ようやく小降りになった中を、その若い男は、先を急ぐのでしょうか、おせんの貸した手ぬぐいを手にしたまま、
「明日にでも洗って返しますよって、また、ここに来てください」
と、ぶっきらぼうに言い残しながら、おせんが「そんなことかましまへん」と、言おうと思ったその時には、もう小雨になった雨の中に消えて行きました。
「なんて気ぃのお早いお人でっしゃろ」と、おせんは足早に遠ざかって行く雨中の元気よい若者の後姿をしばらくあきれたように眺めていました。それを契機に、雨宿りの他の3人も、このおせんたちの姿を見ながら、それぞれ無言で、左、右へと立ち去ります。
小さな雨はまだしょぼしょぼと降っています。遠い東の空の彼方から、時々思い出したように、まだ、ごろごろと、か細い雷の響きだけが聞こえて来ます。あれだけいっぱいに空を覆っていた黒雲も、何時の間にやら東の空へと消え去り、西の空には、真っ赤に染まった真夏の夕日が雲間から顔を覗かせて、辺りを夕焼け色で包み込んでいます。大きな虹も北の空から南にはっきりと姿を現しています。優しい夕立風も頬を撫でながらすーっと吹き来ます。
「だから、夏は大好き」と、おせんは、空一杯に架かったその虹を見上げ、後れ毛を掻き揚げながら、独り言のようにつぶやきます。しばらく、誰もいなくなった宋源寺の山門に、一人で佇んでいました。
「明日来いって、いつでしゃろか」
なんとなく気になってはいましたが、「あげてもよか」と、気楽になって、夕焼け空の広がって行く道を、夕立後の風のように晴れ晴れしい気持ちになって家に向かいます。
「明日にでも洗って返しますよって、また、ここに来てください」
と、ぶっきらぼうに言い残しながら、おせんが「そんなことかましまへん」と、言おうと思ったその時には、もう小雨になった雨の中に消えて行きました。
「なんて気ぃのお早いお人でっしゃろ」と、おせんは足早に遠ざかって行く雨中の元気よい若者の後姿をしばらくあきれたように眺めていました。それを契機に、雨宿りの他の3人も、このおせんたちの姿を見ながら、それぞれ無言で、左、右へと立ち去ります。
小さな雨はまだしょぼしょぼと降っています。遠い東の空の彼方から、時々思い出したように、まだ、ごろごろと、か細い雷の響きだけが聞こえて来ます。あれだけいっぱいに空を覆っていた黒雲も、何時の間にやら東の空へと消え去り、西の空には、真っ赤に染まった真夏の夕日が雲間から顔を覗かせて、辺りを夕焼け色で包み込んでいます。大きな虹も北の空から南にはっきりと姿を現しています。優しい夕立風も頬を撫でながらすーっと吹き来ます。
「だから、夏は大好き」と、おせんは、空一杯に架かったその虹を見上げ、後れ毛を掻き揚げながら、独り言のようにつぶやきます。しばらく、誰もいなくなった宋源寺の山門に、一人で佇んでいました。
「明日来いって、いつでしゃろか」
なんとなく気になってはいましたが、「あげてもよか」と、気楽になって、夕焼け空の広がって行く道を、夕立後の風のように晴れ晴れしい気持ちになって家に向かいます。