家に帰って、気になっていた懐にある政之輔からの書付を取り出します。
よく物語の中で読む、付け文を貰った女の人の気持ちって、こんなものなのだろうかと思い、なんだか顔がちょっと赤らむように思えました。何しろ生まれて初めての男の人からの頂いた手紙だったものですから。
開いてみると、余り上手だとは思われないような字でしたが、それでも丁寧に書き並べてありました。ちょっと胸の高まりを覚えるような、物語に出てくるようなそんな顔を赤らめるほどものではありません。いとも簡単に
「急啓、明後日、午の刻、錦町勝報寺前の小料理屋「松の葉」於て、お礼致したく候、必ず御出被下候 ふくろう」
と、書いてあります。
「まあ相変わらず一方的やは」と思ったのですが、「来いというのに行かないわけにもいかないやろうな」と思います。丁度、お稽古も、その日はありません。お昼前から「ちょっとでてきます」と言って、家を出ます。
松の葉というのはどんな料理屋かは分りませんが、あの堅物の先生だからと、言う安心もあったものですから出かけます。
松の葉に来て見ると、思っていたより案外にこぎれいな粋な感じのするお店です。
案内を請うと、ここの女将でしょうか
「どうぞ、ふくろう先生、もう先ほどからお待ちどす」
と案内してくれます。
「ふくろう先生。お待ちかねのお人どす。・・・どうぞこちらへ」
「来てくれましたな。お待ちしており申した。遅くなってしもうたのですが手ぬぐいのお礼です」
又。例の俄か江戸弁が飛び出します。
うなぎの蒲焼がこの店の名物だと言うことで何やかにやぎょうさんのお料理がおせんの前に並びます。
「本当にようこそおいでやす。・・・この堅物なふくろう先生が、女の人にご馳走すると言いはりますねん。そりゃあ、みんな、どんなお人でしゃろかと、楽しみにしていたのどす。隅に置けないふくろうで先生と、皆でお噂していたのです。それが、こんな美しいこいさんが現れてびっくりしてますねん。・・先生、お酒はどうです」
「今日はそれはなしです。女将、美味しいここの特性かばやきを食べて頂きます」
と、ふくろう先生。
女将も下がり、二人きりの食事になります。女将も言うように堅物で、その上、この物言わずがと思っていたおせんですが、ふくろう先生、そうでもないらしいのです。
医者として自分で考えていること、将来したいことなど熱っぽく語ります。
香屋と言う苗字から袋と言う苗字に変わった経緯、父が惨殺された大塩平八郎の騒動、シーボルトというオランダのお医者様の話など聞かせてくれます。
「今、苦しんでいる貧しい人々のために命をも投げ出して救くおうとした大塩先生と父の志を受け継いで、ささやかに医者の仕事をしているのです」
と、真心を込めて一心にお話になるふくろう先生の話しをおせんはじっと聞き入っております。政之輔という医師の人柄を見るようです。
「人を助ける」ということは聞いた事がありますが、政之輔さんの父親や大塩先生って、どんなお人だったんだろうとも思います。
途中で、女将が、何か、又、料理を運んで入ってきます。
「そうです。この先生えろうおます。とし若のくせに。夜でも構わんで診てくれるさかい。だから、ふくろう先生なのだす。この辺のお人、みんなありがたく思って感謝しておりまんねん」
「っや、どんでもおまへん。たいしたことおまへん」
「それ、そこが、又、みんな、先生のええところじゃおまへんか。みんなほれてまんねん」
よく物語の中で読む、付け文を貰った女の人の気持ちって、こんなものなのだろうかと思い、なんだか顔がちょっと赤らむように思えました。何しろ生まれて初めての男の人からの頂いた手紙だったものですから。
開いてみると、余り上手だとは思われないような字でしたが、それでも丁寧に書き並べてありました。ちょっと胸の高まりを覚えるような、物語に出てくるようなそんな顔を赤らめるほどものではありません。いとも簡単に
「急啓、明後日、午の刻、錦町勝報寺前の小料理屋「松の葉」於て、お礼致したく候、必ず御出被下候 ふくろう」
と、書いてあります。
「まあ相変わらず一方的やは」と思ったのですが、「来いというのに行かないわけにもいかないやろうな」と思います。丁度、お稽古も、その日はありません。お昼前から「ちょっとでてきます」と言って、家を出ます。
松の葉というのはどんな料理屋かは分りませんが、あの堅物の先生だからと、言う安心もあったものですから出かけます。
松の葉に来て見ると、思っていたより案外にこぎれいな粋な感じのするお店です。
案内を請うと、ここの女将でしょうか
「どうぞ、ふくろう先生、もう先ほどからお待ちどす」
と案内してくれます。
「ふくろう先生。お待ちかねのお人どす。・・・どうぞこちらへ」
「来てくれましたな。お待ちしており申した。遅くなってしもうたのですが手ぬぐいのお礼です」
又。例の俄か江戸弁が飛び出します。
うなぎの蒲焼がこの店の名物だと言うことで何やかにやぎょうさんのお料理がおせんの前に並びます。
「本当にようこそおいでやす。・・・この堅物なふくろう先生が、女の人にご馳走すると言いはりますねん。そりゃあ、みんな、どんなお人でしゃろかと、楽しみにしていたのどす。隅に置けないふくろうで先生と、皆でお噂していたのです。それが、こんな美しいこいさんが現れてびっくりしてますねん。・・先生、お酒はどうです」
「今日はそれはなしです。女将、美味しいここの特性かばやきを食べて頂きます」
と、ふくろう先生。
女将も下がり、二人きりの食事になります。女将も言うように堅物で、その上、この物言わずがと思っていたおせんですが、ふくろう先生、そうでもないらしいのです。
医者として自分で考えていること、将来したいことなど熱っぽく語ります。
香屋と言う苗字から袋と言う苗字に変わった経緯、父が惨殺された大塩平八郎の騒動、シーボルトというオランダのお医者様の話など聞かせてくれます。
「今、苦しんでいる貧しい人々のために命をも投げ出して救くおうとした大塩先生と父の志を受け継いで、ささやかに医者の仕事をしているのです」
と、真心を込めて一心にお話になるふくろう先生の話しをおせんはじっと聞き入っております。政之輔という医師の人柄を見るようです。
「人を助ける」ということは聞いた事がありますが、政之輔さんの父親や大塩先生って、どんなお人だったんだろうとも思います。
途中で、女将が、何か、又、料理を運んで入ってきます。
「そうです。この先生えろうおます。とし若のくせに。夜でも構わんで診てくれるさかい。だから、ふくろう先生なのだす。この辺のお人、みんなありがたく思って感謝しておりまんねん」
「っや、どんでもおまへん。たいしたことおまへん」
「それ、そこが、又、みんな、先生のええところじゃおまへんか。みんなほれてまんねん」