京都童心の会

ほっこりあそぼ 京都洛西の俳句の会
代表 金澤 ひろあき
俳句 冠句 自由律 詩 エッセイなど同好の人たちと交流

舞姫現代語訳23

2017-02-14 16:22:23 | 日記
『舞姫』現代語訳 第二十三段落         金澤 ひろあき
【要旨】
エリスを裏切った後の太田の錯乱
【現代語訳】
あつかましい恥知らずの顔はもっているが、帰ってエリスに何と言おうか。ホテルを出た時の私の心の錯乱は、たとえるものもない。私は道の東西もわからず、思い沈んで行くうちに、行き交う馬車の車夫に何度もどなられ、驚いて飛びのいた。しばらくしてふとあたりを見ると、動物園のそばに来ていた。倒れるように道路わきのベンチによりかかり、焼くように熱く、ハンマーによって打たれたように響く頭をベンチの背にもたれさせ、死んだような状態でどれほど経っただろうか。激しい寒さが骨にとおったと感じて目覚めた時には、夜に入って雪は激しく降り、帽子のひさし、コートの肩には3センチほど積もっていた。
もはや十一時もすぎていただろう、モハビット、カルル街を通る鉄道馬車のレールも雪にうずもれ、ブランデンブルグ門のほとりのガス灯は寂しい光を放っている。立ち上がろうとすると足が凍えているので、両手でさすって、やうやく歩けるようになった。
ゆっくりとしか歩けないので、クロステル街まで来た時は、0時を過ぎていただろうか。ここまで来た事を全く覚えていない。1月上旬の夜であるので、ウンテル・デン・リンデンの酒場、喫茶店は人の出入りは盛んな時であったはずだが、全く覚えていない。私の頭の中には「自分は許せない罪人だ」という考えでいっぱいだった。
4階の屋根裏部屋では、エリスはまだ寝ていないようで、(その部屋の明かりはあたかも)きらきらと光る星の光りが、暗い空にすかすと、明らかに見えるが、降りしきるさぎのような雪に、覆われたり、また現れたりして、風にもてあそばれているようだ。入り口に入るとすぐに疲れを覚えて、関節の痛みにたえられないので、はうようにして階段をのぼった。台所を過ぎ、部屋の戸を開けて入ると、机によりかかっておしめを縫っていたエリスは振り返って「あ。」と叫んだ。「どうなさったのですか。あなたのその姿は」
驚くのも無理はない。真っ青で死人のような私の顔色、帽子をいつのまにか失い、髪は気味悪く乱れ、何度も道につまづき倒れたので、衣服は泥まじりの雪によごれ、ところどころ裂けていたので。
私は答えようとして声が出ず、膝がしきりに震えて立てないので、椅子をつかもうとした事までは覚えているが、そのまま床に倒れてしまった。
〔ポイント〕
1 エリスを裏切り、日本帰国を告げてしまう。
 理由…これはたぶん?外自身の心の中の声であった。日本政府・一族の期待を捨てられるのか。
 その後の豊太郎…雪の中、ベルリンをさまよう。
 さまよったコースの問題…「動物園~ウンテル・デン・リンデン~クロステル街」は、エリスと初めて 出会った日と同じ・・心の深い所にエリスが存在。錯乱して覚えていないと言いながら、克明に描写。
2 「我は許すべからざる罪人」の「罪」とは…エリスの愛を裏切った          
3 エリスの家の風景描写=エリスの運命の暗示 はかなさ
「(その部屋の明かりはあたかも)きらきらと光る星の光りが、暗い空にすかすと、明らかに見えるが、降りしきるさぎのような雪に、覆われたり、また現れたりして、風にもてあそばれているようだ。」の部分。
4 太田は意識不明 その状態で悲劇が起こる設定・・・責任逃れのようにも思える設定。?外の自己弁護ともとれる部分。

