1. スプリントとは
手指や腕の麻痺・熱傷の治癒過程で変形を予防し、安静を保持するために用いる装具をスプリントといいます。スプリントは、患者さんの状態に合わせ、その場で作業療法士(以下OT)が作製することが多いです。
2. スプリント療法について
スプリント療法は頸髄損傷・骨折・脳血管障害・神経難病などの様々な疾患に対して用いられる療法です。目的は神経損傷や腱などの機能を一時的に補う、機能低下予防、日常生活動作(以下ADL)能力の改善などです。スプリント材には熱を加える(多くは湯に入れる)ことで柔らかくなる熱可塑性素材が使用され、即席で作製が可能です。そのため、外注装具とは異なり、患者さんに適用するまでの時間が短縮する利点があります。また、容易に修正ができるため、個別性の高い患者さんの変化に迅速に対応することができます。
3. スプリント素材の選択
スプリント材に用いられる熱可塑性プラスチックには、様々な素材があり、特性は
それぞれ異なります。主に伸張性の違い、形状記憶性の有無(失敗などをした場合に再度柔らかくすることで元の形状に戻る)、表面のコーティング処理の有無(コーティング処理がされていると作製者の手につきにくい)、湯で柔らかくなってから硬まるまでの時間の違いで、その特性は大きく異なります。スプリントを初めて作製する方にオススメの素材は、湯で柔らかくなってから硬まるまでの時間が比較的長い「オルフィットソフトNS®」をオススメします。厚さも1.6mm~3.2mmまでの素材があり、目的やどのスプリントを作製するかなどによってスプリント素材の厚さをOTが選択します。色々なスプリント素材がありますので、ご興味のある方はインターネットなどで調べてみて下さい。
4. OTが行うスプリント療法について-実際の症例を通して-
当院入院中の頸髄損傷患者さんに対して行ったスプリント療法についてご紹介します。受傷後は重度の四肢麻痺・筋力低下・感覚障害・自律神経障害などが認められていました。患者さんからは「手首が曲がるのをどうにかしてほしい、痛くて眠れないこともある」と訴えがあったため、関節拘縮変形予防・疼痛緩和・ADL改善目的にスプリント療法を行いました。
スプリント素材はオルフィットソフトNS(3.2mm)®を使用し、左右のカックアップスプリントを作製しました。カックアップスプリントは手関節を軽度背屈位(手の甲側)に保持する装具で、手関節背屈装具とも呼ばれます。カックアップスプリントを使用することにより、手関節を手の甲側に少し持ち上げた状態での保持が可能となり、食事や整容などのADLも行いやすくなる利点があります。今回の患者さんもカックアップスプリントを作製したことにより、手関節を正中位~軽度背屈位で保持ができるようになり、手関節の疼痛も緩和し、スプリント装着下での車椅子駆動練習や食事動作練習なども行えるようになりました。
5. 最後に
当院は多岐に渡る疾患の患者さんに対してスプリント療法を行っております。当院のOTスタッフもスプリントの作製手技に関しては、能力差にばらつきがあるため、日々勉強会などを通してスキルアップに努めております。スプリント療法が適応になりそうな患者さんを担当している医療従事者の方や手関節や手指が伸ばしにくいなどの困りごとを抱えている患者さんまたはご家族の方にとって今回のブログが少しでも一助になれれば幸いです。
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【注意】
本ブログの掲載記事は,個人的な見解を含んでおり正確性を保証するものではなく,
当院および当科の総意でもありません.
引用や臨床実践等は各自の判断と責任において行うようお願いいたします。