが。

 

それはともかく本筋に戻します。<石綿労災認定「点検で吸引」 昨春死亡>の記事によると、<西日本鉄道(本社・福岡市中央区)でバスの運転手として30年あまり勤務し、アスベスト(石綿)関連疾患の中皮腫を発症して死亡した佐賀市の男性について、佐賀労働基準監督署が今年5月に労災認定していたことが分かった。>

 

事実の詳細は見出しの記事が取り上げています。

 

<西日本鉄道でバス運転手として働き、石綿関連疾患の中皮腫になったとして労災認定を受けた佐賀市の河野志喜男(しきお)さん=昨年4月に83歳で死亡>

<河野さんは長崎県平戸市出身。国民学校卒業後、家業だった農漁業の手伝いなどを経て、1964年に西鉄に入社し、退職する97年までバスの運転手として勤務した。真面目な性格で無事故、無違反を続け何度も会社から表彰を受けるなど優秀なドライバーだった。>

 

死亡年齢から推測すると、33年生まれでしょうか、31歳頃から64歳頃(65歳?)まで勤め上げた方のようですね。

 

<退職から18年後の2015年8月、胸に水がたまるなどの体調不良に突然襲われ、石綿関連疾患の中皮腫と診断された。>というのですから、まさにアスベストの「静かな時限爆弾」性が如実にでていますね。恐ろしい危険物質です。

 

<長女は労災を疑い労基署に相談したが、「バス運転手の石綿労災は前例がなく、認定は難しいだろう」と言われたという。>そうですよね、労基署でなくてもほとんどの人にとって、バス運転手に石綿労災の労働条件があるとは想像できないでしょう。

 

でもアスベストに長年取り組んでいる人にとっては常識の一つだったかもしれません。

 

<長女らはインターネットで知った被害者団体「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」(東京)に相談。同会からかつてはバスのブレーキなどで石綿が使われていたことを教えられた。>たしかにバスのブレーキに石綿が疲れてきたことは確かですが、それなら他のバス運転手も相当曝露する可能性がありますね。ほかでそのような症例がないようだということも大きな壁になったでしょう。

 

この点、<同会の聞き取りに対し、河野さんは「毎朝、乗務前にバスの下に潜り込んで点検していた」と証言した。>

 

より具体的には<河野さんは生前、「毎朝運行前に作業用のつなぎに着替え、バスの下に潜り込んで約10分間、タイヤハウスやマフラーの周りをハンマーでたたいて点検していた」などと家族らに話していたという。河野さんの元同僚も同様の証言をした。>というのです。

 

バスの下に潜り込んで10分間も点検なんて信じられないと、私のような車の点検もいい加減な人間にとっては想定できないものです。しかし、鉄道系のバス運転手は、昔はそういう鉄道マンと同じくらい安全管理に自負をもち、しっかりやっていたのではないかと、この記事を見て思いました。この河野さんという方が、毎日、バスの下に潜り込み、冷たい床に横たわり、10分間もかけてタイヤハウスやマフラーの周りをハンマーでたたいて点検している姿を想像するだけで、これが本当のまじめで勤勉と言われた日本人の姿ではないかと思ってしまいます。適当に表面だけ見て大丈夫とか、見過ごしにできない実直な方だったのでしょう。

 

そうでなければ、毎日10分程度で、外気の触れているのに、アスベストを吸い込むはずがないです。真剣な眼でハンマーをしっかりたたいていたのでしょう。アスベストという見えない物質が飛散することも知らされず、そのまじめさがとても切なく感じます。

 

でもこの方の真摯なバス自体の安全管理の徹底という基本があるからこそ、無事故、無違反運転を続けることができたのでしょう。運転手の鑑とも言うべき人であり、人の生き方と誇るべき人生を歩んでこられたのではないかと思うのです。こういう方に、退職後おそった中皮腫の苦痛は気の毒です。

 

<西鉄は同労基署の調査に対し、バスのブレーキやクラッチなどに石綿含有部品が使用されていたことを認めた。同労基署は「1日の作業時間は短いものの、間接的に石綿ばく露を受ける作業に(病気休職の2年を除く)約31年間従事し、その結果、中皮腫を発症したと考えられる」として、労災認定した。>

 

西鉄も当時気づかなかったとは言え、今回の調査に誠実に答えたのは評価してもよいでしょう。ただ、この問題は河野さん一人だけではなく、アスベスト含有部品が現在残っているものはないか、また、アスベスト含有部品が使用された車両を運転等していた人への、診断の要否を検討するために、注意喚起、広報が必要ではないかと思います。今回のニュースは5月の労災認定についてですが、むろん西鉄は記者会見ないしそれに代わるニュースリリースもしていないように思われます。企業のコンプライアンスとして適切であったか、検討してもらいたいと思うのです。誠実なバス運転手の死を無駄にしないためにも。

 

ちょうど一時間となりました。このへんでおしまいです。


食中毒と報道 <O157 3歳女児死亡 加熱食品で、2次汚染か・・>などを読みながら

2017-09-14 | リスクと対応の多様性

170914 食中毒と報道 <O157 3歳女児死亡 加熱食品で、2次汚染か・・>などを読みながら

 

