不登校の息子とビョーキの母

不登校の息子との現在、統合失調症の母との過去

仕事ん説明はちゃんと聞きましょう

2018-11-20 16:07:50 | 日記
その日は梱包する荷物が少なくて、私たちは付帯作業に駆り出されていました。

付帯作業というのは要するに梱包でもピッキングでもない雑用のことです。
その日命じられたのは入ってきた荷物を棚に入れる作業でした。

「今日はここにある荷物を棚入れしてもらいます。初めての人、いますか」
古株のバイトらしい教育係が言いました。私の他数人が手をあげました。

「ではハンディの使い方説明しますね。
メニュー画面から、1番の『在庫管理』を選んでエンターを押します」

バイトを始めて1カ月間、梱包しかしてこなかった私は、ハンディスキャナーを握るのもその日が初めてでした。

早口の説明をメモしていくだけで必死です。
私は耳から入った言葉を即座に理解するのが苦手なので、なるべく一字一句漏らさずメモを取り、
後で読み返して理解するようにしています。

文字なんかもうヘロヘロで、他人が見たら判読不能でしょうが、自分が分かればいいのです。

「説明はいいから早くやらせてよ」
古顔のおばさんがどら声で茶々を入れました。後で知ったのですがこの人がシノヅカさんでした。
周りのおばさんたちも自分たちは棚入れの経験があるので、ニヤニヤ笑って黙っています。教育係は苦笑いして、
「……で、酒瓶なんかは1段目に。軽い商品が1段目にあって入れ替えたいときは、『補充ピッキング』をして……」
さらに早口になって説明を切り上げました。

(どうしよう、わかんない!)
私はうろたえました。
基本的な棚入れまではなんとか分かったのですが、軽い商品と入れ替えるやり方はメモが追いつきませんでした。

「あのー、すみません。さっきの説明なんですけど……」
そばにいた若い社員さんに聞くと、
「まず『補充ピッキング』をして商品のデータを棚から出すでしょ。
次に『補充棚入れ』を選択して新しい引き出しに入れる。
最後に『在庫確認』でデータが移動しているか確認したらOKです」
と丁寧に教えてくれました。

ほぼすべての棚入れが終わり、最後には4リットルくらいありそうな焼酎のボトルだけが残りました。
商品は形状も数量も様々なので、手ごろな大きさの商品から棚入れしていくと、重くて大きい商品が残ってしまうのです。
これは1段目に入れるしかありませんが、1段目はもういっぱいです。軽めの商品と入れ替えるしかありません。
ただでさえ商品の少ない日だったので、手が空いたオバサンたちが大勢手持ち無沙汰に突っ立っています。

慣れている人がやるかな、と思っていると、社員さんが
「ほら、みんなで入れられそうな場所を探して」
と声をかけてきました。商品を台車に載せてみんなぞろぞろ移動し始めたので、私も後ろからついていきました。

「ここ、1段目にDVD-Rがたくさんあるじゃない」
とリーダー格のシノヅカさんが言いました。
「本当だ。このスペースになら入るんじゃない?」
みんなそこにしゃがみこんでDVD-Rを棚から取り出し始めました。

ところがみんなはバーコードをスキャンもせずに別の引き出しに商品を移そうとしています。
そんなことをしたら、データ上は元の場所にあることになり、商品が永遠に迷子になってしまいます。

「商品だけじゃなくて、データを移さないと」
たまりかねて私が口を出しました。