ツールの14ステージはピレネー2連戦に突入し、総合争いが佳境に入ります。レース前のインタビューでアダム・イエーツでステージ優勝を自分はタイム差をキープすると冗談めかして話していたポガチャル。超級トゥールマレーを越え、最後の超級プラ・ダデではマルク・ソレルからパヴェル・シバコフへと牽引が引き継がれ、残り8kmからは総合4位のジョアン・アルメイダに牽引が代ると、ポガチャルと言葉を交わしたアダムがアタック。
これにはアダム本人も疑心暗鬼だったようで、何度も後ろを振り返ります。本当にポガチャルは来ないのか、来たら牽引かという迷いがあったとレース後に勝っているのです。ポガチャルはアダムにたた「行って」と使えただけだったようです。
前日に逃げに乗り、総合でも7位につけるアダムは軽快に飛ばし、逃げていたベン・ヒーリーを視界に捉えます。そしてフィニッシュまで残り4.6km地点で今度はポガチャルがアタック。ヴィンゲゴーやレムコは付いて行けず、どんどんタイムは開いて行きました。
ポガチャルはあっという間にヒーリーを捉えたアダムに追いつき、アダムがハイペースでポガチャルの前を牽くことになります。前待ち作戦がハマったポガチャルは残り4kmで単独先頭に立ち、ヴィンゲゴー&エヴェネプールとの差を拡げていきました。そして大歓声を浴びながら登るポガチャルのスピードは最後まで落ちることなく、超級山岳プラ・ダデを制覇。ハルクポーズで雄叫びを上げ、区間2勝目を掴み取ったのです。
レース後「アタックしたのは作戦ではなく本能に従っただけ。スプリントでのステージ勝利を狙っていたのだが、アタックしたアダムに追いつけば独走勝利できると思った」と語ったポガチャル。彼は「本能」という言葉を良く使いますが、経験や観察に裏付けられた「直感」に近いものと見ています。勝負勘が抜群に優れているのです。
その勝負勘の良さは翌15ステージのプラトー・ド・ベイユでも遺憾なく発揮されました。前日はUAEに主導権を握られていたヴィスマは、この日は積極的にハイペースで前を牽き、ポガチャルのアシストを削る作戦に出ます。ただ、今年のポガチャルは2022年のポガチャルとは別物に進化していたのです。
マッテオ・ヨルゲンソンが懸命にペースを上げ、残り10.5kmでヴィンゲゴーが発射するも、ポガチャルはシッティングのままヴィンゲゴーに付いて行きます。残り5.4kmで初めて後ろを振り返ったヴィンゲゴーに隙ありと感じたのか、ポガチャルがアタックしピレネーで連勝してしまうのです。
この時のプラトー・ド・ベイユのポガチャルの登坂タイムは何と39分58秒で、1998年のマルコ・パンターニの記録を3分30秒も更新しているのです。この時のデータを振り返り、ヴィスマの監督にヴィンゲゴーは今のポガチャルには敵わないと言わしめたほどなのです。というのも、ヴィンゲゴーの登坂タイムもパンターニより2分22秒も速かったのですから。ツールを連覇している二人の登りの強さは別格なのです。
「子どもの頃マーク・カヴェンディッシュが勝利を重ねる姿を見て、”彼は違う星から来た選手だ”と手の届かない存在だと思っていた。だが、夢は追いかければこうやって掴めるんだ」と語っていたポガチャル。今年、ツール通算35勝という大偉業を成し遂げたカヴェンディッシュですが、ポガチャルは今年もツールで6勝を挙げていますので、スプリンターではない選手がここまででツール通算16勝というのも驚きです。流石にカヴェンディッシュの35勝は無理かもしれませんが、エディ・メルクス等に並ぶ総合優勝5度というのは現実味を帯びて来ました。
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