このCDは、「ヘンデル:オラトリオ《エジプトのイスラエル人》」(HWV54)(NAXOS:8.570966-67)(ケヴィン・マロン指揮、アラディア・アンサンブル(オリジナル楽器使用))(録音:2008年1月3-10日、聖アン英国国教会、オンタリオ、カナダ)で、最近発売されたものです。《メサイア》の約3年前、《サウル》の同年(直後)に作曲されています。1738年10月1日に作曲にとりかかり、11月1日には完成させており、この曲も何と約1ヶ月間という短期間で完成させています!。初演は1739年4月1日でヘイマーケット国王劇場で、その時は大失敗であったと伝えられています。台本作者はジェネンズか、あるいはヘンデル自身であったとも伝えられています。
このオラトリオの概略を、三澤寿喜著「ヘンデル」(音楽之友社、2007年)から引用させて頂きます。題材は旧約聖書の『出エジプト記』で、ヘンデルが最初に完成させたのは「モーセの歌」(一般に第三部と言われている部分)です。これはモーゼの導きにより葦の海を渡ったイスラエルの民が神に感謝を捧げる部分です。次いで、脱出以前のエジプトにおけるモーゼの数々の奇蹟を描く「出エジプト」部分を作曲しました(今日の第二部)。「出エジプト」の発端は、エジプトの奴隷となりながら、宰相となったヨセフの死に行き着く。そこで、1737年(前年)(この年にヘンデルは脳卒中になっています)に作曲した《キャロライン王妃のための葬送アンセム》(HWV264)を「ヨセフの死を悼むイスラエル人の嘆き」に改題し、丸ごと第一部に流用したようです。ちなみに、キャロライン王妃は、ジョージ二世の妻で、聡明な女性で、渡英以前のハノーファー選帝侯皇太子妃の頃よりヘンデルとは友人で、渡英後も娘たちの音楽教師としてヘンデルを厚遇し、資金援助も行っていたようです。このようにして全三部からなるオラトリオが完成したようです。この曲は、宗教色が強く、合唱曲が全体の七割を占めており、ヘンデルの曲としては異例の曲です。また、他人の作品からの借用もあり、この理由は謎とされています。
三澤寿喜氏の記述にもあるように、このオラトリオの成立は、作曲された年代から考えると、「オペラの失敗、脳卒中の罹患、自らの良き理解者であったキャロライン王妃の死去などの様々の苦難から回復した自分自身を、エジプトから救出されたイスラエルの民と重ね合わせて、神への感謝をこの曲を通して表現した」と考える説が妥当なように思います。
この曲はある意味でヘンデルらしくなく、また、成立の点でもまだ解明されていない部分もあり、非常に興味深く聞き入りました。第一部の葬送アンセムの部分は、バッハのモテットを連想し、崇高で神聖な感じがして特に気に入っています。。
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ご無沙汰しております。
ひさしぶりにお邪魔して、ヘンデルの記事が充実していることに驚きました。
バッハとヘンデル、どうしてもバッハの方に比重がかかってしまうのですが、この記事を拝見したらむらむらと(笑)ヘンデルの曲を聴きたくなってしまいました。
最近パーセルの宗教曲を何枚か聴き、彼のアンセムの素晴らしさに胸を打たれたばかりです。
ヘンデルのアンセムも聴いてみたいところです。
http://blogscout.jp/
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音楽に関して、非常に丁寧につづっているブログですね。
とても質が高く、コマメに更新していらっしゃいますので、
定期的に読みに来る人も多いのではとコメントさせていただきました。
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