伝説の名物列車「ニコニコ超会議号」の一夜 初の東海道線経由で行く「寝台電車の旅」
4月29・30日に千葉県の幕張メッセで開催されている「ニコニコ超会議2016」。このイベントに向かう特別の夜行列車「ニコニコ超会議号」が大阪から海浜幕張まで運転された。企画は熱烈な鉄道ファンとして知られるミュージシャンの向谷実さん。今や貴重な存在となった国鉄時代の寝台電車、583系による夜行列車の道中は、果たしてどんなものだったのか。
貴重な寝台電車で「ニコニコ超会議」へ
今回使用された583系寝台電車
「ニコニコ超会議号」の運転は今年で5回目。ニコニコ超会議の開催に合わせ、毎年工夫を凝らしたルートと車両によって運転されており、鉄道ファンにとっては今やこの時期の名物となっている列車だ。
今回は、全国でJR東日本に1編成だけ残っている583系寝台電車を使い、大阪からニコニコ超会議会場の最寄り駅である京葉線の海浜幕張駅まで運転された。
28日夜8時10分すぎ、カメラを持った多くの人が集まる大阪駅の11番ホームに「ニコニコ超会議号」は入線。列車は同20分、多くの人に見送られながら大阪駅を出発した。
車内は片側が座席、片側が寝台という形で運転された
京都駅からの乗客を乗せ、列車は東海道本線を東へと向かう。車内では向谷さんや音楽ユニット「スーパーベルズ」の車掌DJ、野月貴弘さんらが車内検札へ。
乗客一人一人と会話を交わしながらの検札は全車を回るのに約1時間。動画サイトのイベントに向かう列車だけあって、車内では車窓風景や車内の様子を中継する人の姿も見られ、参加者は思い思いのスタイルで特別列車の旅を楽しむ。
兵庫県から参加した、今回が初めての乗車という30歳の男性は「今までも乗りたいと思っていたがチケットが取れず、今回初めて乗れた。最高の気分」と、同様に初参加だった近くの席の人々と談笑していた。
伝説の空間「5号車」
寝台列車のベッドに鉄道模型が走る
超会議号の中でも一種独特の雰囲気を放っているのが「5号車」だ。寝台にはNゲージ鉄道模型の線路が敷き詰められ、座席には鉄道関連のグッズや手作りの記念品などの数々が並ぶほか、ネットでの生中継を行う人やビール片手の人々で大賑わい。
この車両は「5号車友の会」と呼ばれる、超会議号運転開始当初から参加している人々が工夫を凝らして盛り上げているのだ。
これまでの歴代の「5号車」の様子が張り出されていた
「5号車友の会」が始まったのは、2012年に運転された最初の超会議号で、車内で鉄道模型を走らせたことがきっかけという。車内での模型運転は乗車した多くの人の注目を集め、そこから「友の会」が発足。毎年の超会議号で5号車は盛り上がりを見せているという。「主要メンバーは皆勤(5回連続参加)ですね」と、ハンドルネーム「高志の民」さんは語る。
超会議号のファンには名物となっている車両だけに、車内放送でも「大垣では5号車を切り離して美濃赤坂(支線の終点)まで回送いたします」との野月さんのアナウンスに乗客は爆笑。今回が初めての参加という男性は、5号車を訪れて「異次元の世界ですね。寝台車なのに個人の部屋のよう」と驚きながら楽しんだ様子。深夜0時すぎ、野月さんによる「寝ろ!」のアナウンスと同時に車内が消灯されてからも、しばらくの間車内は賑わい続けた。
乗客有志から贈られた、ニコニコ超会議号運行企画への「感謝状」を手にする向谷さん
向谷さんによると、今回の列車の企画は約1年前にスタート。過去にはブルートレインの客車を使用して大阪から北陸本線を経由して関東へ向かうルートでの運転はあったが、今回は関係各所の協力によってこれまでできなかった東海道本線経由での運行が実現したという。
これまでの超会議号では入ったことのなかったJR東海の区間に入ると、車内では「東海に入った!」と歓声が。ファンにとっては感慨深い出来事に違いない。
「僕らは、たまたま居合わせた人が仲良くなるというような夜行列車の旅の楽しみを経験した世代。初めて乗る人もリピーターの人も乗り合わせることで、そういう旅が実現していると思う」と向谷さん。583系寝台電車についても「この列車は乗っている世代が若いじゃないですか。3段の寝台やボックスシート、独特な天井の高さというのは、若い人にとっては非日常的なインパクトがあるのでは。そういう意味で鮮度の高いコンテンツになっていると思う」と語る。
「絆を生む列車」
朝食は小田原駅で積み込まれた、特製の包装紙がかかった「鯛めし」。列車は小田原から東海道貨物線に入り、新鶴見からは武蔵野(貨物)線を経由して府中本町を経由し西船橋へ、そして終点の海浜幕張へと向かう。珍しいルートを走ることもあって、車内は早朝から賑やかだ。線路際にもカメラを持った人や手を振る人々の姿が多く見られた。
列車は10時12分に「超会議」の会場である幕張メッセ最寄駅の海浜幕張に到着。「絆を生む列車ですね。乗れて幸せです」。今回が初参加という一人はこう語った。同じイベントに向かう、趣味を同じくする人々が乗り合わせ、一夜の盛り上がりを楽しむ「超会議号」。今回もさまざまな思い出やドラマが生まれたことだろう。
(写真は記者撮影)
羨ましいなぁ。 旅に出たいなぁ。
癒されたいなぁ。