たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

犯罪被害者の救済 <記者の目 道半ばの犯罪被害者救済>と<日弁連決議>を読みながら

2018-03-27 | 司法と弁護士・裁判官・検察官

180327 犯罪被害者の救済 <記者の目 道半ばの犯罪被害者救済>と<日弁連決議>を読みながら

 

今朝再びわが家から見える桜木を見ると、一本だけ三分咲きで、後は七分咲きと、淡い桃色がかった花びらが咲き誇っていました。そして和歌山まで往復しているとき、和泉山脈の麓がよく見えるのですが、桜木があちこちに点在していて、ほぼ満開の様子でした。

 

担当している刑事事件について昨日公訴提起があり、すぐに保釈請求したところ、今日保釈許可決定がされ、日本保釈支援協会の支援を受けて、裁判所まで保釈保証金を納付してきたのです。刑事事件が極端に少なくなり、久しぶりに担当し、それも数少ない保釈請求事案でしたので、事前準備よろしく対応しました。

 

最近はネットなどで、刑事事件専門とかをうたっている法律事務所に依頼するのでしょうか、あるいは当地は平和になって刑事事件がすくなくなったのでしょうか、後者のような気がしますので、いいことかと思っています。

 

ところで、弁護士というと、刑事事件の被疑者や被告人の弁護をする姿ばかりが目立ち、TV番組でも弁護士とはそのような仕事とみられている可能性があるかもしれません。

 

私の記憶するところでは、和歌山で起こったカレー殺人事件頃から、犯罪被害者のために弁護士が立ち上がり、その支援活動を次第に強化してきたように思います。最近は法制度も少しずつ整備されてきて、以前に比べると多くの弁護士が犯罪被害者のために活動する領域が広がってきたように思いますが、ま、なかなか認知されて亡く、緒についたばかりといった見方もあるでしょう。

 

さて今朝の毎日の記者の目では<道半ばの犯罪被害者救済 賠償の新たな枠組みを=袴田貴行(北海道報道部)>と、この問題のとくに経済的損害の回復という面に着目した記事となっています。

 

まず、制度はできたけど、成果が現れていないという問題点です。

<回収できないケースが大半>という見出しは、新しい救済制度の問題をデータを踏まえて指摘しています。

 

新制度は<凶悪事件の被害者や遺族が民事訴訟を起こす負担を軽減しようと、有罪判決を言い渡す刑事裁判の裁判官が被告に対する損害賠償請求も審理する損害賠償命令制度が2008年に導入された。>この制度自体は、わが国の法体系上、刑事裁判と民事裁判は別個の制度という仕組みの中で、画期的なものといえるでしょう。

 

ただ、私は35年以上前に起こったヨーロッパでの交通事故の事例で、イタリアでは刑事裁判と民事裁判が同じ法廷で審理されることを知り、当時から別々に審理するわが国の法制に改善の余地があるように思っていました。

 

被害者にとって、刑事裁判と民事裁判を別々に対応しなければならないのは、精神的にも肉体的にもきついことは明々白々です。交通事故でも死亡者の遺族は二度も審理を通じて苦しみを味わわなければならないのですから、つらいことです。

 

その意味で、08年の損害賠償命令制度の導入は望ましい前進であったと評することができるでしょう。なお、この制度については和歌山弁護士会の委員が<損害賠償命令制度の新設について>と題して解説していますので、興味のある方はクリックしていただければと思います。

 

記者がその制度の実態について全国調査した結果、<命令・和解額通りに支払われたのは9件のみで、賠償の回収率は22%。4割以上の24件は1円も回収できていなかった。加害者が収監されるなど支払い能力がなかったり、支払う意思がなく回収できなかったりするケースが大半だった。>

 

この制度の仕組み自体、本格的に争わない場合を想定していると思われます。この手続きに不満があれば、加害者側が異議を述べれば通常の民事訴訟となるわけで、ちょっと仕組みとしては脆弱ですね。

 

記事に掲載されている事案でも、行方不明とかで欠席判決であったり、上記のように元々お金がない、支払う意思がないので、争わず、命令なり和解なりが簡単に成立したのでしょう。

 

