最近、アシュケナージが平均律クラヴィーア集のCDをデッカから発売している(2004,2005年録音、UCCD-1148/50)。アシュケナージによるバッハの作品のCDは、日本ではほとんど発売されていないと思う。アシュケナージには1996~1998年に録音したショスタコービッチの24のプレリュードとフーガのCDがやはりデッカから発売されているが(POCL-1884/5)、その流れで今回の録音となったのであろうか。ちなみに、ムストネンが1997年にバッハとショスタコーヴィッチのプレリュードとフーガの両作品を取り混ぜた非常に面白い企画のCDを録音している(BMB、BVCC-34006/7)。
このCDはアシュケナージの初のバッハ演奏であり、興味深く聴いてみた。軽快なしかも正確なタッチで、特にテンポの速い楽曲では彼ならではの演奏である。CDも3枚で、演奏時間も短めである。しかし、グールドやグルダのような強烈な個性は感じられず、他の作曲家の作品と同様の彼なりの流儀で演奏しているように思われ、バッハに特別に愛着があるようには感じられないのが残念である。解説者の諸石氏は“彼にとって、この《平均律》は一つの到達点であると同時に、さらなる出発への決意表明としての意味を持つ、そんな気配を感じさせる。”と述べている。私も彼のバッハ演奏にはもっともっと可能性があるように思える。次の作品を楽しみにしている。
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