たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

医療と災害対策 <論点 医療機関の災害対策>を読みながら

2019-01-23 | 医療・医薬・医師のあり方

190123 医療と災害対策 <論点 医療機関の災害対策>を読みながら

 

災害対策と言えば、弁護士も阪神大震災以来、さまざまな支援活動を本格化してきたと思います。昨年12月は、<日弁連、全国市長会と「災害協定」締結 「被災者に寄り添っていきたい」>という災害発生後の支援対応を各地で行ってきたことを事前に協定化したわけです。実際、和歌山でも県市と次第に弁護士会と協定を結びつつあります。まあこれは事後対応ですね。

 

弁護士事務所とか、弁護士会館の災害予防策は、後者はそれなりに?行っていますが、前者はどうでしょうね。依頼者なり相談者なり、弁護士が事務所で対応する方々について配慮しないといけないのは当然ですが、医療の世界ほど深刻ではないですね。ただ、東日本大震災の時、ある事件の弁護団の一人が被災地域に事務所があり、直後にメールで仕事ができなくなったといった連絡とその事務所内のものが壊れたり傾いたりといった写真が添付されていて、怪我がなくてよかったなと思った次第です。

 

ところで、災害と医療と言えば、災害後の負傷者対応としての医療活動がよく話題になりますが、今回は医療機関自体の災害対策を取り上げたいと思います。

 

今朝の毎日記事<論点医療機関の災害対策>では、2018年は災害が頻発し、今後も大地震津波、異常豪雨、巨大強風などさまざまな災害が起こる可能性があることを踏まえ、医療機関の備えについて3人の議論を紹介しています。

 

まずはそれぞれの意見を拝聴しましょう。

<国立保健医療科学院の小林健一・上席主任研究官>は、現代の医療が電力への依存度が高まっていること、医療関連物流が広域化・効率化されていることを指摘しています。

 

医薬品やリネンなど多くの物資が、このことで医療機関の在庫を少なくできることはいいのですが、災害時には交通支障などでロジステックスが滞りますね。電源も遠隔地に集中しているため北海道で起こったブラックアウトがいつ発生するかもしれません。九州でも危うい状態であったかもしれません。

 

<物資の備蓄や非常用電源の燃料確保は現在、3日分程度が一般的だ。災害拠点病院の指定要件もそうなっている。>

 

この点、福和伸夫・名古屋大学減災連携研究センター長はより積極的な意見を述べています。医療機関にとって必須のライフラインである水、電力、ガスについて<太陽光発電や燃料電池、蓄電池を設置すれば停電対策になる。ハイブリッド車や電気自動車は蓄電池として使えるので、病院の医療従事者の車を全てハイブリッド車にする方法もあり得る。水は、井戸や貯水槽の他、使った水をリサイクルする浄化システムもあるといい。>と自律分散型を啓発しています。

 

以上は、ロジステックス的な視点からの災害対応でしたが、より重要なことは患者さんそれ自体への対応ですね。

先の小林氏は<災害時の医療というと、被災によるけが人への対応を想像するかもしれないが、最も優先順位が高いのは入院患者の安全確保だ。その際、各病院の業務や使命は何か、運営を続けるためにどんな方針を取るべきかという発想が大事だ。・・・各病院が日常業務に優先順位をつけ、何が大事かを点検しておかないといけない。>そうですね、日常業務に追われている医療機関で、こういった災害対応を患者の状態に応じて果たして講じられているのか、気になるところです。

 

また、小林氏は<病院の立地条件について・・・私が11年に全国の約8600病院を対象に実施したアンケートでは、回答のあった約6100病院のうち、約3割の病院がハザードマップで洪水や地震、土砂災害などの被害が予測される地域内に建っていた。>とその問題状況を明らかにしています。そもそもハザードマップの作成公表に取り組みだしたのが最近ですから、これは必ずしも医療機関だけの責任ではないでしょう。また、このハザードマップはそのデータ裏付けも十分とは言えない場合もあり、災害想定も限定的であって、その意味ではより意識的、自律的にさまざまな災害回避のための調査をして立地先を検討すべきでしょう。

 

ついでにいえば、農業振興地域農用地区除外特例や市街化調整区域で例外許可の対象となる一つの条件として医療施設となっていることから、また地価が安いことから、元水田・畑地域に病院が立地することも少なくないように思います(多くはクリニックなどでしょうけど)。低地の水田は氾濫源であることが多いのですから、相当の予防策を講じていないと、危険な選択となりますね。

