真夜中の2分前

時事評論ブログ
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ふたたび、岸井成格キャスターのために

2015-12-13 20:32:31 | 政治・経済
 以前、「放送法遵守を求める視聴者の会」が岸井成格キャスターを批判していることについて岸井氏を擁護する記事を書いた。しかし、あれではまだまだ言い足りないので、今回はその続きを書きたい。

 話をわかりやすくするために、まず一つの例を出す。
 最近、ドナルド・トランプ氏がイスラム教徒の入国を禁止するべしという発言をして、アメリカ国内ばかりでなく世界各国で批判を浴びた。この発言に対してニュースキャスターが司会として批判的な発言をしたら、それは中立を侵したことになるだろうか? 私はそうは思わない。
 あるいは、もっと極端な仮定として、テレビの出演者がナチスによるホロコーストを賞賛するような発言をしたらどうだろうか。司会者が、司会者という立場でそれを批判するのは当然ではないだろうか。
 それは、そうした発言が“普遍的な価値”に反しているからである。
 人種や宗教による差別は許されてはならない。大量虐殺は許されてはならない。それは、“中立”云々という以前の問題ではない。ゆえに、中立であるべき司会者であっても、そのような発言は批判して当然だ。この観点からも、私は岸井氏の発言は――菅官房長官語でいえば――「まったく問題ない」と考える。立憲主義国家にとって、憲法を遵守するということは普遍的価値である。安倍政権がその普遍的価値を侵害していると考えるなら、司会者という立場であってもそれを批判するのは当然だ。したがって、岸井氏があのような発言をしたとしても、なんら問題にはならない。それは司会者がネオナチを批判しても放送法に反したことにはならないのと同じである。

 “中立”が絶対的なものでないことは、もっとありふれた例で考えてみてもわかる。
 たとえば、ニュースキャスターが残虐な殺人を犯した殺人犯について「非道な犯罪で絶対に許されないことです」とコメントしたら中立を侵したことになるのか? あるいは、北朝鮮による拉致を「非人道的な犯罪です」と批判したら、放送法に反したことになるのだろうか? いずれもノーである。
 これらの例でわかるとおり、司会者が司会者としての立場で何かを批判するというのは毎日のテレビ番組でごく普通に行われていることだ。そして、それを問題視する人はまずいない。すなわち、問題なのは司会者が批判的なコメントをすること自体ではなく、その対象が普遍的な価値に照らして責められて然るべきなのかということなのである。もし、そうではなくて司会者がいかなる問題に対しても中立でなければならないというのなら、「放送法遵守を求める視聴者の会」は、テレビのキャスターが北朝鮮を批判するたびに“中立”でないことを問題視し放送法の遵守を求めて意見広告を出すべきだろう。
 そして、「普遍的な価値に照らして責められて然るべきなのか」という点でいえば、安倍政権の安保法制の進め方はまったく責められて然るべきである。ゆえに、岸井氏の発言はいささかも問題になるようなものではないのであって、「放送法違反」などというのはばかげたいいがかりというよりほかない。

軽減税率……なんのための消費税増税?

2015-12-13 20:23:44 | 政治・経済
 軽減税率についての自公協議が、合意にいたった。結局のところ、加工食品までふくめることになったようである。

 すでにほうぼうで批判が出ているが、これは妥協の産物以外の何ものでもない。
 「消費税率を上げる」という公約と「軽減税率」という公約の両方をとりあえず形だけでも成立させるために、こういう形をとり、結局どっちつかずのものになってしまっている。そして、軽減税率の対象を広げたことで1兆円以上の穴が開くことになるわけだが、そこを穴埋めするために、低所得者の医療・介護の窓口負担をやわらげる総合合算制度をとりやめるということになったそうだが、社会保障のために消費税を上げるといっているのに軽減税率のために社会保障を削るというのだから、これも本末転倒とのそしりを免れない。しかも、それで捻出できるのは4千億円程度で、残りの財源はめどがたっていない。
 公明党にしてみれ、安保法の貸しを軽減税率で返してもらったということだろうが、こういうのを一般的に“政争の具にしている”というのではないだろうか。ましてや、一部メディアの指摘するところでは、自民党側からの“満額回答”が公明党に対して逆に貸しとなり、それが自民党が目指す改憲の布石になっているともいう。ここをとらえて、橋下徹氏は「これで完全に憲法改正のプロセスは詰んだ」とツイッターで発言しているが、そのような見方が正しいとすれば、現政権は、財政再建と国民の生活がはかりにかけられているというこの深刻な問題で改憲を見据えた駆け引きをしているということになる。つまりは、彼らにとって国民の生活などどうでもよく、自分たちのやりたいことをやれるうちにやっておこうということしか考えていないのだ。前からわかっていたことではあるが、それがますますはっきりしたといえるだろう。

 そもそも――私は必ずしも消費税増税否定論者ではないが――消費税自体、本当に財政再建に寄与するのかという疑問はぬぐえない。
 机の上での計算ではいろいろな理屈もあるのだろうが、実績を考えてみると、「消費税による財政再建」というのはどうにも胡散臭い。今から25年ほど前に消費税を導入した。3%から5%にした。5%から8%にした。しかし、それでも日本の財政事情は苦しいままだ。そこで、まだ税率が低いだけだ、もっと上げればうまくいく……というのは、ギャンブルで誤った“必勝法”に執着してドツボにはまっていく人の思考回路ではないだろうか。消費税増税が本当に唯一の道なのかというのも、そろそろ本気で考える必要があるのではないだろうか。