副題:私のパニック障害克服法
幻冬舎新書、2010年発行。
著者はご存じ長嶋茂雄の長男です。
彼がパニック障害だったなんて知りませんでした。
患者としての苦しみやトンネルを抜け出す方法を経験者として語っているので説得力があります。
ただ、あくまでも経験談であり科学的な根拠に乏しい記述も無きにしも非ず。医療者としての私は全てを認めることはできませんが、参考になる文言があちこちにちりばめられていました。
興味深く読んだのが、抗うつ剤の副作用としての「自殺衝動」。
こんな風に記されています;
とにかくうつがひどい。
ベッドから起きられない、仕事に行けない、約束が守れない、わけもなく涙が出るー
・・・
だから仕方なく抗うつ剤を飲むのだが、今からすればそれが合わなかった。副作用が出て何度の自殺衝動が起きた。それまで経験したことのない、まるで蟻地獄のような果てのない絶望感。私は心底破れかぶれになって「もう死のう、本当に死のう」と思った。
・・・
その時の自殺衝動で何より恐ろしかったのが、それが自分の意志に関係ないところから、湧いて出てきたことだ。
抗うつ剤を飲んで寝ると、朝の3時頃に発熱・発汗し、息苦しくてパーッと体が熱くなって目が覚める。そして起きた途端に目場パチッと冴えて、どこからか「自殺したい」という声が出てくるのだ。その「自殺したい」というのは自分の声じゃない。心の中から出た声じゃないのにーーそれはまるで魂がむしばまれるような恐怖だった。その上に、「俺はそのうち、自分の意志に関係なく自らの命を絶ってしまうのではないか」という恐怖が覆い被さってくる。
・・・
薬はもちろん必要だけれども、副作用が出る可能性も十分覚悟して服用しなければならない。だから私はこの本で、最終的には薬に頼らない克服法を目指したのである。
それから、パニック障害克服のための基本スタンスは含蓄に富んだ表現です;
自分の体は神様からもらった体だと思い、
自分の中の自分と対話し、
自分で自分の体をいたわること。
なぜなら、結局のところ、自分の肉体は自分の魂しか褒めてくれないから。
暗くて長いトンネルを孤立無援状態で戦い抜いた言葉ですね。
<メモ>
自分自身のための備忘録。
■ パニック障害でない人が、パニック障害を100%理解するのは不可能。
この苦しみは、女房も子どもも本当には理解してはくれない。医者も理解できない。
それが当然なのだ。なぜならパニック障害を経験していないから。
■ 人生の目的は「幸福感」ではない。
人生が「自分探しの旅」であるとするならば、その最終目的地が「幸福感」であってはならないと私は考えている。
現代社会においては、多くの人が、幻のような幸福感を揺るぎないもののように錯覚して塗ろうし続けている。「もっともっと症候群」になり、「スーパーマン症候群」になりーー。その結果、心と肉体がちぐはぐになり、挙げ句の果てには心を病んでしなうのではないだろうか。
私はパニック障害になって、人間が生きていく目的は幸福感でも何でもなく、結局、一つしかないのではないかと考えるようになった。仕事は仕事での目的がある、プライベートはプライベートでの目的がある、と分けて考えるものではなく、最終的な目的は、シンプルにたった一つだけ、それは「自分が何であるのかを知ること」なのではないだろうか。
■ 「薬や医師に依存する、頼る」という考えのままでは間違えてしまう。
脳科学では「自分で自分を導く」というような言い方をするようだが、結局、パニック障害も同じで、本当に根本的に治すためには、まず自分自身で自分の心身を奥深くカウンセリングすることからスタートしなければならない。
自分はいったい何者なのか。
本当に必要なものは何なのか。
何がつらくて、何に疲れているのか。
その原因は何なのか。
自分は何を最終目的に生きているのか。
■ ゆっくり吐いて、ゆっくり吸うだけの呼吸法
呼吸法というと一見難しそうに思うかもしれない。実際、文献などを読むと何百種類もの呼吸法がある。私は凝り性なので・・・数限りない呼吸法を試してみたけれど、結局、あまり特殊で難しいものはパニック障害には必要ないことがわかった。
パニック障害に必要な呼吸法の基本というのは、「ゆっくり息を吐いて、ゆっくり息を吸う(ただし、順番は吐くことが先)」という、ただこれだけ。それだけで十分、自律神経は落ち着いてくることがNASAのデータでも確認されている。
この呼吸法は乗物恐怖の際にも有効だ。「あ、ヤバイな」という予感がしたら、とりあえず目を閉じてゆっくり吐いて、ゆっくり吸う。それだけで気分が落ち着いてくるはずだ。
■ パニック障害は自分の人生を見つめ直す絶好の機会だ。パニック障害のピンチは、自分次第ですごいチャンスに変えられる。
■ 社会が悪い、会社が悪い、上司が悪い、親が悪い、誰々が悪いと思っているうちは、パニック障害は治らない。
「そんなの関係ないよ」と流せる自分を確立すること。
パニック障害にかかる人には「休んでいることに罪悪感を持つ人」が非常に多い。その自己嫌悪や自己否定から、余計にうつの症状が増してしまう。勇気を持って「人間、ダラダラすることも非常に需要なのだ」と考え方を変える必要がある。
■ パニック障害を含めて、自然から離れれば離れるほど人間の体は悪くなる。
根治のポイントは「自分の肉体を自然に帰してあげること」だと思う。
■ トップサーファーが失敗して波に飲み込まれたときどうするか?
