かなり間が空くことになるが、集団的自衛権を考えるシリーズの第三弾を書くことにする。
このタイトルをみて、何の話かと思う方もいるかもしれない。
カルタゴというのは、紀元前に北アフリカに存在した国である。たまたま以前ローマの話が出てきたので、今回はそのローマのライバルであったカルタゴの話をしてみる。一応安全保障というテーマにも関係のある話だ。また古い話を、と思われるかもしれない部分もあるが、過去の話だからといって忘却しないようにしようというのが私の主張なので(「狼は足跡を隠す」参照)、その点も含めて読んでもらえれば幸いである。
今から4年前の2011年の1月のことである。そのとき行われていた通常国会の代表質問において自民党の小池百合子氏は、当時起きていたチュニジア政変にからめて、カルタゴの故事を持ち出した。小池氏によれば、カルタゴはローマとの戦争に敗れたあと、復興して経済大国となったが、軍事は重視していなかった。経済発展ばかりを追求して国防をおろそかにしていたために、ローマに目をつけられて滅ぼされたというのである。つまるところ、カルタゴの故事に戦後の日本をなぞらえて、日本も再軍備するべきだといいたいわけだろう。果たして、この主張は正しいだろうか。
まず一つ確認しておきたいのは、カルタゴを滅亡に導いた第三次ポエニ戦争は、カルタゴの側から仕掛けた戦争だということである。隣国の挑発に乗って軍事行動を起こしたために、ローマ軍が介入してきて滅ぼされたのだ。そしてもう一つ、ローマがカルタゴを脅威みなしていたのは、おそらくその前の第二次ポエニ戦争があったためだ。第二次ポエニ戦争においては、かの有名なハンニバルが登場する。ハンニバルの率いるカルタゴ軍は、アルプスを越えて、一時はイタリア半島にまで進軍する勢いをみせた。そのことがあったために、カルタゴを放っておくことはできないという考えがローマ人の間に生まれ、大カトーのようにあくまでもカルタゴ殲滅を主張する政治家が現れたのである。
歴史は正しく認識しなければならない。おそらくは、カルタゴがただの経済大国であったなら、ローマもそれを脅威とみなすことはなかった。むしろ、軍備を増強したがゆえに、危険視され、滅亡することになったと見るほうが妥当である。ここでついでに、第二次ポエニ戦争もまた、カルタゴの側から仕掛けた戦争だということを付け加えておこう。一軍人にすぎないハンニバルが暴走して、ローマとの不可侵条約を一方的に破るかたちで戦争を起こし、それがカルタゴを滅亡に導く遠因となったのだ。そしてもしそうだとすれば、そこから得られる教訓も、小池百合子氏の主張とはまったく異なるものになるだろう。
軍備を増強するということは、それ自体が周辺国の猜疑心を呼び起こすということを忘れてはならない。日本が軍備を持つことを主張する人たちが仮に中国を念頭に置いているとするなら、中国と対抗するために軍備を増強したらどうなるのか。中国がそれで、すみませんでした、もう挑発的な行動はしません、などといって引き下がる相手でないことは、日ごろの言動を見ていればわかる。むしろ、国の面子をかけて、さらなる軍備増強で対抗してくるだろう。まあそれでも、日本の自衛隊というのはいまの時点でも決して中国軍に劣ってはいないらしいから、軍事的には負けないのかもしれない。だが、日本の食糧やエネルギーなどの資源がどれほど中国に依存しているかも考えなければならない。もし戦争になれば、当然ながらそれらの輸入はすべてストップする。たとえば食糧だけを考えても、中国からの食料品輸入が止まったら日本の経済は大混乱に陥るだろう。安全保障という中には、軍事だけではなく当然そういうことも含まれる。軍備を持っていればそれで安全が高まるなどという単純なものではないはずだ。
カルタゴは、第三次ポエニ戦争に敗れたあとにローマ軍によって破壊し尽くされた。それは、建物などもすべて破却して更地にしたうえに、永遠に不毛の地であるように塩をまくという徹底したものであったという。国家をそのような悲惨な運命に導かないためにはどうすればよいのか。安易な考えに飛びつくのは禁物である。
