⬛️ありがとうの握手で流した涙⬛️
1991年、本田宗一郎さんは亡くなっています。生前、宗一郎さんは、こんなことを言っていたそうです。「素晴らしい人生を送ることができたのも、お客様、お取引先のみなさん、社会のみなさん、従業員のみなさんのおかげである。俺が死んだら、世界中の新聞に”ありがとうございました”という感謝の気持ちを掲載してほしい」実は、宗一郎さんは結構早く、社長を引退しているんです。
66歳で引退し、いわゆる「会長職」にも就いていません。「終身名誉顧問」にはなったんですけれども仕事からは、一気に離れたそうです。で、社長を辞めた後、宗一郎さんは何をしたかというとですね、日本中にある、ホンダの事業所…
販売店から工場から…当時、700カ所あったそうですが、その700カ所すべてを回って、すべての従業員一人一人と握手して、「ありがとう、ありがとう、いつもありがとう!」と言い続けていたそうです。
しかも、中には、2~3人しか働いていないような、ものすごく田舎の販売店もあったのですが、…そんなところも全部回ったそうです。そして、その後、海外事業部も全部回ったそうです。全部まわって一人一人と握手して…何年もかかったそうです。周りの人たちは、「ホンダの創業者が直々に握手しにいけば、社員のモチベーションはあがりますよね。仕事をもっと頑張ってくれて、業績も上がりそうですよね。だから握手しに行くんですね」って言っていたそうです。
でも、実はそうじゃないんです。宗一郎さんはそんなこと、どうでもいいんです。自分がお礼を言いたいからまわっているだけだったんですって。ある日ね、田舎の販売店をまわった時に、車の整備をしていた人が、「宗一郎さんが来た!」って聞いて、喜んで走ってきたんですって。握手してもらいに。で、握手をしてもらおうと思って自分の手を差し出した瞬間に、「アッ!」って言って、パッと自分の手を引っ込めたんですって。なぜかと言うと、手が油まみれだったんですね。仕事中に急いで走ってきたから、「今、洗ってきます!」って、手を洗いに行こうとしたら、宗一郎さんはその社員の背中に向かって、「その油まみれの手がいいんだ!」って言って、その整備士を引き止めて、握手したそうですよ、両手で。でね、嬉しそうにその手をながめて、目を細めて、手の油のにおいをかぐんですって。そんなの見てたら感動しますよね。泣きますよね。宗一郎さん、こんなことも言っていたそうです。「握手すると、みんな泣くんだ。そして、その涙を見て、自分も泣くんだ」って。すごいですよ、この人。だから、本気ですよ。この「ありがとう」は。本当に心からみんなに感謝しているんですよ。