季節はずれのインテルメッツォ(続)

音楽、文学、絵画、スポーツ、シェパード等々についての雑記帖。

2009年03月08日 | スポーツ
ブリューゲルの「冬」について書いていて急に思い出したことがある。

僕が住んでいたのはハンブルクだ。ハンブルクは町の真ん中にアルスター湖という湖がある。横浜より少し小さいが、ドイツを代表する大都市なのに、大変住みやすかった。

今はどうなのか知らないが、当時は夕方5時にはすべての店が閉まる。アルスター湖畔には高級店が並び、ウィンドーショッピングするのも楽しかった。わざわざウィンドーショッピングのために家から出かけたことさえある。

何ていうと格好良いね。今はプロの立ち読みストだが、当時はプロのウィンドーショッピンギスト?だったのさ。進歩していないのがよく分かるだろう。

冗談はさておき、店が閉まっている時間帯に町をぶらついてウィンドーショッピングを楽しむというのはヨーロッパの人たちのゆとりある楽しみ方のひとつだ。

アルスター湖に町の明かりが映えるのはきれいだったなあ。

この湖は僕が住んでいたころには3,4回凍った。いや、凍るだけなら毎年凍ります。氷が充分に厚くなると市当局から湖上を歩いても大丈夫というお達しが出るのだ。

安全だと発表されると氷上に屋台が並び、市民が繰り出すのだ。ふだん岸辺から見ているところを歩く、これが楽しいのだ。たまと一緒に歩いたこともある。たまが氷に足をとられてやたらに転んで周囲の笑いを誘ったなあ。

一度は車が横断するのを目撃したことがある。これが許されているかどうか知らないけれど、それほどまでに氷が厚く張るのだ。

しかし上には上がある。これは当時テレビで見ただけなのだが、オランダでは国中に張り巡らされた運河が凍る。やはり安全だと判断されると、オランダ一周というとんでもないスケート大会が開かれるという。

国民はどうせ寒い冬であるならばいっそこの大会が開かれるくらい寒くなることを待ち望むらしい。

自分の国をスケートで一周するレース!なんだか血沸き肉踊ると思いませんか。いや、あんまり真面目に考えると、疲れるだろうから遠慮しますとか言いそうだから、ここは単純に童心に帰ってみよう。

ブリューゲルの絵にも大人が他愛もない遊びに呆けているのがあるね。オランダのこの大会はそんな血を受け継いでいるのだろうか。

レースは薄暗いうちにスタートする。みんな腰に弁当と飲み物をくくりつけている。子供もいれば(きっと)オリンピックに出ることを夢見る選手、もしくは選手の卵もいる。

オランダがスケートの距離競技に強いのはこんな下地があるからなのだろう。コースなどは決められているのか、僕は知らない。一位は何時間、とか報道していたように記憶するから、まああったのでしょう。

でも大抵の人は記録よりも運河巡りをすることが楽しみなようで、思い思いに勝手な場所で弁当を広げたりしている様子であった。もしかしたらアルコールも入っていたのかもしれない。

この情景は印象に残っている。たくましいというしかない。バッハの短調の曲のいくつかはふつう短調について「悲しい」「寂しい」「暗い」といわれる感じとは相容れないものがある。ここでたくましいと言っても差し支えないと思う。

たとえばインヴェンションのイ短調やニ短調を思ってもらいたい。これらに溢れるエネルギーを説明することは難しいのかもしれないけれど、僕はオランダ人の「寒さが何だ、もっと寒くなれ」というユーモアを思い出す。