先日、田舎へひとりで里帰りした。
夕方から麦酒を一杯やりながら、
限られたチャンネル数のテレビで過ごした。
持参した二合の米。
スーパーで購入したカット済み野菜。
飲み物はハイボール。
かつては、望めばすぐに手に入っていた時間を枕に眠りについた。
そのつもりは無くとも、
不安や迷いに対して何処か抜けきらない力みがあるのだろう。
ふと目を開けると朝の5時過ぎ。
昨夜の風呂を暖め直して湯船に身を沈める事を思い立った。
御下がりのコーヒーとクッキーをお盆にのせて、
浴槽蓋をテーブルに夜明け前の空と対峙した。
一瞬ではあるけれど、漏れるため息に悪い予感の欠片もなかった。
朝の闇に野鳥の声が渡って行った。
その響きを聞きながら、
この指先ひとつの贅沢も、
ガスのない時代なら桁外れな贅沢だったに違いない、等と
的外れな言葉が流れて消えた。
やがて山の端辺りに変化が起こっていた。
気付けなかった。
眺めていたのにわからなかったのだ。
静かに滑り込むように、早朝の空はやって来ていた。
そして何かに圧倒されながら
「ただただ、白々と明けていくもんなんだなぁ」
と、いった思いだけが何度もしていた。
稜線が桃色がかる頃には、
頭上近くはうっすらと青白かった。