季節はずれのインテルメッツォ(続)

音楽、文学、絵画、スポーツ、シェパード等々についての雑記帖。

報道

2009年06月25日 | その他
U Tubeで典型的な報道を見た。

自転車が歩行者にとって危険な存在だという報道である。

僕自身が自転車にぶつかられて骨折した経験を持つから、自転車の怖さはよく知っている。このような番組はあったほうがよい。

ただし、内容を見ると、この国での報道がいかにちゃらんぽらんか、というより、ある結論を出すためにはどんな手段でも使うという危険な手法により成り立っていることを知る。これまでにも繰り返し書いたけれど。

女子アナがスピードガンを走ってくる自転車に向けて計測する。計測器のウィンドには40キロメートルと出る。「わぁ、40キロも出ているんですね」と彼女は驚いたふりの声を出す。スタジオでも「え、そんなに出しているんだ!それは危ないなあ」などの反応があがる。

9台(だったかな)の平均時速は34キロ。このスピードで自転車は歩道を走っているのだそうだ。視聴者のほとんどは疑わないだろう。スピードガンはたしかに40と表示しているのだから。

何回か書いたけれど、僕は自転車ロードレースが好きである。40キロのスピードというのは、一台100万円ほどする、プロ仕様のバイクで疾走するプロライダーが出すスピードである。選手は一日で標高差1500メートルを、時には複数上りきる脚力を有している。

日本の歩道でママチャリが出せる道理もない。僕が見た映像でも、中年のおばさんやおじさんが、片足を地面に着きかけながらヨロヨロ歩行者の間を縫っていっていた。目測だとおよそ5キロメートル。

どこからこんな著しい誤差が出るのだろう。

ここから先がネットの面白いところ、使い方次第では非常に中立性が高いと僕が思うところだ。

女子アナの手もとにあるスピードガンのメーカー名が映されているので、すぐさまそれを調べる人が出てくる。

その結果・・・

このスピードガンは野球の球速を測るためのもので、50キロから150キロに対応している。つまり50キロ以下のスピードの計測には著しく不適切な機器だということだ。計測誤差が大きく出る。

また被計測体との距離も15メートル(だったかな)以内と規格されているという。まあ野球用ならばそうだろう。

取材に際してこの機器を使用したのは悪意のもとではなくて、単なる無知によるだろうが、報道を生業にするからには、いろいろ雑多な事柄への配慮を怠るべきではあるまい。

それにしても、誰にでも見当が付くことにすら、気が回らなくなっているのには呆れる。

人が歩く速度は時速4キロほどでしょう。誰でもおよその見当は付いている。それをヘナヘナと追い越していくだけの自転車が40キロも出していると表示するのをおかしいと感じる人が放送局にはいないのだろうか。

多分いないのだ。

彼らも日常生活の場ではそうした感覚くらい持っているに違いない。しかし、これこれこういうことを「報道」すべし、と観念の塊になってしまった頭と心は、すべてをプログラミングされた通りになぞっていくことしかできないのだろう。

好意的に見ればこうした事情だ。僕は悪意をもってものごとを見るのは好きではないから好意的に見ておく。

言うまでもないが、自転車も歩行者に対しては強者である。わがもの顔に歩行者を押しのけて走る人、暗闇で無灯火で走る人を認めているのではない。

報道ではその「正論」を諄々と説けばよいのだ。それを「ショー」に仕立て上げようとするから、上述のような愚劣な番組になり、そこにばかり反感が集まってしまう。

だいいち僕なぞは、自転車問題よりもはるかに大きな問題に対しても、目的さえ「正しければ」その手段は問われない、という態度で接しているのでは、と危惧の念を抱く。実際にそうした実例はたくさん見つかっている。

もう一度自転車問題に戻ろう。自転車がいったん車道を走り弱者になれば、横を煽って走りぬける車が多いことに気づく。

だから法的にも、場合によっては歩道を走ることが許される、なんてことになり、これでは法の体をなさない。

こうした自転車に関する報道の場合だったら、どんな場合でも加害者になる恐れがあることを周知させると同時に、自転車レーンすらないに等しい道路行政に目を向けるのが筋だろう。

ヨーロッパ主要都市の自転車レーンはじつによく整備している。僕が住んでいた20年以上前でもすでにそうであった。

スピードガンでいい加減な報道にわざとらしい嬌声を上げているようでは、まだ道のりは遠い。