 

ここでは議論されていませんが、医療スタッフの配置が災害時にも十全かという点です。車や電車通勤の方もいるでしょう。何人かは災害時を想定して、近隣を居住地としているかもしれませんが、どこまで配慮されているか心配です。そもそも残業時間を一般労働者並みに削減することに大きな抵抗があるくらいですから、ぎりぎりで医療業務に対応しているわけでしょうから、災害時スタッフが減ったらどうなるのでしょう。もっと余裕のある勤務態勢を確立してもらいたいものです。

 

JCHO北海道病院の古家乾病院長は、北海道で昨年発生した地震後のぶらっくアウトによる病院での業務に支障が生じた状態を生々しく語っています。

しかもこの病院では相当備えがあったと思われます。

たとえば<建物や設備の被害はなく、水は日ごろから地下水を浄化装置で作ってためていた>とか、<都市ガスを燃やして発電する「ガスコージェネレーションシステム」を停電対策として導入し、非常時でも75%の電力は賄えるようにしておいた>とか、<食料の備蓄>で<入院患者の食事の提供に問題は起きなかった>とかです。

 

しかし、いずれも完全ではなかったのですね。電源停止は診療中止となっています。ガスコージェネも<夏場は日中のみの発電だったため、夜間のサーバーダウンにつながった。>と災害への対応が不十分だったのです。食料備蓄も<職員用は備蓄していなかった>ので、医療スタッフは空きっ腹では満足のいく仕事ができませんね。

 

今後の対応を個々の医療従事者が心してしっかり講じることを啓発しています。

<医療従事者は非常用電源の種類や稼働可能時間、診療機能など各病院の情報をあらかじめ共有し、「非常時に地域の医療をどう守るか」という視点で日ごろから考えておくことが大切だ。>

 

とはいえ、医療機関はどんなに頑張っても、現在でも大変なのですから、別の視点も必要でしょう。

 

先の福和氏は<それでも医療機関の対応能力は限られている。それを上回る数のけが人が出たら、生死に関わらない人は手当てを受けることも難しくなってしまう。国民が「自分事」だと思って、家屋の耐震化や家具固定など、けがを少なくできるよう心がけてほしい。>と私たち個々人の心がけを求めています。当然ですね。たしか西日本豪雨の時、119番に通報が途切れず、結局、通報できなかった人もいたようです。災害時、お互い自分でトリアージして対処すること、それ以前に災害に遭わないよう配慮することでしょうかね。

 

ちょうど一時間がすぎました。今日はこの辺でおしまい。また明日。


パーキンソン病に光 <iPS、脳に移植 京大、世界初>を読みながら

2018-11-10 | 医療・医薬・医師のあり方

181110 パーキンソン病に光 <iPS、脳に移植 京大、世界初>を読みながら

 

11月も初旬となると、すっかり秋めくこの頃です。ふと外を見ると、すっかり紅葉の彩りとなっています。丘陵地と谷間に広がる柿畑がいつの間にかグリーンからオレンジカラーになっています。まだわずかに色濃い丸みを帯びた柿の実も残っていますが、葉っぱは見事に秋を演出してくれています。下草は緑色ですので、そのツートンカラーがいいです。

 

ところで、人の世はある種の価値観と煩悩の相克を垣間見せてくれ、季節の移ろいが見せる自然の妙などときに忘れさせるほどです。毎日記事<強制わいせつ東大寺高僧、容疑で書類送検 奈良県警>も、若い修行僧ならまだしも(いや、それが許されるはずはありません)、天下の東大寺で、別当に次ぐ上院院主が<東大寺の境内にある施設内で、数回にわたって、20代女性の胸を触るなどした疑い>で送検されたというのですから、驚きです。といっても、在家信者が守るべき<五戒>の一つ、<不邪婬戒(ふじゃいんかい, : kāma-mithyācārāt prativirata[2] - 不道徳な性行為を行ってはならない>は、僧侶、高僧でも時に話題となるほどですから、結構、難題なのかもしれません。

 

そんな嫌な情報はできるだけ触れたくないものです。それと比べようもないですが、毎日記事<パーキンソン病iPS、脳に移植 京大、世界初>はすばらしい朗報ですね。

 

