京都童心の会

ほっこりあそぼ 京都洛西の俳句の会
代表 金澤 ひろあき
俳句 冠句 自由律 詩 エッセイなど同好の人たちと交流

舞姫現代語訳20

2017-02-11 16:36:24 | 日記
『舞姫』現代語訳 第二〇段落        金澤 ひろあき
【要旨】
 エリスの第二の手紙
【現代語訳】
 またしばらくたってから届いたエリスの手紙は、ひどく思いがせまってくるような書き方をしていた。手紙を「いいえ」という字から書き起こしている。
 「いいえ、あなたを思う心がこれほどまで深いということを今こそ知りました。きみあなたはふるさとにたよれる親族がないとお話になったので、もしこのベルリンによい世渡りの手段(職業)があれば、とどまりにならないことは決してないでしょう。また、私の愛でつなぎとめないではおきません。それがかなわず、日本にお帰りになるというならば、母親と行くのはたやすいけれども、これほど多い旅費をどこから得たらよいのでしょう。どんな仕事をしても、このメルリンにとどまって、あなたが世の中でご活躍なさる日を待とうといつも思っていますが、ほんのしばしの旅だといってあなたがロシアに出発なさった時からこの20日ばかり、別れの悲しみは日に日にはげしくなっていく。別れはただ一瞬の苦痛だと思ったのは迷いでした。私の身体が普通の状態でなくなってきたのがだんだん目立つようになってきました。そのことまでがあるので(太田の子供を妊娠しているので)、たとえどのようなことがあっても、私を決してお捨てにならないように。母と激しく争いました。しかし、私が以前とは違って、強く決心しているのを見て、母も折れました。私が日本に行くような時には、ステツチンあたりの農家に、遠い親類があるので、そこに身を寄せようと言っています。あなたが書き送って下さったように、大臣があなたを重く信用して用いることになったならば、私の旅の費用はなんとでもできるでしょう。今はひたすらあなたがベルリンにお帰りになる日を待っているだけです。」
 ああ、私はこの手紙を見てはじめて私の立場をはっきりとみとめることができた。恥ずかしいのは私の鈍い心である。私はわが身ひとつの将来のゆくえも、またわが身に関係しない他人のことについても、決断することができると自分で内心誇っていたが、この決断は順調な時にだけあって、順調でない逆境の時にはないのだ。私と他人との関係を映そうとするときには、たよりにしていた胸の中の鏡は曇ってしまう。
【ポイント】
1、エリスは、太田への愛情を示す。太田が必要不可欠。
 太田と生活する場合を想定して、生活設計する。現実を見つめ、しっかり対処しようとしている。けなげで賢明な女性に変貌。二つのケースを予想している。
①太田がベルリンに残る場合・・・ベルリンで家庭を築く。
②太田が日本に帰国する場合・・・エリスも日本に行き生活する。エリスの母は別れて、ポーランドのステッチンにいる親類の家に身を寄せる。
2、太田 追いつめられる
 わが地位をようやく自覚=日本復帰を選ぶのか、エリスとの生活を選ぶのか、決断を迫られる。
 しかし現実は、エリスに対して「捨てない」とだます。同時に、友人相沢には「エリスと別れて日本帰国」とだます。
3、自分の弱さ=自分で決められない人間であることを再認識。

舞姫現代語訳19

2017-02-11 10:08:47 | 日記
『舞姫』現代語訳  十九段落      金澤 ひろあき
[要旨]
太田のロシアにおける活躍とエリスからの手紙
[口語訳]
鉄道を使えば遠くもない旅であるので、用意といっても何もない。体にあわせて借りた黒い礼服、新しく買い求めたゴタ版のロシア宮廷の貴族の系譜(ゴタはドイツ中部にある小都市。出版で有名であった。貴族の系譜は、ロシア宮廷においては、家柄が大切な意味を持つので、交渉する相手ーロシア貴族-の事を知る必要不可欠の資料であった。)二、三の辞書などを小さいカバンに入れているだけである。そうは言うものの心細い事が多い最近の事であるので、出掛けて行く後に(エリスが)一人で残るのも不安であろうし、また駅で涙をこぼしたりなどしたらそのまま出発するのはたいへん気がかりだろうと思って、翌朝早くエリスを母と一緒に知人の所に行かせた。私は旅の準備をととのえて戸締まりをし、鍵を入り口に住む靴屋の主人にあずけて出かけた。
ロシア行きについては、何を述べようか。私の通訳としての任務はあっと言う間に私をロシア宮廷において活躍させた。私が天方大臣の一行に従い、ペエテルブルク(今のペテルスブルク。当時のロシア王朝の離宮があり副都であった。副都とはいえ、ヨーロッパへの玄関口にあたり、内陸部のモスクワに比べ、西洋化が進み、比重は大きかった)にいた時に私をとりかこんだのは、パリ風最高のぜいたくを、氷雪の中に写したような宮殿の装飾、ことさらに黄色のろうそく(高級品)を数え切れないくらいともしたシャンデリアの光に、多くのきらめく勲章、多くのエポレット(肩につける勲章のようなもの)が反射してきらめく光、最高の彫刻をほどこした暖炉の火に、外の寒さを忘れて使う宮廷の女性たちの扇のひらめきなどであって、この間、フランス語(当時の外交用語)を最も上手に使うのは私であったので、大臣とロシア貴族との間にたって交渉に当たるのはほとんど私であった。
この間私はエリスを忘れなかった。いや、エリスは毎日手紙を寄こしたので忘れる事ができなかった。(以下エリスの手紙の文面である)「あなたが出発した日は、いつもと違って一人で部屋の明かりに向かう事のつらさに、知る人の所に夜になるまで雑談し、疲れてからようやく家に帰り、すぐに寝ました。次の日の朝目覚めた時には、なお一人後に取り残された事を夢ではないだろうかと思いました。起きた時の心細さ、このような思いは、貧乏に苦しんで、その日の食べ物もなかった時にも感じませんでした。」これが、エリスの最初の手紙のおおよその中身である。
[ポイント]
1、「駅でエリスが涙をこぼしたりしたら」という部分。一見するとエリスのことをおもいやっているようだが、 実は太田の保身。太田はエリスに「相沢に向かってエリスと別れる」と言った件はかくしているし、相沢に対しては「エリスと別れる件をまだエリスに伝えていない」ことを隠している。旅立ちの駅にエリスがあらわれ、涙を流したら、すべてが明らかになってしまう。
2、太田はロシア外交の場で得意のフランス語を生かし、日本側の中心的存在となる。
 天方伯爵の信頼が厚くなり、事態は太田の日本復帰の方向に進む。
3、エリスからの手紙 「太田と離れられない。」ことを強く訴える。

※ロシア 二都制をとる。モスクワはロマノフ王朝発祥以来の地。古都として、皇帝の即位式などを行う。
 ペテルスブルグは、近代化をはかるために、ヨーロッパへの窓口として新たに建設した都。フランス文化を導入し、宮殿もベルサイユ宮殿を模した。実は日本もこの影響を受け、古都=京都、新都=東京という体制をとった。