幾何学の問題で、たった一本の補助線を引くことが解決への道筋をひらくように、「思考の補助線」を引くことで、一見無関係なものごとの間に脈絡がつき、そこに気づかなかった風景がみえてくる。この世界の謎に向き合う新たな視座を得ることができる―。「知のデフレ」現象が進む日本で、ときに怒りを爆発させながらも、「本当のこと」を知るために探究をつづける著者の、情熱的な思索の過程が本書である。自由軽快に、そして粘り強く考えるヒントを、自らの一身を賭して示す。
(以上、ブックレビュー)
今年一年を振り返ると何故か脳ミソへの関心があって天才脳科学者茂木健一郎博士の著書はほとんど読んだ。茂木博士は「物質である脳がなぜ心を生むのか」という主題をもとに物質(自然科学)と心(人文学)それぞれの思考領域が交差したところで脳科学者として果敢に発言している。司会をしているNHKの番組でゲストに対して「それは、脳科学では~」と平明に説明するのもそうした行為だろう。本書はそんな茂木博士による知の人生訓みたいなものだ。
それから茂木博士には「すべては脳内現象である」という悟りを開いた考えがある。本書でもニーチェの哲学概念を取り上げ、プラトン的世界である普遍的な思考もノイズとカオスにまみれた猥雑な日常的思考も同じ脳内にあるとしている。なんでも一つの脳に共存する両者の関係性は人間の持つ意識の不思議さに直結しているそうだ。さて、今、世界不況の最中、渦中にいる人たちの脳内でどういった思考がされているのか、その結果どうなるのか、ということに関心がある。なんたって「100年に一度」だ、果たして来年はどうなることやら。