パーキンソン病といえば<脳内で情報を伝える物質「ドーパミン」を作る神経細胞が徐々に減って発症する難病。手足を動かしにくくなったり、震えが起きたりする。国内の患者数は約16万人とされる。脳内でドーパミンに変わる薬などが保険適用されているが、神経細胞の減少を食い止める根治療法はない。>とされてきたわけですね。私も仕事で、そういう患者さんを見てきましたが、ご本人は結構しっかりした意識や判断能力をお持ちでも、身体動作が自由にならないもどかしさを感じられているように思います。それに徐々に症状が進行していく一方、それを抑えられないので、気の毒ですね。

 

それが今回行われた京大の治験で、大幅に改善する可能性がでてきたのですから、まさに暗闇に光です。

 

<京都大は9日、ヒトのiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った細胞を、神経難病のパーキンソン病を患う50代の男性患者の脳に世界で初めて移植したと発表した。医師主導の臨床試験(治験)として8月から準備を進め、手術は10月に実施した。治験で有効性や安全性を確認し、早期の保険適用を目指す。>

 

他人由来のiPS細胞から、神経細胞になる前の細胞を作り、これをを患者の脳に移植して、その移植された細胞が神経細胞になってドーパミンを出すということのようです。

 

脳移植手術は<京大病院によると、患者の頭の左前部分に直径1・2センチの穴を開け、左脳のあらかじめ決められた場所に注射器で移植した。移植細胞は、京大が作製・備蓄している他人由来のiPS細胞から作った約240万個の神経前駆細胞。手術は約3時間で終わり、これまで脳出血などの合併症はなく、「術前と変わらず良好な状況」(研究チーム)という。>

 

今後は<移植した細胞が神経細胞となってドーパミンを出し、パーキンソン病の症状を和らげるかを、PET(陽電子放射断層撮影)装置などで確認する。神経前駆細胞に変わっていない細胞が移植されていると腫瘍になる恐れもあるため、半年間は安全性を慎重に確かめ、問題がなければ右脳にも移植する。1人目の後、患者6人の治験も開始し、左右の脳に同時に移植する。効果の確認まで移植後約2年かかり、2022年度までに全員の治験を終える計画。>

 

京大の計画では<チームは22~23年度ごろに一般医療としての保険適用を目指している。9日に記者会見した主任研究者の高橋淳・京大iPS細胞研究所教授は「(治験に参加する7人に対して)薬が不要になることを期待しているが、そうならなくても、薬を飲めば良い状態を保てる状況にはなってほしい」と話した。【渡辺諒、菅沼舞】>

 

全部、記事の丸写しですが、期待できそうですね。これも山中教授が06年に発表したiPS細胞の応用研究の広がりを示す一例となっていますね。

 

今日はこれにておしまい。また明日


ガン免疫療法発見 <ノーベル賞 本庶佑氏、新たながん治療に貢献>などを読みながら

2018-10-02 | 医療・医薬・医師のあり方

181002 ガン免疫療法発見 <ノーベル賞 本庶佑氏、新たながん治療に貢献>などを読みながら

 

NHKニュースの画面を見て、一瞬驚きました。笑顔の年配者が映っていて、ノーベル賞受賞というのです。うれしい限りです。が、名前がよく聞き取れず、漢字を見てもぴんとこない。さらに受賞理由のPD-1発見とそのブレーキ機能とその阻害によるがん免疫療法の解説がありましたが、どうもよく分かりませんでした(素人には当然かもしれませんが)。

 

それで今朝の毎日記事を読んで少し整理して、なんとなくぼんやりながら輪郭が見えてきた印象です。免疫療法という言葉もよく耳にしますが、調べたこともなかったので、国立がん研究センターのウェブ情報、でざっと確認して、上記記事とあいまって基本的な知識を元により明確になってきた感じですね(分かったと言うにはほど遠いです)。

 

そんなレベルの私ですが、ノーベル賞受賞という素晴らしい出来事を少しでも理解できるように、ちょっと頭の整理の意味で書いてみようかと思って、この話題を取り上げることにしました。これはある種、私が認知症になりにくいため、いや発生を遅らせるための、自己流免疫手法?でしょうか。

 