よくいう張り子の虎みたいなものでしょうか。こういったことは十分予想されるので、そういった手当を欠いている不完全な制度設計のように思えるのです。とはいえ、一部はこの制度で支払われたのですから、それなりに成果があったと見えるのでしょうかね。

 

しかし、犯罪被害者の気持ちを考えれば、費用をかけてこの制度を使っても、加害者のひどい仕打ちに二度被害を受けたような感じなってしまうのではないかと危惧します。

 

記事では、犯罪被害者救済のために、より実効的な制度を訴える主張を紹介しています。

<ドイツやイギリスで導入されている制度を参考に、生活が困窮する被害者や遺族への年金支給や医療支援などの制度を導入>あるいは

<国が被害者や遺族への損害賠償をいったん立て替えた上で加害者に請求する「代執行制度」の導入>

 

ところで、日弁連も、刑事弁護だけでなく、長く犯罪被害者救済にも取り組んできましたが、昨年10月に日弁連人権擁護大会で決議されたと思い、日弁連のホームページを検索したら次の決議(案)が見つかりました。

 

犯罪被害者の誰もが等しく充実した支援を受けられる社会の実現を目指す決議>です。

 

日弁連は一貫して刑事弁護を主たる中核にして活動してきたと思います。むろん最近は国内外の多様な問題に取り組んでいますが、その本筋は変わっていないと思います。とはいえ、2003年以来、犯罪被害者の権利に着目して、その確立を求めて、繰り返し決議など提言を行ってきたことも確かです。今回の決議は、その中でもかなり注目されてもよい内容ではないかと思います(私は恥ずかしながら今日初めて知ったのですが)。

 

決議は<犯罪被害者は「個人の尊厳が重んぜられ,その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利」の主体>であるとして、犯罪被害者支援のために5つの項目を挙げています。

1 損害回復の実効性の確保

2 経済的支援の充実と手続き的負担の軽減

3 公費による被害者支援弁護士制度の創設

4 性犯罪・性暴力被害者のための病院拠点型ワンストップ支援センターの設置と支援

5 犯罪被害者支援条例の制定

 

今回の記事との関係では1と2を取り上げてみたいと思います。詳細は上記の決議をクリックすれば12ページ程度の内容ですので、概要がわかります。実際は数100ページの報告書で詳細に言及していますので、より詳しく知りたい方は報告書にあたっていただければと思います(日弁連事務局に連絡すれば在庫があれば入手可能です)。

 

1については、日弁連も記事が指摘する実態を承知していて、<消滅時効期間の伸長>と<強制執行段階の制度として,被害者の申立てに基づき,国が加害者の財産情報について調査する仕組み>の創設を提言しています。ま、後者は、わが国の強制執行制度自体が抱えている一般的な根本問題ですので、養育費請求の実効性などとも関係します。

 

2については

<犯罪被害者が国家から補償を受ける権利があることを明記した犯罪被害者等補償法を制定し,経済的支援施策の抜本的な拡充を図るとともに,簡易迅速な請求手続を実現させ,補償項目や補償額を充実させることを求める。>と述べています。なぜ国の補償かについて、どのような法原理を考えているのか、これは報告書を読まないとわからないですね(読んでも簡単にわかるかどうか?)。

次の点は結構重要でしょうね。

<犯罪被害者が安心して医療的・心理的支援を受けられるよう,医療や心理療法等の無償提供(現物支給)の早期実現を目指すべきである。>現実にはある程度、PTSD対策を含めなされているのでしょうが、制度的裏付けがないと思われるので、制度化して充実したものにするのでしょうね。

次はやはり日弁連としては必須かもしれません。

<弁護士による法律的な支援を無償で受けられる制度の実現についても検討されるべきである。>

欲張った次の提案は興味深いですが、なかなか現実味がしないですね。ただ、刑事罰と同等、いやそれ以上に求められるかもしれません。ただ、すべて金銭的な解決というのもどうかと思ったりします。これから議論に花開かせれば、新たないい案が生まれるかもしれません。

<国の機関が犯罪被害者による強制執行を代行する制度,あるいは国の機関が加害者に代わって被害者へ賠償金を支払い,追って加害者へ求償する制度の創設についても,議論を深めるべきである。>

 

といった不十分な紹介で、本日は打ち止めとします。また明日。


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