このタイトルをみて、何の話かと思う方もいるかもしれない。
カルタゴというのは、紀元前に北アフリカに存在した国である。たまたま以前ローマの話が出てきたので、今回はそのローマのライバルであったカルタゴの話をしてみる。一応安全保障というテーマにも関係のある話だ。また古い話を、と思われるかもしれない部分もあるが、過去の話だからといって忘却しないようにしようというのが私の主張なので(「狼は足跡を隠す」参照)、その点も含めて読んでもらえれば幸いである。
今から4年前の2011年の1月のことである。そのとき行われていた通常国会の代表質問において自民党の小池百合子氏は、当時起きていたチュニジア政変にからめて、カルタゴの故事を持ち出した。小池氏によれば、カルタゴはローマとの戦争に敗れたあと、復興して経済大国となったが、軍事は重視していなかった。経済発展ばかりを追求して国防をおろそかにしていたために、ローマに目をつけられて滅ぼされたというのである。つまるところ、カルタゴの故事に戦後の日本をなぞらえて、日本も再軍備するべきだといいたいわけだろう。果たして、この主張は正しいだろうか。
まず一つ確認しておきたいのは、カルタゴを滅亡に導いた第三次ポエニ戦争は、カルタゴの側から仕掛けた戦争だということである。隣国の挑発に乗って軍事行動を起こしたために、ローマ軍が介入してきて滅ぼされたのだ。そしてもう一つ、ローマがカルタゴを脅威みなしていたのは、おそらくその前の第二次ポエニ戦争があったためだ。第二次ポエニ戦争においては、かの有名なハンニバルが登場する。ハンニバルの率いるカルタゴ軍は、アルプスを越えて、一時はイタリア半島にまで進軍する勢いをみせた。そのことがあったために、カルタゴを放っておくことはできないという考えがローマ人の間に生まれ、大カトーのようにあくまでもカルタゴ殲滅を主張する政治家が現れたのである。
歴史は正しく認識しなければならない。おそらくは、カルタゴがただの経済大国であったなら、ローマもそれを脅威とみなすことはなかった。むしろ、軍備を増強したがゆえに、危険視され、滅亡することになったと見るほうが妥当である。ここでついでに、第二次ポエニ戦争もまた、カルタゴの側から仕掛けた戦争だということを付け加えておこう。一軍人にすぎないハンニバルが暴走して、ローマとの不可侵条約を一方的に破るかたちで戦争を起こし、それがカルタゴを滅亡に導く遠因となったのだ。そしてもしそうだとすれば、そこから得られる教訓も、小池百合子氏の主張とはまったく異なるものになるだろう。
軍備を増強するということは、それ自体が周辺国の猜疑心を呼び起こすということを忘れてはならない。日本が軍備を持つことを主張する人たちが仮に中国を念頭に置いているとするなら、中国と対抗するために軍備を増強したらどうなるのか。中国がそれで、すみませんでした、もう挑発的な行動はしません、などといって引き下がる相手でないことは、日ごろの言動を見ていればわかる。むしろ、国の面子をかけて、さらなる軍備増強で対抗してくるだろう。まあそれでも、日本の自衛隊というのはいまの時点でも決して中国軍に劣ってはいないらしいから、軍事的には負けないのかもしれない。だが、日本の食糧やエネルギーなどの資源がどれほど中国に依存しているかも考えなければならない。もし戦争になれば、当然ながらそれらの輸入はすべてストップする。たとえば食糧だけを考えても、中国からの食料品輸入が止まったら日本の経済は大混乱に陥るだろう。安全保障という中には、軍事だけではなく当然そういうことも含まれる。軍備を持っていればそれで安全が高まるなどという単純なものではないはずだ。
カルタゴは、第三次ポエニ戦争に敗れたあとにローマ軍によって破壊し尽くされた。それは、建物などもすべて破却して更地にしたうえに、永遠に不毛の地であるように塩をまくという徹底したものであったという。国家をそのような悲惨な運命に導かないためにはどうすればよいのか。安易な考えに飛びつくのは禁物である。