毎日の今朝の記事ではこの感激ビッグニュース多数の紙面を使って取り上げていました。最近いいニュースが少ないですからね。まず第一面で<ノーベル賞本庶佑氏、新たながん治療に貢献 医学生理学賞5人目>として、顔写真が大きく映っていました。

 

本庶 佑氏、「ほんじょ たすく」というお名前なのですね。珍しいというか初めてお目にかかる名前で、読み方も名前の方が独特ですね。

 

<スウェーデンのカロリンスカ研究所は1日、2018年のノーベル医学生理学賞を京都大高等研究院の本庶佑(ほんじょたすく)特別教授(76)と米テキサス大のジェームズ・アリソン教授(70)の両氏に授与すると発表した。本庶氏は免疫の働きにブレーキをかけるたんぱく質「PD-1」を発見し、このブレーキを取り除くことでがん細胞を攻撃する新しいタイプの「がん免疫療法」を実現した。>どうやらPD-1の発見と、そのことで効果のある新「がん免疫療法」が実現できたということが受賞理由のようですね。

 

その「がん免疫療法」については、これまで十分な効果をあげられずにいたとのことです。

 

研究と発見は何段階かを経てステップアップしていくものですが、今回も本庶氏の下で研究するチームで少しずつ研究発見が進化したようです。

 

最初は1992年の<免疫の司令塔を担うリンパ球「T細胞」で働く「PD-1」遺伝子を発見。>ですね。毎日の別紙面<クローズアップ2018本庶氏ノーベル賞(その1) 免疫のブレーキ役発見 オプジーボの礎>では、<PD-1は、本庶氏の研究室の大学院生だった石田靖雅・奈良先端科学技術大学院大准教授が発見した。>ただ、このときは<仮説を立て、細胞の「自殺」に関与する遺伝子を探した。>ということで、その機能が実際はわからなったそうです。

 

石田氏の後輩が研究を引き継ぎ97年になって、<当時、大学院生だった岩井佳子・日本医科大教授らの研究>で、ようやく<PD-1が免疫反応のブレーキに相当することが分かり、がん治療に応用できるのではないかと考えた。 >これだけでも大変な発見なんでしょうね。でもこの段階ではPD-1はブレーキ役と理解した段階ですから、まだこの段階では直接治療効果のある発見ではないわけですね。

 

次の段階は、<その後の研究で、PD-1はT細胞の表面にあり、がん細胞の別のたんぱく質が結合してT細胞に攻撃を中止させていることが分かった。従来のがん免疫療法は、がん細胞がPD-1の仕組みを悪用し、免疫にブレーキをかけていた。>

 

その仕組みは<がん細胞の表面には、PD-1と結びつくたんぱく質「PD-L1」がある。二つが結合すると、攻撃を控えるよう求めるシグナルがT細胞内に伝わり、免疫にブレーキがかかる。抗原の投与で免疫を活性化させても、PD-1などの作用で免疫の機能が抑えられてしまっていた。>ということです。

 

この本庶氏らの解明により、すっと新薬開発がスムーズに行ったわけではなく、国内大手製薬会社は当初、関心を示さなかったそうです。免疫療法を信じなかったと言うことだったようです。

 

20149月、紆余曲折を経てようやくいま話題の新薬が生まれたのです。

<これまでになかった「ブレーキを解除して免疫を活性化する」という発想で開発されたのが、小野薬品工業(大阪市)が2014年9月に発売した抗がん剤「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)だ。薬がPD-1に結合してPD-L1との結びつきを邪魔し、免疫にかかるブレーキを解除することで攻撃力を高める。>

 

でもオポジーポについては超高額すぎて話題となり、<本庶氏ノーベル賞(その2止) 高額薬価が課題 普及するオプジーボ>に解説されているように、いま改善措置が撮られつつあるようです。

 

で、このような経過を並べても、今ひとつ漠然としていますが、国立がん研究センターの<免疫療法 もっと詳しく知りたい方へ>記事が割合とわかりやすく解説されていますので、基本的知識とオポジーポの機能などについてより詳しく知りたい方はこちらもどうぞ(むろん専門家向けではありません)。

 

これによるとオポジーポは免疫チェックポイント阻害剤として性格付けされています。

 

で、私がNHKの解説でひっかかったり、毎日記事でも、もやもやとしたものがあったのは、がん細胞に対して攻撃するべきはずの免疫細胞にブレーキの役割があるという点でした。一体それは何と思ったのです。そうするとアクセルもあるのかなと思ったのですが、どこにもそのような解説がありませでした。

