秋田の八郎潟干拓地において,生息・繁殖が確認されたのが,1973年のこと。
私がまだ秋田にいた子どもの頃で,当時は,地元の魁(さきがけ)新聞にも,「幻の鳥オオセッカ見つかる」という感じで,大きく掲載されたように記憶している。
この頃から,この鳥は,私にとっての「幻の鳥」,つまり,憧れの対象になった。
当時は,どんな鳥か,よく知らなかったし,自分が見るようになるなんて,夢にも想像できなかったけど。
その後,八郎潟干拓地の個体群は激減し,観察できなくなったが,1980年に生息・繁殖が確認された青森県の仏沼では,地域の方々の保護活動もあり,現在に至るまで,オオセッカの貴重な繁殖地,...,どころか,日本最大の繁殖地になっている。
ということで,仏沼には,ラムサール条約の指定湿地になる前から,何回か,お邪魔している。
立ち入るのに事前の届出が求められた時期もあったが,現在は,事前の届出もなく,普通に探鳥できるようになっている。
ラムサール条約指定湿地に登録されて以降,それまで以上に,きちんと管理,整備されるようになった印象がある。
野鳥保護のため,車での立ち入りが禁止されたことに伴い,駐車場が2か所整備され,そこにポケットに入れて携帯できるサイズの地図付きパンフが置かれるようになった。
このパンフは,すごく良い。
歩くための遊歩道も,良い感じに整備,管理されている。
さて,オオセッカだ。
この日は,4月13日に野焼きが行われてから,ほど良い期間が経過しており,伸びた草丈がちょうど良い按配で,観察しやすかった。
早朝は濃霧。
今回は,南側の駐車場に車を止めて歩いたが,歩き始めてすぐ,霧の中から,間違えようもない,独特のさえずりが聞こえ,姿も見えた。
さえずりは,超早口で,チョ,チョ,チョ,チョ,チョ,チョ,チョ,チョ,チョ。
何度か数えたが,チョが9回。
もしかすると,もうちょっと。
図鑑には,ジュクジュクジュクなどと表現されているが,私には,そうは聞こえない。
たぶん,人によって,聞こえ方が違うのだろうから,図鑑どおりでなく,皆,自分なりの聞き方をすれば良い。
ヨシなどに止まったまま,さえずることもあるが,得意なのは,さえずり飛翔。
チョ,チョ,チョ,...,という,一連の短いさえずりに合わせ,Ω(オメガ)の形に,飛び上がって,降りる。
目で追うと,降りた場所がわかるので,姿が見えても,見えなくても,じっとそこを見ていると,ある程度のインターバルを挟んで,また,さえずりながら,飛び上がる。
大体同じような場所で,これを繰り返すが,ときに,離れたところに降りることもある。
そういうときでも,待っていると,同じ場所に戻ってくる。
さえずり飛翔は,とても目立つので,止まった姿を観察したいときは,目で追って,降りたところを見れば良い。
遠かったり,草の中の見えないところに降りたり,ということもあるが,結構近いところに降りて,その姿を見せてくれることもある。
私のお気に入りのオオセッカのポーズはこれ。
黒い斑が散らばった背中と少し長めの楔(くさび)型の尾がよく見えるポーズ。
やっぱり,この背中と,尾が,オオセッカのチャームポイントだと思う。
正直,このポーズを見ないと,オオセッカを見た気がしない。
オオセッカはセンニュウ科で,セッカが属するセッカ科ではないが,くちばしに向けて先細りの雫(しずく)型の顔は,セッカによく似ている。
顔つき以外でも,全身の色合や生息環境,さえずり飛翔をすることなど,似ているところが多く,セッカの名前をもらったのも,頷(うなず)ける。
こんなふうに足を広げて止まるのも,セッカそっくり。
こんな格好してさえずるし。
しっかりと足でつかんで,竹馬に乗っているみたい。
一夫多妻であることもセッカと同じだが,お腹側を見ると,縦溝(割れ目)があって,オスにも抱卵斑(抱卵する時期,卵を抱いて温めるためお腹の一部の羽が抜ける)があるようにも見える。
オスは抱卵しない,ということなので,たぶん,こんなお腹がデフォルトなのだろう。
これもオオセッカの特徴なのかな。
なお,セッカの北限は宮城県,ということなので,仏沼にセッカはいないが,同じく有数な繁殖地である利根川河川敷では,一度に両方見れるのだろうか。
今回,たくさんのオオセッカを観察したが,仏沼全体では,減少傾向にある,という。
地元新聞の昨年の記事によると,2011年に600羽を超えていたオスの個体数が,2023年は,3年ぶりに増加しても,400羽に届かない,ということだ。
原因は,よくわからないが,仏沼自体の乾燥化や東日本大震災による越冬地の環境変化などが懸念されているようだ。
そういえば,私が行ったとき,水が貯まるマスのようなものを,手作業で掘っていた方々がいたが,乾燥化に対応する環境改善作業の一環だったかもしれない。
頭が下がる。
一歩間違えると,簡単に絶滅してしまうが,保持させるには,大変な努力が必要。
現に,八郎潟干拓地のオオセッカは,いなくなってしまったようだし,戦前まで遡ると,初めて繁殖が確認された宮城県蒲生では,発見後,すぐに消滅してしまったらしい。
野鳥狙いのカメラマンの中には,マナーやルールを守らない人たちもいて,ときには,その行動によって,野鳥の繁殖に影響を与えている状況にあって,野鳥の保護・維持活動に尽力されている方々には,本当に,頭が下がる思いだ。
感謝しかない。
(2024/06/08-09 オオセッカ)