180401 死のあり方と救急蘇生 <高齢者蘇生、重い判断 「最期は自宅」増え>を読んで
昨日森林環境税について舌足らずなものを書いたので、少し林業の担い手について書いてみようかと思っていたのですが、批判的な内容になるのは致し方ないものの、前向きの議論があまりできないので、このテーマはもう少し先にしようと思います。
そして毎日記事を題材にさっと書き上げようと思ったら、毎日デジタルの契約が昨日で期限切れ?となっていて(新聞購読者はこれまで無料)、4月1日から有料化になっていました。ネット配信で稼ぐ時代になったのですね。ま、これはやむを得ないかもしれません。
ところがその登録がうまくいかず、結構時間がかかってしまいました。そしてブログを書き始めたのがすでに7時を回っており、中身は重い話題ですが、今日も簡単に済まそうと思っています。
で、毎日記事では一面で<「蘇生拒否」消防6割遭遇>とあり、毎日のアンケート結果で<全国74機関 対応に苦慮8割>と深刻な問題になっていることがわかります。
ところで、救急通報があれば、隊員は職務上、迅速に救急搬送、そして心肺停止であれば蘇生処置を講じることが求められるでしょう。
しかしながら、3面の記事<クローズアップ2018高齢者蘇生、重い判断 「最期は自宅」増え>では<高齢化による「多死社会」の到来で、通報で駆け付けた消防の救急隊員が心肺停止している高齢者の蘇生処置や搬送を拒まれるケースは、今後増えると見込まれる。>と家族などの抵抗が現場を悩ませているようです。
長谷川容子、三上健太郎、堀井恵里子の3記者の取材による記事は、救急通報の是非や、その場の対応、いや予想される場合の事前準備の必要を感じさせます。それは本人、家族、医師、救急隊員などとの事前の協議が必要ではないかと思われるのです。さらに、法制度的な解決も求められているのかもしれません。
ある事例を報告していますので、引用します。
< 「60代男性が自宅で意識不明、呼吸していない」。>
<2016年12月、119番を受けて埼玉西部消防局(埼玉県所沢市)の救急隊員、小野和幸さん(45)らが駆け付ける>
ところが、
<男性の妻は「末期がんなので、夫の望み通り自宅で最期を迎えさせたい」と訴えた。>
<家族は主治医を呼ぶ予定だった>ということで、通報するつもりがなかったようです。
<その場にいない知人が急変を聞いて、慌てて119番してしまったという。>
こういった関係者の考え方の違いはあり得るでしょうね。家族間はもちろん、知人や親類などだともっと多様な考え方になるかと思います。
実は私の父は、脳梗塞で倒れ長い入院生活の後、自宅で2年間母の介護を受けた後30年以上前に自宅で死亡しました。入院しているときから寝たきりで意識も朦朧とした状態でした。母は入院中から何年間、寝たきりの父を介護したのでしょう。むろん最後は救急車も呼ぶことなく、衰弱死でした。このことについて、遠くに住む父の妹たちは母に苦情を述べたことがあり、さすがに私は抗議したのですが、母の結婚時家制度の残滓が残っていて、親族とはそういうものかと思ったものでした。
現在においても本人の死に対して、その対応の仕方は本人の自由な意思によって決まるとは限りませんね。家族間、遠くの親族、知人といった関係者が多いと、本人の意思が明確でない場合船頭多くしてということになりかねません。
私は父の死を見て、遅くともその頃からは自分の死を考えてきたのかもしれません。父は、自分の意思を明らかにしないまま、生かされてきたように思います。親族の強い意志があったと思いますが、母は満足していたように思えます。ただ、私は自分の死は自分で決めたいと思っていますし、いかなる延命治療も必要ないと思っています。なんらかの医療行為によって寿命を延ばすことの意味を見いだせません。重篤な疾病であれば、手術も避けて、それが天命として受け入れたいと思うのです。
できるだけ痛みの少ない方法での医療行為は受けますが、この記事で問題となってるような延命措置は必要ないと思っていますので、このブログが私の意思ですね。といっても、私自身が自ら死を招くようなことは避けたいので、健康維持のために日々努力しています。喫煙などはもってのほかですね。飲酒も少量にとどめて、百薬の長くらいの感じでしょうか。
またまた無駄な自分の話をしてしまいました。
本論の記事に戻ります。
DNARって、私は知りませんでした。それで調べてみると、
日本救急医学会・医学用語解説集の<DNAR>の解説がわかりやすいものでした。
<患者本人または患者の利益にかかわる代理者の意思決定をうけて心肺蘇生法をおこなわないこと。>と簡単明瞭です。ただ、含蓄のある但し書き以下がやはり議論となるでしょう。