 

するとがん研の上記ウェブ情報では、ちゃんとブレーキとアクセルの2つがあることを解説していて、これは専門家では基礎的用語なんですね。

 

毎日記事では、免疫細胞のT細胞のPD-1受容体がブレーキの機能をもち、がん細胞がPD-L1をそれに結合させると、ブレーキが効き、免疫機能が働かなくなるということでした。その結合を邪魔してブレーキがかからないようにするのが新薬の効能ですね。

 

ここで心配なのは、ブレーキ機能を働かせないと言うことは、アクセルペダルを踏んでばかりいるとスピードの出し過ぎになり事故の元になるのと同じで、免疫機能の逸脱防止の役割は、新薬の場合大丈夫か心配になりますが、その解説は見つけられませんでした。余計な心配なんでしょうけど、言葉の問題として気になりました。

 

で、凄い発見であることはなんとなく分かりましたが、毎日記事には健康な人はT細胞が活発に働きがん細胞を攻撃して退治している図があり、対比してがん患者の場合、上記のD-1受容体とPD-L1が結合してブレーキが働いて攻撃しないとなっています。

 

では健康な人からがん患者にどうしてなるのでしょう。それがこんどは問題となりましたが、それは永遠の謎かもしれません。PD-1といった遺伝子も多様に存在するのでしょうし、PD-L1といった物質?も・・・

 

私は「自然免疫」に依拠して人生を送りたいと願っていますが、どうなることやら・・・

 

今日はこれにておしまい。また明日。


医師の働き方と役割2 <「滅私奉公」 男性医師も限界>を読みながら

2018-09-15 | 医療・医薬・医師のあり方

180915 医師の働き方と役割2 <「滅私奉公」 男性医師も限界>を読みながら

 

13日<論点 忙しすぎる勤務医>での議論を取り上げました。そのときなにか大事なものをうっかり落としてしまったと思っていました。他方で、医療基本法の提言を取って付けた形で加えてしまい、余計わかりにくくなったかなとも思っていました。

 

昨夕の毎日記事<特集ワイド紙面座談会 「滅私奉公」 男性医師も限界 女性医師の「抑制」は当然か>で女性医師だけの談話を読んで、これは言っておく必要があるかなと改めて思ったのです。

 

まずはその座談会での発言です。この企画は<医療現場での女性医師の差別は当然なのか? 東京医科大が医学科の入試で女性合格者を抑制していたことや、全国の大学医学部の約7割で男性の合格率が高いことが明らかになった。露骨な差別に批判が噴出する一方で「女性は辞めていくので抑制は仕方がない」と当然視する声もある>ことを踏まえて、田村彰子記者?が構成したようです。

 

大学入学時の女性差別は私立と国立では違うようですが、いずれにしても私立では従来から暗黙のうちに意識されていたようですね。

 

他方で、<医学部在学中や、医師になってから「女性は不利だ」と感じたこと>については、誰もが差別的取扱を経験し、問題にしています。

 

たとえば<実習で脳外科や心臓外科をはじめとしたいわゆるメジャー外科を回っている時に、男性の先輩医師に「女医はいらない。男と女では役割が違うから」とはっきり言われたことがあります。もしくは、私と同期の男子学生には熱のこもった指導をして、勧誘している。>

 

法曹の世界でも、40年くらい前は研修所の1クラスが50名くらいで女性が45名、10%くらいだったと思います。女性が少ないので、研修所の中では結構優遇?されていたかもしれません。他方で、当時は男性は割合自由に裁判官、検察官、弁護士を選択していたと思いますが、女性は検察官をあまり選択していなかったような記憶です。医師の世界で言えば外科医などのような世界と捉えられていたかもしれません。少なくとも私は当時勧誘があり、指導検察官とも親しくしていましたが、その組織の強さには肌が合わないと思い断念しましたので、女性の気持ちもそうかなと思っていました。

 

では、弁護士の世界はどうかというと、私が若い頃はそんなイメージがあったように思います。差別的な取扱を耳にすることもありましたが、正確な情報は知らないというのが本当です。とはいえ弁護士は一人親方みたいな人もいましたので、昔気質の人は、今で言えば差別的取扱をしていたかもしれません。また余分な話をしてしまいました。

