発達障がい・こころのやまい

専門外ながら相談を受けることがあり、その際に読んだ本や集めた情報を書き留めました(本棚9)。

「発達障がい」の診断の難しさ

2021-09-19 11:52:59 | 自殺企図
私は小児科医で、アレルギー分野を専門としています。
昨今、発達障がいの子どもが小児科外来で散見されるようになりました。
別の病名で通院している子どもの中にも、
「健診で疑われ専門医にASD(自閉症スペクトラム)と診断された」
と報告する保護者も少なくありません。
そのようなお子さんを見ていると、ある程度想像のつく例から、えっこの子が?という例もいて、私自身にはとても診断できると思えません。

私が小児科医になった30数年前より、発達障がいの子どもは確実に増えているようです。
その原因についてはいろいろな説があり、まだ確定的なことはわかっていません。
私は晩婚化が一因ではないかとなんとなく感じています。

両親の年齢と子どもの発達
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それはさておき、小児科の中でも発達障がいを専門に診療している医師の間でも誤診(過剰診断・過小診断)が問題になっているという記事が目に留まりました。それほど微妙で複雑な問題である証拠かもしれません。

発達障害「専門医の多くが誤診してしまう」理由
岩波 明 : 精神科医

岩波先生は、診断に困難さがある現状を報告しています。

・・・著名な精神科医や発達障害の専門医であっても誤診がまれではありません。例えば「うつ病と診断したけれども、発達障害だった」「ASDだと診断したが、本当はADHDだった」などということは、しばしば見られています。・・・多くの先生方には、発達障害の基本的な点が浸透していないように思えます。

その内容として、
・もともと発達障がいがあるが、全面にその二次障害としての別の症状が出ている例
・ASD(自閉症スペクトラム症)とADHD(注意欠陥多動症)に共通する症状を訴える例
・保護者からの虐待が引き金となって発症する「愛着障害」はASD/ADHDと似た症状を示すことがある
などを挙げています。

ADHDとASDの区別も、非常に曖昧で難しい面があります。ADHDなら多動・衝動性と不注意、ASDなら対人関係のトラブルとこだわりの症状など、それぞれ典型的な特性があるのは確かですが、臨床の場面では、両方を同時に示すようなケースにも頻繁に出合います。
例えば「話し出したら止まらない」のは、ADHDにもASDにも見られる症状です。ADHDの場合は「思いついたことを言わずにいられない」衝動性が原因であるのに対して、ASDの場合は「他人に対する無関心、配慮のなさ」が原因ですが、見かけの症状は同じなのです。

また、医師側の要因として、従来の発達障がいの専門家は重度の自閉症が主な対象でしたが、現在はASDよりも多いAHDHが中心になり、ちょっと勝手が違う、という要素が無きにしも非ず。

それから「グレーゾーン」の存在も無視できません。
ASDは自閉症スペクトラム症の翻訳ですが、“スペクトラム”とは一様ではなく“幅がある”“グラデーションで分布”することを指し、つまり典型例もいれば非典型もたくさんいて健康と病気の線引きが難しい病態であることを示しています。
さらに、「検査で診断できない」ことも要因です。
これらの疾患は「症状を数えて診断する」タイプであり、この検査で白黒がつくという便利な検査は存在しません。

発達障害も、発達障害という確定的な診断はつかないにしても、発達障害的な特性によって、日常生活に問題を抱えているケースがよくあります。・・・例えば、ADHDと断定はできないけれども落ち着きがなくて忘れ物が多い人、ASDと診断するほどではなくても空気が読めずに人の輪に入れない人などは、たくさんいます。
発達障害とそうでない人の間には明確な区別が存在しているわけではなく、さまざまなグラデーションが存在しています。そのため、「この一線を超えたら発達障害」という線引きは、医師ごと、病院ごとに委ねられています。ある病院では「発達障害でない」と言われ、別の病院では「発達障害だ」と言われるケースも少なくありません。
しかし、発達障害に限らず、ほとんどの精神科の疾患には数値で表せる明確な指標は存在していません。血液検査の数値など、なんらかの検査で白黒つけられるわけではないのです。

ですから情報量がモノを言います。
とくに幼児期の情報をいかに多く集められるかで左右される傾向があります。

現在の症状とこれまでの経過について多くの「情報」が手に入るなら、ほぼ間違いのない診断が下せると思います。しかし、それには本人の子ども時代にまでさかのぼって、話を聞かなくてはなりません。本人の記憶が曖昧なことも多いし、本人は「私は普通の子だった」と思っていても、周囲は「すごく変わった子だった」と思っているケースも多く、なかなか簡単なことではありません。
現実には、情報不足によりグレーゾーンとして扱わなければいけないケースであっても、情報がそろったことで、後になってから発達障害だと確定するケースがあることは、十分に考えられます。

このようにして診断にたどり着いた後は、治療へ移行します。
しかし発達障がいは“治る病気”ではありません。
うまくつき合い、社会生活を送れるように対応・調節していくことに尽きます。

発達障害は生まれつきのものですから、「治す」という言い方は適切ではありません。しかし、本人にその意志があるなら、日常生活で問題が起こらないように、問題となる部分をカバーすることは可能です。
それにはまず、自分の特性を理解することが大切です。さまざまなトラブルは、その自らの特性が原因で起きている、ということを知る。そのうえで、どうしたらトラブルを防げるか、具体的に考えていくことになります。

これはもう、ケースバイケースとしか言いようがありません。
しかし、「人の話を聞けない」「人の指示に従わない」性質を持つとやっかいです。

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