今日の大雪にはまいった。
家を出た時には雨だったのに。寒いなと思いながら家を出た。
何も気にせずに革靴を履いて出た。それも、裏が減っていて、非常に滑りやすくなっていた。
どうせ仕事だからこの靴なら、傷がついても、踵を踏んでもどんな履き方をしても構わないと気楽に履いて出たのだ。
打ち合わせにお客様の家についた時には雪がだいぶ降ってきていた。
それでも、こんなに降るとは思いもしなかった。
打ち合わせが終わって外に出てビックリ。
こんな時に間の悪いことに、そこは分譲地のてっぺん。
しかもその分譲地は急坂なのである。とびきりの急坂なのである。
これは、まずいと慎重にそろそろと歩いて降りていった。
途中に変わった作りの家があったので、それをを見ながら降りていたら、いきなりツルンと、体が飛び上がった。
どん、と地面に叩きつけられて、おしりと右足から叩きつけられた。
傘は、5.6メートル下に飛んでいた。
このベタベタの水気を含んだ雪である。ズボンがびっしょり。
それでも、腰や頭を打たなくてよかった。気を失ったり、歩けなくなったかもしれない。
ついた手を骨折する人もいるらしい。
ゆっくりと立ち上がり、自分に言い聞かせた。
「慌てて、傘を拾いに行ってはいけない、更に転んだら大変だ。少し痛いがこの程度でよかった」と。
坂道を、そろりそろりと降りていき、傘のところまで来て、傘を拾い上げた。
「大丈夫だ、このように歩けば良いのだな」もう少し行けば勾配もだいぶゆるくなる。
もう大丈夫だ、と思ったら体が自然と伸びて、少し胸を張った。
その瞬間、ツルンと体が飛び上がり、またドスンと同じところを強打。
もう、恥も外聞もない、横にある塀やフェンスにつかまりながら歩いていたら、
後ろから若い男性が駆け下りていくではないか。靴がすべらないのはこんなにも違うものらしい。
なんとか下の通りまで降りてバス停についた。
バスは行ったばかりで、ズボンはビショビショでコートには雪が積もっていた。
寒さをこらえてバスを待っているが、風が吹いてきて雪は横殴りに吹いてくる。
バスに乗れば、暖房が効いている。暖かい室内なのだ。
楽しみにしながら、足踏みをしながらバスを待っていると、向こうの方から雪をたっぷりとかぶったバスがやってくるのが見えた。
昔見た、映画を思い出した。
ジョンウェイン主演だったかな、駅馬車が荒野の真っ只中でインディアンに囲まれて苦戦している。
銃を撃っても撃っても、敵はビクともしない、弓矢が雨のように降ってくる。
もう駅馬車の人たちはダメかと思うと遠くから、進軍ラッパの音。
騎兵隊がラッパを高らかに鳴らしながら助けに来たのだ。
映画館の中で見ている人たちが急に元気になってきたように思えた。
そんなことを思い出していた。これで、この寒さから解放されると思うと拍手をしたくなった。
一緒にバスを待っている人たちの顔も明るくなったように見えた。
喜んで、バスに乗って空いている席に座るのだが、室内は想像したようには暖かくない。
ズボンは濡れているし、寒さは変わらない。
一緒に待っていた人がたまりかねて運転手さんに
「寒いから、暖房をつけてよ」と言った。
「お客さん、すみませんね、この雪では暖かくするとガラスが曇ってしまって何も見えなくなってしまうので」
みんな無言だった。
見えないのでは仕方がない、バスは安全が第一だろう。
でも、どこか納得できないな、と震えながら、タイヤに巻いたチェーンでガタガタと揺れるバスに身を任せていた。
揺れながら、この靴はもう捨てようと思った。
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