 

医師の世界に戻ります。異様さがビビッドに伝わってきます。<明らかに「男の園」ですからね、外科は。手先が器用で手術が好きだったのですが、外科医になるためには女性としての人生を全部捨てるしかないと実習で思い知らされた。>とか。

 

でも中に外科医となった女性医師もいますが、その人への印象がまたすごいです。

<外科系にわずかにいる女性医師も、学生だった頃の自分の目には幸せそうに見えなかった。外科の中では、女性扱いされていないというよりも「ちょっと変わった人」と受け止められているようで。>

 

女性医師の比率は20%以下なんですね。これはやはり低すぎますね。このこと自体、医師の世界になにか問題があると考えてしまいます。

<女性医師の人数は増えており、2016年の厚生労働省の調査で全体の2割を超えている。しかし、離職する人も多い。女性医師の割合は20代で3分の1を占めているが、50代では15%に落ち込む。特に、転勤が多く当直もある大学病院などにはほとんど残らないのが実情だ。>

 

出産と子育てで、女性医師は差別的扱いを受けるようです。しかし、だからといって女性医師を抑制するあり方が是認されるかについて、基本的な問題提起がありました。

 

妊娠・出産・育児を経験した女性医師は、当直や転勤の多さなどで無理だと発言しつつ、男性医師も同じだとして、<男性だって介護や妻の病気など24時間365日、フルに働けなくなる恐れはいくらだってありますよね。>と。そのとおりです。

 

別の医師は<女性医師の人数を抑制し、男性医師に滅私奉公を強いることで医師の不足を解決しようなんてそもそも無理です。男性医師も人間的な生活を送れるように、医療システム全体を変えていくべきです。>と医療の構造改革を訴えています。

 

具体的には、<例えば、主治医制ではなくて、チーム制をもっと推進する。情報を適切に共有すれば、夜間や休日の緊急呼び出しも激減するはず。>と、前のブログでも引用したアメリカ方式でしょうか、そういう提案がだされています。

 

これに対して、悲観的な意見もあります。<今の制度とか社会の認識のまま医学部の女性を増やしたら、大学病院やそれに依存している医療システムは簡単に崩壊すると思います。やはり女性医師は辞めてしまうことが多いので、医師不足になるからです。>と。

 

ここで指摘されている現行制度や社会の認識について述べるために、あえて今日はこのテーマを2つめとして取り上げました。

 

医療基本法の提言では患者の立場に立って制度改革を訴えることがありますが、患者の権利を確保するためには、医療側はもちろん患者側も変わる必要があるように思います。たとえば、病院で待ち時間2時間、3時間が当たり前といったことは早急に改善する必要があると思うのです。最大30分の待ち時間といった方針をたてることで、あらゆる医療サービスのあり方を見直すことを検討するのはどうでしょう。他方で、一人の診察はできるだけ15分以上かけることを方針とするのです。当然、医師にみてもらえない患者が出てきますね。でもほんとうにその医師に診てもらわないといけない患者かどうか、それほど頻回に診察を受けないといけない患者かどうか、あるいは適切に対応していない医師に長く診療を受けているかどうかなど、改めて見直すシステムを構築してはどうかと思うのです。

 

たしかに診療報酬の審査については、国民健康保険診療報酬審査委員会が一定のチェックを行っていますが、ここで取り上げているのはより診療内容にコミットすることで、適切妥当な診療のあり方を患者、医療側、双方の視点で、見直すような新たな制度です。

 

少なくとも医師が当直勤務を含め長時間労働を強いられ、女性医師が外科とか一定の診療科を担えないとか、男性医師も余裕がないような状況は、決して患者ファーストではないでしょう。患者側も自由奔放に、次々と医師を変えるとか(病院・診療所も)、効果が認めら得ないのに同じ診療を繰り返し受け続けることがあるとすれば、合理的な抑制があっても良いのではと思うのです。

 

簡単なことではないですし、誤解を招きかねないことですが、医師をこのような形で追い詰めることは、本来の医療のあり方ではないと思います。患者も望ましい医療のあり方に参加するステークホルダーとして(そういう地位がまず保障されないといけませんが)、意識を持ちたいものです。

 