<ただし,患者ないし代理者へのinformed consentと社会的な患者の医療拒否権の保障が前提となる。欧米では実施のためのガイドラインも公表されている。1995年日本救急医学会救命救急法検討委員会から「DNRとは尊厳死の概念に相通じるもので,癌の末期,老衰,救命の可能性がない患者などで,本人または家族の希望で心肺蘇生法(CPR)をおこなわないこと」,「これに基づいて医師が指示する場合をDNR指示(do not resuscitation order)という」との定義が示されている。しかし,わが国の実情はいまだ患者の医療拒否権について明確な社会合意が形成されたとはいい難く,またDNR実施のガイドラインも公的な発表はなされていない。なおAHA Guideline 2000では,DNRが蘇生する可能性が高いのに蘇生治療は施行しないとの印象を持たれ易いとの考えから,attemptを加え,蘇生に成功することがそう多くない中で蘇生のための処置を試みない用語としてDNAR(do not attempt resuscitation)が使用されている。>
で、救急通報を受けた<同消防局は、本人の意思確認ができているのを前提に、患者家族が書類に署名して医師が同意すれば、蘇生処置の中止を認めるという「DNAR」のルールを決めていた。>
ではどのようにDNARのルールが実施されたかが示されています。
<小野さんらはまず、男性をベッドから畳に降ろし、胸骨の圧迫を始めた。直後に処置をやめてほしいと妻から申し出があったが、この段階ではまだやめられない。すぐに主治医に電話して中止の指示を受け「よろしいですね」と再度確認した。家族は静かにうなずき、妻が書類にサインした。胸の圧迫は9分続いた。
その後、到着した主治医が死亡を確認。夫の最期をみとった妻は隊員に「ありがとう。これでいいんです」と感謝し、泣きながら娘と抱き合ったという。小野さんは手順通り正しく対応したと頭では理解しているが「(処置中止の)書類があるからといって簡単に割り切れない」と苦しい胸の内を明かした。>
本人が倒れたときの家族なりの対応が難しいですね。
<本人に蘇生処置を希望しない意思があれば119番しないのが望ましい>のですね。ところが、そういう事態に遭遇すると、事前に理解していれば別ですが、救急通報する気持ちもわかります。そうなると<通報で呼ばれてDNARの判断が迫られる可能性はどの救急隊員にもある。毎日新聞の調査に、北海道内の消防本部の担当者は「(DNARは)家族の説得や医師の指示待ちで現場滞在が長くなったり、搬送後に別の家族ともめたり、ストレスが他の事案に比べて強い」と答えた。>と悩ませるわけですね。
その現場の悩みを取り上げています。
<関係者を悩ますのは、消防法令では救急隊員は蘇生処置をしながら搬送するか、死亡と判断して搬送しないかの選択肢しかなく、DNARの位置付けが不明確な点だ。千葉県柏市消防局は「本人が望んでいない救命処置をせざるを得ない時、それを家族に説明するのに苦慮する」と指摘。「家族や身近な人が自分の命についてどう考えているかを知っておく風土を育むことが大切」(熊本市消防局)、「かかりつけ医と本人、家族が話し合い、救急要請をしない態勢を作るのが重要」(神奈川県横須賀市消防局)など、社会の意識変化を望む声もある。>
厚労省は一定の新指針を示していますが(これは検索しましたが見つかりませんでした)、これが明確なガイドラインとはいえないでしょう。
<厚生労働省は、終末期の医療やケア全般に関する指針を3月に改定した。新指針は対象を医療機関だけでなく在宅や介護施設でのみとりにも広げ、本人とかかりつけ医らが事前に話し合い、意向を示す書類を残していた場合は、延命治療をしない選択ができるとの考えを示している。>
消防庁でも独自の検討を始めているようです。
<救急搬送時の蘇生処置でも同様の手続きを求めたのが、総務省消防庁の委託を受けた北九州市立八幡病院の伊藤重彦・救命救急センター長を代表とする研究班だ。昨春に策定した手順書では、介護施設にいる終末期の高齢者が心肺停止した場合、本人の事前指示書と担当医の指示がセットで確認できた段階で蘇生処置を中止できるとした。「心肺停止前の2、3日以内」の指示に効力があるとの考えを提示。在宅の高齢者でも対応可能として全国の救命救急センターなど計500カ所に配布しており、消防庁は「今後の参考にしたい」と話す。>
医学界も本人意思を尊重する動きになっているようですね。
<救急医療に携わる医師らで作る日本臨床救急医学会も昨年3月、心肺停止した患者も原則病院搬送はするが、患者が延命を望まない書面を残している場合などに限り、本人の選択を尊重して蘇生中止を容認する提言をまとめている。>
伊藤センター長の研究班に加わる福岡県弁護士会の松村龍彦弁護士が指摘するように、法制度の整備も検討されてよいのでしょう。
ちょうど一時間、今日はこれにておしまい。また明日。
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