高さ十数メートルに及ぶこともある波に飲み込まれたら、3分間は上がってこれない。「その時はどうするんだ>」と効くと、彼は「まずは身を任せる」と言うのだ。
波の下は、すごい勢いで海水がグルグル回っているから、上と下がわからなくなる。それに巻き込まれているときは、パニックになってもがいたら死ぬ。だから、とりあえずは身を任せ、グルグルされるままになって、ちょっと波が収まったときにパッと目を開けて、泡が昇っていく方に思い切り手だけ動かす。その時、足も動かすと酸素が海面まで持たないので「手だけ動かす」のがポイント。
■ 「逃げる」のではなく「しのぐ」ことが大事。
したたかに、ずるがしこく生きる。しのぐためには「まあいいや、だいたいで」と言い続けよう。
■ 「生きていく理由もないけど、さしあたって死んでいく理由もない」(バルタザール・グラシアン)
幻冬舎新書、2010年発行。
著者はご存じ長嶋茂雄の長男です。
彼がパニック障害だったなんて知りませんでした。
患者としての苦しみやトンネルを抜け出す方法を経験者として語っているので説得力があります。
ただ、あくまでも経験談であり科学的な根拠に乏しい記述も無きにしも非ず。医療者としての私は全てを認めることはできませんが、参考になる文言があちこちにちりばめられていました。
興味深く読んだのが、抗うつ剤の副作用としての「自殺衝動」。
こんな風に記されています;
とにかくうつがひどい。
ベッドから起きられない、仕事に行けない、約束が守れない、わけもなく涙が出るー
・・・
だから仕方なく抗うつ剤を飲むのだが、今からすればそれが合わなかった。副作用が出て何度の自殺衝動が起きた。それまで経験したことのない、まるで蟻地獄のような果てのない絶望感。私は心底破れかぶれになって「もう死のう、本当に死のう」と思った。
・・・
その時の自殺衝動で何より恐ろしかったのが、それが自分の意志に関係ないところから、湧いて出てきたことだ。
抗うつ剤を飲んで寝ると、朝の3時頃に発熱・発汗し、息苦しくてパーッと体が熱くなって目が覚める。そして起きた途端に目場パチッと冴えて、どこからか「自殺したい」という声が出てくるのだ。その「自殺したい」というのは自分の声じゃない。心の中から出た声じゃないのにーーそれはまるで魂がむしばまれるような恐怖だった。その上に、「俺はそのうち、自分の意志に関係なく自らの命を絶ってしまうのではないか」という恐怖が覆い被さってくる。
・・・
薬はもちろん必要だけれども、副作用が出る可能性も十分覚悟して服用しなければならない。だから私はこの本で、最終的には薬に頼らない克服法を目指したのである。
それから、パニック障害克服のための基本スタンスは含蓄に富んだ表現です;
自分の体は神様からもらった体だと思い、
自分の中の自分と対話し、
自分で自分の体をいたわること。
なぜなら、結局のところ、自分の肉体は自分の魂しか褒めてくれないから。
暗くて長いトンネルを孤立無援状態で戦い抜いた言葉ですね。
<メモ>
自分自身のための備忘録。
■ パニック障害でない人が、パニック障害を100%理解するのは不可能。
この苦しみは、女房も子どもも本当には理解してはくれない。医者も理解できない。
それが当然なのだ。なぜならパニック障害を経験していないから。
■ 人生の目的は「幸福感」ではない。
人生が「自分探しの旅」であるとするならば、その最終目的地が「幸福感」であってはならないと私は考えている。