今日はこれにておしまい。また明日。


医師の役割と働き方 <論点 忙しすぎる勤務医>などを読んで

2018-09-13 | 医療・医薬・医師のあり方

180913 医師の役割と働き方 <論点 忙しすぎる勤務医>などを読んで

 

毎日紙面がウェブサイトに掲載されたのが当日の場合と、結構タイムラグがある場合があります。論点の記事は結構時間がかかりました。<論点忙しすぎる勤務医>は97日付け紙面でしたが、たぶん今日のウェブサイトに登場したのではと思います(しばらく検索していましたが昨日とかは飛ばしたので正確ではありませんが)。

 

この論点記事は、女性医師、医師ユニオンを設立した医師、医療経済学を専門とする医師がそれぞれの視点から「医師がしすぎる医師」の現状を踏まえて問題と対策を提案しています。内容については異論もありますが、結構、賛同できるところがあり、異なる立場からとても興味深い意見と思います。

 

論点で課題を突きつけたのは

<大学医学部入試で、男子の合格率が女子を上回る大学が7割を占めたこと>

<得点を調整していた東京医科大は、激務に対応できる男性医師を確保しようとしたとされる>

<勤務医の多忙さは、相次ぐ過労死や労働基準監督署の立ち入り調査からも明らか>

では、<医師の働き方はどのように見直すべきか>という問題です。

 

片岡仁美氏は、岡山大学医学部教授で、政府の関係する委員会委員もされている立場で、自分の体験や大学での取り組みを踏まえて実践的な指摘をされています。

 

<医師は当直があり、いつ呼び出されるか分からない。先輩からは「自分の時間をいかに差し出せるかが医者の価値だ」と言われてきた。>そのためでしょう。<多くの女性医師が「産休明けの当直などができない状況で戻れば、ただでさえ長時間労働で疲弊している職場に迷惑がかかる」と病院を去っていった。>女性差別は医師の職場環境のためともいえるかもしれません。

 

この職場環境を前提にあれこれ小手先の対応をしても、女性医師の復帰は厳しいわけですね。片岡氏は当初は相談し合えるフォーラムなどを企画しましたがうまくいかず、次は人数増加策を採用したのです。

 

具体的には<定員とは別に柔軟な勤務を認める「キャリア支援枠」を設けた。例えば定員5人の職場でも枠を活用すれば6人目として復帰できる。>という復帰支援制度です。その結果、<これまでに約130人が復職した。戻る職場があることで離職も減った。>他方で、人件費は増加したわけですが、院長決裁で進んだようです。

 

ただ、この復帰支援制度は、現状の職場環境を前提としており、過剰労働の実態は残りますね。その点、片岡氏も、<若いころ、研修先の米国の病院には女性医師が半数もいて、子育てと両立するのが常識だったのに驚いた。日本のように主治医が夜も呼ばれるのではなく、多くの医師がいて交代で勤務する体制がきちんと整っていたからだ。>と主治医制度の問題点を指摘しています。

 

全国医師ユニオン代表の植山直人氏は、国が医療費抑制のため医師の増加を抑える政策をとった結果、<世界一の超高齢社会で医療を提供するためには、医師の過労勤務に頼らざるを得ない。>とか、<国が医師不足や長時間労働を放置してきた>と非難しています。

 

産婦人科が地方で不足していることを含め、<医師の全体数が足りない中、救急や外科などが特に少ないという診療科間の偏りや、へき地で不足がより深刻だという地域間の偏在も問題だ。>とも指摘しています。

 

医療制度の本質的な問題も指摘しています。<医療は国民皆保険制度で維持される公的な仕組みで、医師数は厳しく制限されている。>としつつ、医師には<診療科の選択や、開業する場所には制限がなく、自由が与えられている。>として、<いびつな状態だ。>というのです。

 

これに対して、大学で<進路指導をしていくなど偏在を防ぐルールを作るべきだ>というのですが、これはどのような構想でそういう提案をされているのかわかりませんが、大学にそのような判断をする基本的で適正な手続があるのでしょうか。さまざまな医療のステークホルダーがどのような形で意見形成に関与できるのかが明確でないと、絵に描いた餅になりかねませんし、かえって混乱を招くおそれを感じます。

 

過重勤務状態については、<医療事務補助員を増やしたり、IT(情報技術)を活用したりして無駄を減らすべきだ。>といった医師が担当する役割の選別化は当然必須でしょう。

 

