京都童心の会

ほっこりあそぼ 京都洛西の俳句の会
代表 金澤 ひろあき
俳句 冠句 自由律 詩 エッセイなど同好の人たちと交流

舞姫現代語訳10

2017-02-04 16:34:57 | 日記
『舞姫』現代語訳 第十班      金澤 ひろあき
【要旨】
少女の境遇と太田の援助
(現代語訳)
 少女はとびぬけて美しい。ミルクのように白い色の顔はへやのともしびに映って、ほのかに赤みをさしている。手足がかぼそく上品なのは、貧しい家の女性には見えない。老婆が部屋を出ていった後に、少女は少しなまりがある言葉でこう言った。「許してください。あなたをここまでつれてきた無礼を。あなたはきっとよい人だと思います。私を決してお憎みにはならないでしょう。明日にせまっているのは、父親の葬式。頼みに思っていたシャウムベルヒ。あなたは彼のことをごぞんじではないでしょう。シャウムベルヒは(私が所属している)ビクトリア座の支配人です。シャウムベルヒの専属となってから、もう2年にもなったので、きっと私達親子を助けてくれると思っていたのに、人の苦しみにつけこんで、身勝手な要求(愛人になれというようなこと)をするとは。わたしを救ってください。(葬式の)金はわずかな給料をさいてお返しします。まして私が食べるものを食べなくても(きっとお返しします。)。それがだめなら、母の言葉に。」
 少女は涙ぐんで身を震わせた。その見上げた目には、人にノーと言わせない媚態(びたい)(セクシーさ)がある。この目のはたらきは、自ら知っていてするのであろうか、または自ら知らずに無意識にやっているのであろうか。
 私のポケットには2、3マルクの銀貨があったけれど、それでは足りるはずもないので、私は時計をはずして机の上に置いた。
「これで一時の急場をしのぎなさい。質屋の使いが、モンビシュウ街3番地に太田はどこだとたずねて来た時に、その代金を払うだろうから。 」
 少女は驚き感動したようすを見せて、私が別れのために差し出した手に唇をあてたが、はらはらと落ちる涙を私の手の甲に注いだ。
(ポイント)
1、少女のピンチ ①父の死 ②葬儀の金がない。③シャウムベルヒにつけこまれる。
2、太田の援助 無償のもの 
 弱者を救うという気持ち・あわれみ=決して「恋愛」感情ではない.
 太田の時計 東京帝国大学をトップで卒業した者に与えられる銀時計だったと思われる。太田のエリート人生の象徴である。もしそうであれば、太田は自分のエリート人生の象徴を、今出会ったばかりの少女に渡したことになる。以前ほどエリート人生に執着が無い心情になっていると言える。

舞姫現代語訳9

2017-02-04 12:11:58 | 日記
『舞姫』現代語訳  第九段落    金澤 ひろあき
【要旨】
エリスの家の中の様子 貧しい
【現代語訳】
 私はしばしぼうぜんとして立っていたが、ふとランプの光に透かして戸を見ると、エルンスト・ワイゲルトとペンキで書き、その下に仕立物屋と説明している。これは死んだという少女の父親の名なのであろう。家の内側では言い争うような声が聞こえたが、また静かになって戸が再び開いた。先ほどの老婆はていねいに自分の無礼なふるまいを詫びて、私を家の中に迎え入れた。
 戸の内側は台所であって、右手の低い窓に、まっ白に洗った麻布をかけている。左手には粗末に積み上げたレンガのかまどがある。正面の一室の戸は半分開いているが、内側には白い布をおおっているベッドがある。そこに伏しているのは亡くなったエリスの父親であろう。かまどのそばにある戸を開いてエリスは私を案内して入れた。この部屋はいわゆるマンサルドという屋根裏部屋え街に面している一室であるので、天井もない。部屋の隅の屋根裏より窓に向かってななめに下がっている梁を、紙で張っている下の、立つと頭がつかえるような所にベッドがある。中央にある机には、美しいテーブルクロスをかけて、その上には書物一~二冊とアルバムを並べ、陶器の花瓶にはここには決して似合わない高価な花束を生けている。そのそばに少女ははじらいの表情を帯びて立っている。

【ポイント】
・エリスの家の中の様子が描かれる。入ってすぐが台所。奥に一間、そこに亡くなった父親が納棺もされずに横たわっている。
 台所の左側がエリスの部屋。マンサルドといえば聞こえがよいが、天井裏部屋で狭い。
・「お金が無い」というエリスの部屋に、なぜ「高価な花束」があるのか。これについては諸説あるようだ。
 たとえば、この後にエリスは人気NO2の舞姫という記事があるので、ファンがいて贈ったのだろうという説を聞いたことはある。
 私などは大切な人との出会いのシーンなので、鷗外が思わず、自分がエリーゼに出会った時のことを思い出したのかな、などと空想してみたりする。  もっとも空想なので、根拠はない。