2022年3月 京都童心の会 通信句会結果 その2
○青島巡紅選
特選
49 「ゲルニカ」を再び描くウクライナ 金澤ひろあき
ロシアのウクライナへの侵攻を詠んだ句の中ではダントツだった。戦争に対する感情論でも屁理屈でもなく、淡々と「ゲルニカを再び描く」という言葉を置くことで、ロシアが兄弟国に襲いかかっていることを如実に物語る。言うまでもなく、この絵は、ドイツがスペインに無差別爆撃を行ったことに対してピカソが描いた絵画。
並選
① 1 柱時計のような親父が消えた日本のお正月 暉峻康瑞
「巨人の星」の星一徹に象徴されるような厳格な大黒柱は既に過去の産物、まして正月に家族の中心に奉られる存在は絶滅危惧種というのは、その通りです。
② 9 まっすぐに歩けるはずです結果・相当ズレている そんなことあるカニ!
遠藤修司
ギャグのようでシリアスな句。例えば、プーチン大統領。自分は正しい事をしていると思っている。しかし、第三者から見れば、ぶれぶれである。旧ソ連時代の過ちを正してくれるカニさんがいないのね。
③ 29 私は生きてますよ小粒の梅 白松いちろう
慎ましやかに生きている自分を小粒の梅に見る。自分は自分、流されてませんよ、と肩張らずに言っている。「よいしょ」「どっこいしょ」のように自分に言って聞かせて、次の所作に転ずる瞬間の一声。
④ 32 爆音のない当たり前の朝 白松いちろう
戦場になれば朝から爆音があるのが当たり前、現在紛争地域にいる人達には申し訳ないありませんが、戦場でない場所で生活していられることは幸いです。言われるとうんと頷く句。
⑤40 コロナ死の最多建国記念の日 中野硯池
残絵ながらコロナ死亡患者数は日々更新されている。その渦中でめでたいとされる特定の日に「最多」と告げられるとドキリとする。計算高い句。
⑥41 道草を喰う子等増えて水温む 中野硯池
三月になってしゃがんで何かを観察している子供を見かける回数が多くなった。「水温む」が効いている。小川を覗き込んでいる子供も見かけない日はない。
⑦43 大勢の皺の手で貼る貼絵雛 中野硯池
デイサービスか何かのワンシーンでしょう。皆んなで楽しそうな場面が浮かびます。「皺」と「雛」の漢字の並びが良いような。「蒭」の右側だけ見ると、「皮」が「隹=小型の鳥」になる。お年寄りが集まって童心に帰っている、そんな漢字的視覚的効果、こじつけですが、あるような。
⑧53 ほうほけきょ不要不急をたっぷり鳴く 金澤ひろあき
外出するにも良い気候になると、心の箍が外れてしまう。コロナ禍が継続している中、緩んだ襟を正そうとしている現れなのでしょう。
⑨65 春が来た根元の草を取ってやる 三村須美子
作業風景が生き生きと浮かんできます。
⑩68 春めくや空の埃が山隠す
黄砂は春の使者とも言われるもの。山が霞んで見える、有難迷惑な黄砂ですが、春の到来を実感させてくれます。
⑪69 戦場の花嫁になる2月24日 三村須美子
ウクライナにロシアが侵攻した日に結婚式が行われた。これを単なる美談で済ますか、あってはならないことと憤るのか。読み手次第。「戦争の花嫁」は、それぞれの戦争によって意味合いが変わるので気をつけないといけない。「略奪婚」のような女性の意志を無視した場合もある。
⑫70 スキー選手祖国に捧げる金メダル 三村須美子
ディベートの主題にできるかもしれない句。この作品に賛成か反対か。ウクライナの選手の心情を察するなら是。しかし、国を超えた大会という理念からいうと否になる。
⑬72 沈丁花世界トップの顔と顔 三村須美子
香木として有名な沈丁花。花言葉は「栄光」「勝利」。花が塊になって枝先に咲く様は「顔と顔」の様だ。丸くこんもりした樹形は、地球を連想させる。オリンピック選手にピッタリだ。
⑭ 76 遠い国で大和魂生きており 蔭山辰子
異国で同胞が活躍している姿に元気をもらうことがある。現地の人と同じ事をしていても、やはり何処か丁寧であったり、同郷を意識してしまう。
⑮ 81 長生きをし過ぎた痛み何に祈る 蔭山辰子
「早く楽になりたい」と呟く寝たきり状態、或いは維持装置で生かされているだけの状態。生きる希望も個としての尊厳や威厳もない状態、そんな虚無感を感じます。しかして、世の中には信仰心で死ぬ瞬間まで自分を持っている人もいます。人それぞれというところでしょうか。
○遠藤修司特選
31 歯車の狂った親分の一大事 白松いちろう
チャップリンの映画「独裁者」をすぐに思い出してしまいました。心の底から、イカ
リがこみ上げてきました。
一人の勝手気ままから、ムゴ過ぎる。地球儀を人差し指で回しているヒトラーに通じ
ています。
我が物顔でくそーはらたつ!