カリフォルニア大ロサンゼルス校助教授の津川友介氏は、一番本質を突く意見を述べているように思えます。

 

<なぜ医師が忙しいのかを検証し、性別にかかわらず医師が働きやすい環境を整備することが重要だ。>と。

 

上記の医師を増やす議論については、財政的余裕がないとし、他方で、<日本の医師数(人口1000人あたり2・4人)は・・・諸外国と比べて必ずしも<見劣りはしない>と述べています。

 

日本と同レベルの人口当たりの医師数である米国の場合数が問題になっていない理由について、<日本の医療サービスの消費量が多すぎることに原因がある。>というのです。医療サービスが過剰というのでしょうね。

実際、<外来受診回数も平均入院日数も日本は米国の3倍。>です。そのため<医療サービスの消費量が多ければ、同じ医師数でも日本の医師の方が忙しいのは当然である。>とするのです。

 

津川氏は3つの政策を提案します。

 

< 一つ目は、「タスク・シフティング」である。>

つまり<医師でなくてもできる仕事は看護師や「ナースプラクティショナー(一定レベルの診断や治療をすることが許されている医師と看護師の中間職)」に任せられている。>と仕事の新たな分担システムです。この点は上記植山氏も指摘していますが、根本的に仕事内容を改革することを求めているように思います。

 

<二つ目は、主治医制からチーム制への移行である。>

<チーム制は数人の医師でチームを作り、患者の情報はチーム内で共有し、夜間の対応などはチーム内の誰かが担当する。非番の医師は、しっかりと休養できる。>この点は片岡氏もアメリカの制度として体験していましたが、わが国に導入できるは容易でない印象を受けます。なにが障害となっているのか、メリット・デメリットを取り上げながら、今後検討してもらいたいですね。

 

<三つ目は、医療の集約化である。>

<病院の機能分化を進めることで、医師も患者も大きな病院への集約が必要となる。これによって、医療の質の向上(医師1人あたりの症例数が増加)や医師の労働環境の改善(チーム制に移行)が期待される。>そういうことが長く叫ばれていますが、現実は亀足のようですね。

他方で、懸念されるアクセスの問題については<救急搬送体制を整備したり、送迎バスを用意したりするなど医療へのアクセスを維持するための制度変更の併用が必要となる。>ということですが、患者側の意識ではなかなか納得できないかもしれませんね。

 

以上は根治療法と指摘されていますが、おそらくこれまでも検討されてきた内容ではないかと思いますが、なぜ一定の導入ができないのか、それは今後よりひろく議論してもらいたいものです。

 

ところで、94日付け毎日記事<厚労省医師の残業、上限どこまで 「応招義務」解釈整理へ>では、長時間労働を生む要因の一つとして、<「正当な理由なく患者を断ってはならない」という医師法上の「応招義務」>の解釈について、厚労省では新たな検討がはじまったようです。

 

<応招義務の「正当な理由」について、医師側から「範囲が明確でないため、全て受けなければいけなくなっている」との指摘がある。このため検討会では、応招義務の解釈について整理する方針だ。>とのこと、津川氏が指摘した3つの対策とは異なる、医療の本質に関わることでもありますが、他方で医療サービスのあり方の問題でもあり、関連性があるでしょう。

 

なお、<西日本のある病院は、医師の働き方改革について「医療の質の劣化につながらないか。若い医師に勤務時間を守るよう指導すると、学ぶ意欲を低下させる可能性もある」と懸念を示した。>という意見はたしかに考慮されても良いですが、あまりに形式的に長時間勤務が望ましいというのは、いま話題のスポーツ界のように、毎日少しでも長く練習すれば良い、といったあまり合理性のない旧来型の考えとの違いを明確にしないと、支持されないように思うのです。

 

最後に昨日912日付け毎日記事<医療基本法望む声><医療基本法望む声 患者の権利法をつくる会常任世話人・鈴木利広弁護士、日本医師会常任理事・平川俊夫医師に聞く>は、医療全体をとらえ根本的な価値観を共有し定義づけることは意義のあることだと思います。紙面では懐かしい利広さんの顔が映っていましたが、40年近くこの問題を提唱して啓蒙してきた彼も、そろそろ落着したいでしょうね。久しぶりに見ましたがお元気そうでなによりです。

 

今日も一時間をオーバーしたようです。これでおしまい。また明日。