いるいる!「上から目線な人」のかわし方 やる気を喪失させる難敵に、戦わずして勝つ
職場で繰り広げられる戦いはいつも、目に見えるとは限りません。見えない戦いで、気づかないうちに心身ともにボロボロにされてしまうこともあります。
たとえば、キツイことを言われたわけでもないのに、なぜかこちらがグッタリ消耗する相手。こうした相手は「上から目線」という見えない悪意を武器にして、他人を切りつけていることがあるのです。
彼らが振り回す武器から、身を守るための方法を、『職場にいる不機嫌な人たち』(KADOKAWA)の著者である精神科医の西多昌規さんに教えていただきました。
自信満々なときほど、実は不安な「上から目線の人」
「いや、それはどうでしょう」「君は何もわかってないから」
あなたの職場にも、やたらとこんなことを言って、周囲から煙たがられている人がいないでしょうか。なぜかいつも「上から目線」でヤル気に水を差す人。こちらの気力を妙になえさせる人です。
上から目線の人は、はたから見ると、自信にあふれているように見えます。たとえば、人の意見に対して、「いや、それはどうでしょう」と否定するとき。「君は何もわかってないから」とダメ出しするとき。あるいは、「あの仕事、よく取れたな。あんなプレゼンで」など、「君はしょせんその程度」といった趣旨の嫌味を口にしているとき。彼らはいかにも、「正解を知っているのは自分だけ」と言いたそうな顔をしているのではないでしょうか。中には得意気な顔をしている人もいるかもしれません。
周囲の人々は、上から目線の人のこうした言動に際して、たいていはゲンナリします。「正解を知っているのは自分だけ」という彼らの考えは透けて見えますし、何より、彼らのそうした考えに根拠があるように思えないからです。
「どうしてこの人はそんなに自信満々なんだろう」と不思議になります。あまりにも不思議なために、「もしかすると間違っているのは自分で、この人の言うことが正しいのかも……」と不安になってくる人もいるでしょう。
ところがこのとき、誰よりも不安になっているのは、実は上から目線の人です。上から目線の人は、自信満々に見えるときほど、心の中では「不機嫌」になっています。自分の優位が脅かされるのではないかと不安になり、その不安を見破られたくなくて不機嫌になるのです。
人は誰でも、「自分は平均よりもすぐれている」と思いがちです。これは、心理学の世界で「優越の錯覚」と呼ばれる心の傾向で、世の中の多くの人は「自分はだいたい中の上」と漠然と考えています。このこと自体は、よくあることです。
上から目線で煙たがられる人たちは、この「優越の錯覚」が強すぎるタイプと言えるでしょう。彼らは、「自分は平均よりは優れている」と思い込んでいますが、実際のところ、それは単なる思い込みであることも多く、実績をともなっていないこともしばしばです。
そのため、自分を脅かす「本当にデキる人」や、「自分よりも成功している幸せそうな人」の登場をいつも怖れています。職場でそうした人を目にすると不機嫌になり、自分を優位に見せるために、相手を平均かそれ以下に引きずり下ろそうとするのです。
また、ナルシシズム(自己愛)が強すぎる彼らは、背伸びして自分を実力以上に見せようとする傾向も持ち合わせています。
そうしたことから、彼らは「他人を蹴落とす」ため、あるいは「自分を持ち上げる」ために、次のような悪意ある言動を取りがちです。
・やたらと否定、ダメ出しする
・嫌味、皮肉を言う
・他人が褒められるとシラける
・自慢話が多い
・一般的にはなじみの薄いカタカナ語を得意気に多用する……など。
彼らがあなたに対してこうした言動をとるとき、つまりは、あなたを怖がっているのです。
動揺を見せると、攻撃はさらにエスカレート
上から目線の人たちは、自らのプライドを守るために、他人を蹴落とそうとして攻撃をしかけてきます。
ところが、彼らのこうした言動の一部、たとえば「自慢話」「カタカナ語の多用」などは、一見すると、不機嫌そうにも、悪意ある行為にも見えません。そのため、知らずにいると、彼らの悪意からくる攻撃をまともにくらってしまいます。このような目には見えない戦いで、いつのまにか、心身ともにボロボロにされてしまうこともあるのです。
では、上から目線の人が繰り出す悪意という武器から身を守るためには、どうすればよいのでしょう?
