世界エイズデー 心に残った言葉

当院では15分で結果がわかる検査（HIVなど）を実施しています。
「たった15分」と侮るなかれ、正確さは問題ありません。

ただ「偽陽性」といって、100人に1人ほど、感染していないのにもかかわらず、この15分でわかる検査では陽性と出てしまうことあります。
もしも15分の検査で陽性になった場合は、他の複数の検査法で確認をします。
全ての結果が出るまでに１週間から10日ほどかかります。

この期間はとても長く感じられることでしょう。


数ヶ月前のこと。
15分の検査で陽性と出たAさんは検査前には何も言わなかったものの、実は感染の可能性が高いハイリスクグループに属し、自分でも思い当たることがたくさんありました。

私はAさんに偽陽性のことを説明して「まだHIVに感染していると決まったわけではありません。」と伝えました。


1週間後、結果は陰性、HIVには感染していませんでした。

Aさんは「本当にありがとうございました。」と私に言います。
ただ単に私は検査をして結果を伝えただけです。もちろんこの偽陽性という検査の限界は誤診とは違いますが、そのことによって患者さんが１週間苦しまれたことを考えると私も本当に申し訳なく思います。ですからお礼など言われる立場ではありません。

また、ほとんどの患者さんは、結果が問題なかったので「良かった」という意味で「ありがとうございます。」と言われます。

「１週間という時間がとても長く感じられたと思います。本当に済みませんでした。」と私がAさんに言うと

Aさんは「違うのですよ、この１週間、本当によく考えました。今までめちゃくちゃな生活をしてきたことを振り返って、何てバカなことをしていたのだろうと反省しました。もしも、今回HIVに感染しているかもしれないということにならなかったら、ずっとこのままの生活を続けていたと思います。これを良い機会として生活を改めようと思いました。だからとても感謝しているのです。」

私は心からAさんに同情しました。涙が出てきそうでした。

過去に（まれなケースですが）１５分検査で陽性となったため１週間ほど確認検査に時間がかかったことを「最初から感染しているわけがないのに、何で１週間待たなければならないのか！」とネット上でも誹謗中傷を受けたことがあります。そういうこともある中で、Aさんの言葉は今でも忘れられません。

「今回気づいたことを周りの友達にも知ってもらいたいと思います。皆に教えるつもりです。」というAさんに、「こちらこそ本当にありがとうございます・」と言うのが精一杯でした。