寝ている間に母にどんぶりを頭にくくりつけられてしまうようになった私たち姉妹は、
思い余って仙台の祖母と叔父に来てもらいました。
気がふれているようには見えない母に、祖母は恐る恐る切り出しました。
「Nちゃんに聞いたんだけどね、なんか、寝るときに、頭に何か……つけるんだって?」
母は今度は私をにらみました。
「余計なことを言って! おばあちゃんが心配するでしょうに」
私は黙って首をすくめました。
「いや、お姉さん、心配するようなことだからこそ、Nちゃんも相談してくれたんでしょう」
叔父がやんわりと割って入って、
「お義兄さんのこと(自殺)があって、神経が疲れてるんじゃないかと思うよ。
病院で気持ちを楽にする薬をくれるから、しばらくゆっくりと休んだらどうかな」
うまく言いくるめようとします。
「イヤよ。人のこと気違いみたいに言わないで。もう帰って、私はどこもおかしくないから」
祖母はあわてて、
「もちろん、あんたがおかしいなんて言ってないよ。
ただ頭にどんぶりっていうのはいくらなんでも、やり過ぎじゃないのかねえ」
「やり過ぎなんかじゃないの、やり過ぎなのはあいつらのほうなの」
母は興奮してきました。
「あいつらって誰なの」
医者の叔父は慣れた様子で、次の言葉を引き出します。
「知らないわよ、裏のアパートに住んでる組織の奴らなんだけど、人の耳を引っ張るのよ。
すごい勢いで、耳が取れそうなくらい」
叔父は苦笑しました。
「お姉さん、それやっぱり変でしょ」
「変じゃないわよ」
「変じゃない、と思ってるあたりが変ってことで」
叔父は独り言のように言い、母の手を取りました。
「とにかく行ってみましょう、タクシーですぐそこだから」
「行くってどこよ」
母は叔父の手を払いのけました。
「子供たちを守ってやれるのは私だけなんだから、私がここにいなくちゃダメなの」
祖母もなんだか半信半疑で、
「本人が大丈夫って言ってるんだし、無理に行かせなくても……。
どんぶり着けるのだけ、何とかしてやれないのかねえ……」
誰にともなく、懇願するように言いました。
「おばあちゃん、どんぶりが問題なんじゃないの、お姉さんは病気なの。
病気が治ればどんぶりもやめます。とにかく僕の知ってる医者がいるから」
叔父は母を無理に立たせようとしました。
思い余って仙台の祖母と叔父に来てもらいました。
気がふれているようには見えない母に、祖母は恐る恐る切り出しました。
「Nちゃんに聞いたんだけどね、なんか、寝るときに、頭に何か……つけるんだって?」
母は今度は私をにらみました。
「余計なことを言って! おばあちゃんが心配するでしょうに」
私は黙って首をすくめました。
「いや、お姉さん、心配するようなことだからこそ、Nちゃんも相談してくれたんでしょう」
叔父がやんわりと割って入って、
「お義兄さんのこと(自殺)があって、神経が疲れてるんじゃないかと思うよ。
病院で気持ちを楽にする薬をくれるから、しばらくゆっくりと休んだらどうかな」
うまく言いくるめようとします。
「イヤよ。人のこと気違いみたいに言わないで。もう帰って、私はどこもおかしくないから」
祖母はあわてて、
「もちろん、あんたがおかしいなんて言ってないよ。
ただ頭にどんぶりっていうのはいくらなんでも、やり過ぎじゃないのかねえ」
「やり過ぎなんかじゃないの、やり過ぎなのはあいつらのほうなの」
母は興奮してきました。
「あいつらって誰なの」
医者の叔父は慣れた様子で、次の言葉を引き出します。
「知らないわよ、裏のアパートに住んでる組織の奴らなんだけど、人の耳を引っ張るのよ。
すごい勢いで、耳が取れそうなくらい」
叔父は苦笑しました。
「お姉さん、それやっぱり変でしょ」
「変じゃないわよ」
「変じゃない、と思ってるあたりが変ってことで」
叔父は独り言のように言い、母の手を取りました。
「とにかく行ってみましょう、タクシーですぐそこだから」
「行くってどこよ」
母は叔父の手を払いのけました。
「子供たちを守ってやれるのは私だけなんだから、私がここにいなくちゃダメなの」
祖母もなんだか半信半疑で、
「本人が大丈夫って言ってるんだし、無理に行かせなくても……。
どんぶり着けるのだけ、何とかしてやれないのかねえ……」
誰にともなく、懇願するように言いました。
「おばあちゃん、どんぶりが問題なんじゃないの、お姉さんは病気なの。
病気が治ればどんぶりもやめます。とにかく僕の知ってる医者がいるから」
叔父は母を無理に立たせようとしました。