もっとも基本的な対処法は、「動じない」ようにすることです。
彼らは、否定、嫌味、自慢話、カタカナ語などで、「優れているのはこちら」「つまり、間違っているのはそちら」というメッセージを送ってきます。
彼らのそうした悪意にさらされると、立場が弱い人や自分に自信がない人ほど、「もしかして自分が間違っているのかも……」と思い込まされてしまいます。そうなれば、相手の思うツボ。あなたをおとしめてヤル気を奪おうとする、上から目線の人の術中にハマったも同然です。
相手が動揺を見せると、彼らは、ここぞとばかりに攻撃性をエスカレートさせることがあります。「自分を脅かす相手は、これを機に徹底的に叩いておけ」というわけです。
ですから、上から目線の人の前で、オロオロしたり落ち込んだりした様子を見せるのは絶対にNG。
もし、あなたが攻撃をしかけられた場合、「この人は、デキる自分のことがうらやましいんだな」「けなされてはいるが、むしろ褒められているな」くらいポジティブに受け止めて、攻撃をさらりと受け流すのが得策です。
相手の「不安」に関心を示すと、攻撃性がやわらぐことも
ただ、上から目線の人に動揺を見せまいとして、無視・無関心といった態度をとる人をときどき見かけます。
具体的には、「ふーん」「そう」など聞いていないことがあからさまな生返事、相手の目を見ず別のことを考えているような素振り、「はいはい、わかりました」などその場しのぎが明らかな返事など。このように、「あなたなんかに、まったく関心がありません」という態度をとられれば、たとえ上から目線の人でなくてもいい気持ちはしません。
人間には、「他人に関心を持ってもらいたい」という基本的な欲求があります。髪型を変えれば他人から「髪切った?」と言われたい、フェイスブックでよい出来事を投稿すれば「いいね!」をもらいたいのが、自然なのです。
ですから、上から目線の人を相手にする場合は、動揺は見せないながらも、「相手に関心のある態度」を示すことも重要です。
とはいっても、積極的にこちらから相手に絡んでいく必要はありません。ただ彼らが不安になっている理由に想像を巡らすだけでよいのです。たったこれだけのことでも、相手に関心を持っていることになります。
心の中で思っていることは、どんなに隠しても、顔や声など外に出てしまうものです。このことは同時に、こころの中で相手に関心を示すだけで、そのことが相手に伝わるということでもあります。
「この人は今、不安になっているんだな」と相手の気持ちに寄り添うだけで、場合によっては、相手の攻撃がやわらぐこともあります。何よりも、あなたのこころが落ちついて、相手の攻撃をある程度受け流すことができるようになるはずです。
彼らと仕事をする際は、もし相手のナルシシズムを満たしてあげるフリができるのならば、おだてることで一時的に花を持たせるというのも有効な手です。
彼らに共通するのは、「認められたい欲求」があるのに、現実では「自分は認められていない」という不満があることです。これを満たしてあげることで、彼らの攻撃性を抑えることができます。
たとえば、あなたの部下が、上から目線の人であれば、「君が頑張ってくれて助かっているよ」「面白い視点を持っているね」などと声かけして、褒めることを中心に育てていくとよいでしょう。
ただ、褒めてばかりではさすがにマズイので、5つ褒めたら1つ注意するなど、ピンポイントでしめることが肝要です。厳しい注意や指示を与えるときは、会社の規則や業績などの客観的データを出すと、相手も承服せざるをえなくなります。
あなたの上司や同僚が、上から目線の人の場合も、「さすが○○さん、すごいですね」「△△君はなんでもよく知っているなぁ」など、適度におだてるとよいでしょう。
上から目線の人の張子のようなプライドは、いずれ厳しい世間の洗礼を浴びて、ズタズタにされます。部下なら育てる必要がありますが、そうでないのなら、あなたが敵役となってわざわざ彼らのプライドを壊す必要はありません。
「嫉妬」や「羨望」が強い彼らのプライドを傷つければ、逆恨みされることもあるでしょう。それだけ、彼らがデキる人や成功している人に対して抱く「嫉妬」や「羨望」という感情は、扱いが難しいのです。
おだてるのはへりくだるようで嫌かもしれませんが、「戦略」は「戦いを略す」と書きます。無駄な戦いは省略し、その分のエネルギーを仕事に回すことは、優れた戦法のひとつです。
心を寄せることで、上から目線の人を味方につける
さて、ここまで、上から目線の人に対して厳しいことを言ってきましたが、プライドの高い彼らは、そのプライドをくすぐられると、素晴らしい頑張りを見せてくれるというよい一面も持ち合わせています。
「あなたはなんでもよく知っているから」「あなただから、この件をお願いしたいんです」と相手を立てた言い方ができれば、上から目線の人は、あなたのために、気持ちよく動いてくれるでしょう。
そうなれば、いつもは鬱陶しく感じる上から目線の人が、少しは可愛く思えるのではないでしょうか。言い方ひとつで、あなたを引きずりおろそうとしていた相手が、心強い味方になってくれることもあります。
そもそも職場では、誰もが自分の専門分野で、ある程度優位性を示す必要があります。つまりは、知らず知らずのうちに、「上から目線」で周囲の人を威嚇しがちになるのは、職場の特性でもあるのです。
だからこそ、「上から目線の人はキライ」と拒絶するのではなく、「この人もこの場で戦っているのだな」と関心を寄せること。それだけで救われる人がいることや、そうした姿勢を保ち続けることが、やがてはあなた自身を救うことに繋がる。そのことを覚えておきましょう。
自分の場合、『適応障害』にまで追いやられたからなぁ。
心を寄せるなんて、とっても無理無理。