何を食べるかはいろいろな面から話題になったり関心を呼んだりしますね。でもなんといっても重篤の症状になったり、死亡に至るようなことはあってはならないので、食の安全は最も基本的な事柄でしょう。

 

今朝の毎日記事、私が読んでいる大阪版のウェブ情報はなかったので、代わりに北海道版<O157 3歳女児死亡 加熱食品で、2次汚染か 前橋の総菜店>を基に少しこの問題を取り上げたいと思います。

 

上記記事によれば、<群馬、埼玉両県の同じ系列の総菜店で購入したポテトサラダなどを食べた客が病原性大腸菌O157に感染した問題で、前橋市保健所は13日、前橋市六供(ろっく)町の「でりしゃす六供店」で新たに感染者2人が確認され、うち東京都の女児(3)が死亡したと発表した。>というのです。

 

913日付けの厚労省の通知<腸管出血性大腸菌感染症・食中毒の予防対策等の啓発の徹底について>によれば、一連の症状は、患者から病原性大腸菌O157、より正確には腸管出血性大腸菌が検出されており、しかもいずれも「同一遺伝子型」ということから、これが病因物質とされているようです。

 

ところで、食品衛生法に基づき厚労省が作成している<食中毒調査マニュアル>には食中毒処理の一層の迅速化等を図るため、その調査・処理の方針が示されています。

 

その中に、調査の項目で、「病因物質、原因施設、原因食品、原因食材、汚染源、汚染経路及び増殖過程の推定及び決定」が取り上げられています。これらの重要な調査対象の中で現在の状況は、同 一遺伝子型の腸管出血性大腸菌O157が病因物質だとわかったにすぎず、それ以外のことはまだ特定できていない状況にあると思われます。

 

報道では、同じ系列の総菜店のポテトサラなどを買って食べた客が発症したということで、ポテトサラダが原因食品であるかのうように取り扱われたり、死亡した女児などが食べたのは炒め物など加熱食品だったことから、その総菜店でのトングの取り扱いに問題があったとか、そういった趣旨の報道もあったのではないかと思われます。

 

ところで、NHKの<総菜食べた3歳女児が死亡O157検出>では原因施設に関して、次のように指摘していて、今のところ、ポテトサラダの食品工場の可能性は低いと思われます。

 

<ポテトサラダを製造した高崎市の食品工場に残っていたポテトサラダのすべてのサンプルや調理器具、それに従業員の便も調べましたが、O157は検出されず、工場の製造過程での混入の疑いは確認できなかったということです。>

 

では系列の総菜店でO157が感染したと言えるかというと、それも否定されそうです。毎日記事では、感染が関西・四国に広がっている実情を踏まえて厚労省見解を引用しています。

 

<厚労省が総菜店から広がった感染ルートを直接の汚染源ではないと判断しているのは、全国的に感染が拡大しているからだ。ポテトサラダを製造した食品会社の納入先は群馬県や埼玉県などに限定されており、総菜店を通じて患者のいる関西や四国まで感染が広がったとは考えにくい。>

 

つまり、原因施設、原因食品、原因食材、汚染源、汚染経路及び増殖過程のいずれも、まだ特定できていないという状況でしょう。

 

たしかに系列総菜店のお客から多くの感染者が出ており、トングなどの取り扱いに問題があったことは確かですが、時系列と地理的・発症者の行動履歴などを注意深く検討しないと、誤った方向に原因を絞り込み、感染の拡大を防ぐことができなくなるおそれがあります。

 

ポテトサラダは原因食品と断定できるかも気になります。関西・四国の発症事例ではどのような報告があるのか、地域的に対応していたのでは間に合わないおそれがあります。早急に情報共有を図り、調査を迅速に進める必要があると思うのです。

 

この点、よくニュースや、映画でも話題なるアメリカ疾病管理予防センター、Centers for Disease Control and PreventionCDC)は、迅速かつ全国対応ができる組織として、わが国でも検討されてよいのではと思うのです。

 

こういった汚染源を特定することが困難な状態は、今後も予想され、その意味では、私たち一人ひとりが感染予防に注意をしないといけないのでしょう。これは食の安全にいい加減な自分自身にも当然いえることなので、NHKの<「O157対策はどうしたらいい?」(くらし☆解説)>や厚労省の<腸管出血性大腸菌Q&A>などを参考に、自己防衛を心がけることが肝要なのでしょう(といってもなかなか・・・・)。

 

最後に、いろいろ書いたのは、報道の即時性のためか汚染源や汚染経路・増殖過程の点での取材報道が十分でない印象を受けたからです。

 

これまで総菜店やその経営主体を問題にしている報道が多かったように思えますが、むしろ毎日記事も指摘しているように<発生源 特定進まず>という部分こそ重要な点で、この後の感染予防の点からも、報道の在り方としてもその点をより強調する必要があるのではと思うのです。

 

一時間を優に超えてしまいました。中身を理解するのに(まだ理解できていませんが)少し時間がかかり、情報も読み込むことができず、中途半端になりましたが、この辺で終わりとします。