舞姫現代語訳22

2017-02-14 08:10:58 | 日記
『舞姫』現代語訳  第二十二段落 金澤 ひろあき 
[要旨]
太田 二つの選択に悩む 結局選んだのは?
[現代語訳]
「よくぞお帰りになりました。お帰りにならなければ、私の命は絶えていたでしょう。」私の心はこの時まで定まらず、故郷を思う気持ちと出世を求める気持ちは、時としてエリスへの愛情を圧倒しようとしていたが、ただこの一瞬、迷いの気持ちは去って、私はエリスを抱きしめ、エリスの顔は私の肩によりかかって、エリスの喜びの涙ははらはらと肩の上に落ちた。
「何階にもって行けばよいのか」とドラが鳴るような大声で叫んだ御者は、いち早く上ってはしごの上に立っていた。
戸の外に出迎えたエリスの母に、御者をねぎらって下さいと銀貨を渡して、私は手をとって引くエリスにともなわれ、急いで部屋に入った。ちらっと見て私は驚いた。机の上には白い木綿、白いレースなどをうずたかく積み上げていたので。
エリスはにっこり笑いながらこれを指して、「どうごらんになりますか。この準備を」と言いつつ一つの木綿のきれを取り上げたのを見ると産着であった。「私の楽しさをお思い下さい。生まれる子はあなたに似て黒い瞳をもっているでしょう。この瞳。ああ、夢に見たのはあなたの黒い瞳でした。生まれる日にはあなたの正しい心で、よもや私生児の名を名乗らせる事はございませんでしょう。」エリスは頭を垂れていた。「幼いとお笑いになるでしょうが、洗礼で教会に行く日はどれほどうれしいことでしょう。」私を見上げた目には涙が満ちていた。
二、三日の間は大臣も、旅の疲れがおありだろうと思って訪問しなかった。家にばかりこもっていたが、ある日の夕暮れに使いが来て招かれた。行って見ると待遇がひじょうによく、ロシア行きの労をねぎらっていただいた後、「私とともに日本に帰る気持ちはないか。君の学問は私が測り知るようなものではないが、語学だけでは、世の中の役には立たないだろう。君はベルリン滞在があまりにも長いので、さまざまの恋人などの関係ある者があるだろうかと相沢に聞いたが、そのような事はないと聞いて安心していた。」とお話しになる。その雰囲気は拒否できるはずもない。ああしまったと思ったが、そうはいっても相沢の言葉はうそでしたとも言いにくい上に、「もしこの手にすがらなければ、日本も失い、名誉を回復する手段もなくなり、我が身はこの広々としたヨーロッパの大都ベルリンの海のように多い人の中に葬られるのか」と思う気持ちが、強く頭の中に起こった。ああ、なんと節操のない心だ、「承知いたしました」と答えたのは。
【ポイント】
1 太田豊太郎 ドイツ帰国  エリスと再会
 二つの心が対立
 A 故郷を憶(おも)ふ念と栄達を求むる心=エリート社会への復帰を希望
 B 愛情=エリスへの想い
  エリスと再会した瞬間、Bが勝る。
2 エリスは出産の準備=新しい生活へ向けて着実に計画。・・・賢明な生き方
 太田とエリスの違い
 エリスは太田に正式の入籍を求める。
 太田はこれに対して返事をしていない。あいまいな態度。愛情が勝ったといいながら・・・
3 数日後、天方大臣に会う。
  天方大臣の言葉 「私と共に故郷・日本に帰らないか。君の語学の力はすばらしい。それだけで役に立つ。
ベルリン滞在が長いので君に家族・係累(けいるい)がいるかと心配したが、いないと相沢から聞き安心した。」
4 太田豊太郎の心中のあせり 
①相沢が大臣に嘘を伝えたとは言えない。
②もしこの手にすがらなければ、本国・日本帰国のチャンスを失い、名誉回復もできず、このベルリンで一人さびしく死んでいく。
5 節操もなく「承知しました・承(うけたまわ)りはべり」と返事=エリスを裏切る 。