物価対策は「王道」に戻せ、低所得層への食料品・光熱費支援や給付付き税額控除導入に絞れ
2024.11.10 ダイヤモンドオンライン 金子 勝:淑徳大学大学院客員教授・慶應義塾大学名誉教授
実は財政学者の金子勝が解説するほんとうに必要な人に届く効率的な減税方法。 大人気となった国民民主党の「103万円の壁~所得控除の引き上げ」政策。学生のバイトの働き控えや手取りの目減りを問題にして始まりましたが、それはほんとうか。
多くの人になじみのない所得控除と所得税の税額控除の違い、ターゲットを絞った給付付き税額控除による公平な所得の分配政策を説明しながら、スローガンに寄りかかる103万円の壁の突破や消費税減税政策の金持ちほど得する仕組みを明らかにします。
政治の状況も変わりました。103万円の所得控除を変えられるなら、同じ財源でもっと私たちの手取りが残る政策も採用できるはずです。 ここは、減税だけでなく税のとり方と使い方の双方で国民に本当に役立つ民主主義的財政を求めたいものです。その前に、こちらも勉強して騙されないようにしないといけないですね。 収録は、2024年11月12日
金子勝@masaru_kaneko ダイヤモンドオンラインで「物価対策は「王道」に戻せ、低所得層への食料品・光熱費支援や給付付き税額控除導入に絞れ」を書いた。税制ポピュリズムを排しマーリーズレビューを踏まえて、エンゲル係数や光熱費の急上昇と所得再分配を考慮した物価対策を考えるのが筋だろう。
与野党「協力」で問われる各党の政策力 アベノミクスの発想から抜け出せず
石破政権で初の国政選挙となった衆議院選挙では、自民・公明両党は過半数割れに陥り、「政策協力」で合意した野党、国民民主党と自民・公明両党との政策協議が始まった。
石破首相が早期解散に踏み切ったことで、かえって裏金問題が最大の争点になり、自民党が自滅したといっていい。
石破首相が自民党総裁選中に言っていたように予算委員会で十分な審議をし、選択的夫婦別姓や保険証廃止延期などを約束、物価対策についても具体策をきちんと打ち出して総選挙に臨めば、これほどひどい結果にならなかったかもしれない。
同じことは、「政権交代」を目指した立憲民主党にも言える。政治とカネの問題に焦点をあてた戦略は一定程度、成功したが、物価高や賃金の低迷、社会保障や財政への不安といった国民の生活に深く関連する問題を解決する整合性のある政策を練っていないために、結局、政権交代も比較第1党も実現できなかった。
これから、自民・公明両党と国民民主党以外の他の野党や野党間も含めて政党間で話し合いながら政策を決める局面が増えてくれば、各党の政策能力が問われる。それを怠れば有権者からその力量を見限られるかもしれない。中でも、国民にとって切実な物価対策について整合性のある政策を出すことが求められていく。
だが各党が選挙公約で掲げた物価高対策を見る限り、財政の大盤振る舞いと超金融緩和で無理やり物価を上げようとしたアベノミクスの発想からいまだ抜け切れていない。
物価対策は「王道」に戻るべきなのだ。(以下有料記事)
(給付つき税額控除から生活支援政策を考える 知原信良 杏林社会科学研究 2 0 2 1年 1 月)
給付つき税額控除は、1990年代以降、世界的に見て注目される政策手段となっている。実際に、児童を扶養する勤労者や所得の少ない勤労者に支援する目的で米国や英国のほか多くの国で実施されている。
そもそも給付つき税額控除とは、所得税において特定の目的のために税額控除を行うとともに、税額が少ないために税額控除しきれない分を、納税者に給付するという仕組みである。税額控除を通じた所得税計算と一定額の給付を組み合わせた仕組みといえる。
(EU 付加価値税の現状と課題─マーリーズ・レビューを踏まえて─ 西山由美* 財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成 23 年第1号(通巻第 102 号)2011 年1月)
*東海大学法学部教授 現・明治学院大学経済学部教授
『マーリーズ・レビュー(Mirrlees Review)』は,21 世紀に至るべき税制改革に関する報告書であり,1996 年ノーベル経済学賞受賞であるジェームズ・マーリーズ卿を座長とし,その第一巻(2010 年6月公表)『税制の諸問題(Dimensions of Tax Desigh)』では,税制の諸局面(所得税率,労働市場と課税,消費課税,環境税,直接税の課税ベース,資産課税,国際課税,小規模事業課税,税務行政など)の現状分析およびそれに対する専門家のコメンタリーを内容とする。