現代社会においては、多くの人が、幻のような幸福感を揺るぎないもののように錯覚して塗ろうし続けている。「もっともっと症候群」になり、「スーパーマン症候群」になりーー。その結果、心と肉体がちぐはぐになり、挙げ句の果てには心を病んでしなうのではないだろうか。
私はパニック障害になって、人間が生きていく目的は幸福感でも何でもなく、結局、一つしかないのではないかと考えるようになった。仕事は仕事での目的がある、プライベートはプライベートでの目的がある、と分けて考えるものではなく、最終的な目的は、シンプルにたった一つだけ、それは「自分が何であるのかを知ること」なのではないだろうか。
■ 「薬や医師に依存する、頼る」という考えのままでは間違えてしまう。
脳科学では「自分で自分を導く」というような言い方をするようだが、結局、パニック障害も同じで、本当に根本的に治すためには、まず自分自身で自分の心身を奥深くカウンセリングすることからスタートしなければならない。
自分はいったい何者なのか。
本当に必要なものは何なのか。
何がつらくて、何に疲れているのか。
その原因は何なのか。
自分は何を最終目的に生きているのか。
■ ゆっくり吐いて、ゆっくり吸うだけの呼吸法
呼吸法というと一見難しそうに思うかもしれない。実際、文献などを読むと何百種類もの呼吸法がある。私は凝り性なので・・・数限りない呼吸法を試してみたけれど、結局、あまり特殊で難しいものはパニック障害には必要ないことがわかった。
パニック障害に必要な呼吸法の基本というのは、「ゆっくり息を吐いて、ゆっくり息を吸う(ただし、順番は吐くことが先)」という、ただこれだけ。それだけで十分、自律神経は落ち着いてくることがNASAのデータでも確認されている。
この呼吸法は乗物恐怖の際にも有効だ。「あ、ヤバイな」という予感がしたら、とりあえず目を閉じてゆっくり吐いて、ゆっくり吸う。それだけで気分が落ち着いてくるはずだ。
■ パニック障害は自分の人生を見つめ直す絶好の機会だ。パニック障害のピンチは、自分次第ですごいチャンスに変えられる。
■ 社会が悪い、会社が悪い、上司が悪い、親が悪い、誰々が悪いと思っているうちは、パニック障害は治らない。
「そんなの関係ないよ」と流せる自分を確立すること。
パニック障害にかかる人には「休んでいることに罪悪感を持つ人」が非常に多い。その自己嫌悪や自己否定から、余計にうつの症状が増してしまう。勇気を持って「人間、ダラダラすることも非常に需要なのだ」と考え方を変える必要がある。
■ パニック障害を含めて、自然から離れれば離れるほど人間の体は悪くなる。
根治のポイントは「自分の肉体を自然に帰してあげること」だと思う。
■ トップサーファーが失敗して波に飲み込まれたときどうするか?
高さ十数メートルに及ぶこともある波に飲み込まれたら、3分間は上がってこれない。「その時はどうするんだ>」と効くと、彼は「まずは身を任せる」と言うのだ。
波の下は、すごい勢いで海水がグルグル回っているから、上と下がわからなくなる。それに巻き込まれているときは、パニックになってもがいたら死ぬ。だから、とりあえずは身を任せ、グルグルされるままになって、ちょっと波が収まったときにパッと目を開けて、泡が昇っていく方に思い切り手だけ動かす。その時、足も動かすと酸素が海面まで持たないので「手だけ動かす」のがポイント。
■ 「逃げる」のではなく「しのぐ」ことが大事。
したたかに、ずるがしこく生きる。しのぐためには「まあいいや、だいたいで」と言い続けよう。
■ 「生きていく理由もないけど、さしあたって死んでいく理由もない」(バルタザール・グラシアン)