今日は筋萎縮性側索硬化症(ALS)と高次脳機能障害について、簡単にお話しようと思います。
まずALSと言えば、いわゆる運動神経だけが障害されることで手足や体幹、首回りなどあらゆる筋肉がやせ細り、力がなくなって最終的には寝たきりになってしまうという認識の方が多いと思います。
実際、教科書や参考書にもそのように書かれている本は多いですし、自分が国家試験を受けた時も認知症等高次脳機能障害は発症しないという回答が正答でありました。
しかし最近はこのような考え方は否定されるような報告が増えています。
ALSはただの運動神経の障害ではないということです。
実はALSでは運動症状の他に、前頭葉症状をはじめとした認知症や失語症・失書などの言語障害といった症状も併発するという報告が多数挙がってきています。
実はALS患者の約半数に何らかの認知機能障害が検出されるという報告もあり、前頭葉機能検査(FAB)の結果ではALS群は対照群と比較して有意に低下しており、特に類似性の理解と語の流暢性の低下が明らかであったことが報告されています。
また球麻痺型ALS患者の書字機能について検討した報告では15例に何らかの書字障害(失書や錯書など)と前頭葉・側頭葉萎縮を認めたという報告があります。
日常的に自分が診療している中でも、このような患者さんが多数いらっしゃることを少なからず経験します。
では、なぜ運動症状以外の症状が出てしまうのか?
ここで前頭側頭葉変性症(FTLD)という疾患が関係してきます。
FTLDという疾患については耳にしたことがないという方も多いと思います。
FTLDとは大脳の前頭葉や側頭葉を中心に神経変性をきたすことで、人格変化や行動障害、失語症、認知機能障害、運動障害などが緩徐に進行してしまうという疾患です。
実はこのFTLDとALSでは異常蛋白のTDP-43という物質が病理的に共通して同定されています。
つまりこの2つの疾患は実は同じ疾患群なのではないか?ということが言われ始めるようになったのです。
この2つの疾患の違いはこのTDP-43を含んだ封入体と言われる細胞内器官が脳のどこから出現したかによります。
つまりいわゆる大脳の運動野から出現すればALSで、その他前頭葉や側頭葉から出現すればFTLDになるということです。
ですが、実際はきれいに2つの疾患を分けることはできず、どちらの症状も出ることが少なからずあります。
そのため、ALSでも認知症や言語障害が出現しうるのです。
そして球麻痺型ALS(発声などの構音障害や嚥下障害がメインに出現するタイプ)で、特にこれらの症状が多く認められることが報告されています。
球麻痺型ALSでは、その症状から早期にコミュニケーションツールを検討しなくてはならないことが多いです。
しかしここで言語障害の症状がある方だと、その導入に難渋することがあります。
たとえば構音障害のため、筆談でのコミュニケーションになったが、失書のために何を書いているのか推測が必要になったり、筆談も困難となって透明文字盤を使用しているが、文章にならないなどの失語症状のためにコミュニケーションにならないなどがあります。。
なので、発症早期から高次脳機能障害について念頭に入れた評価が必須で、それらの評価に基づいた予後予測に合わせて早期のコミュニケーション支援につなげていくことが大切なのではないかと思います。
しかし疾患や病状の進行の速さに障害受容が追いつかない例も多く、早期のコミュニケーション支援を受け入れてもらえない場合も多いです。
またこのような症例に対して、どのような対策があるのかについてはほとんど検討されていないのが現状だと思われます。
丁寧に根気よく誠意を持ってコミュニケーションツールの導入を勧めていくことをセラピストは求められると思います。
そのためにもこういった高次脳機能障害がALSにもあることを、関わる医療従事者は知っておき、常に念頭に置いた関わりが必要ではないかと常々思い、書かせていただきました。
読んでいただきありがとうございました。
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まずALSと言えば、いわゆる運動神経だけが障害されることで手足や体幹、首回りなどあらゆる筋肉がやせ細り、力がなくなって最終的には寝たきりになってしまうという認識の方が多いと思います。
実際、教科書や参考書にもそのように書かれている本は多いですし、自分が国家試験を受けた時も認知症等高次脳機能障害は発症しないという回答が正答でありました。
しかし最近はこのような考え方は否定されるような報告が増えています。
ALSはただの運動神経の障害ではないということです。
実はALSでは運動症状の他に、前頭葉症状をはじめとした認知症や失語症・失書などの言語障害といった症状も併発するという報告が多数挙がってきています。
実はALS患者の約半数に何らかの認知機能障害が検出されるという報告もあり、前頭葉機能検査(FAB)の結果ではALS群は対照群と比較して有意に低下しており、特に類似性の理解と語の流暢性の低下が明らかであったことが報告されています。
また球麻痺型ALS患者の書字機能について検討した報告では15例に何らかの書字障害(失書や錯書など)と前頭葉・側頭葉萎縮を認めたという報告があります。
日常的に自分が診療している中でも、このような患者さんが多数いらっしゃることを少なからず経験します。
では、なぜ運動症状以外の症状が出てしまうのか?
ここで前頭側頭葉変性症(FTLD)という疾患が関係してきます。
FTLDという疾患については耳にしたことがないという方も多いと思います。
FTLDとは大脳の前頭葉や側頭葉を中心に神経変性をきたすことで、人格変化や行動障害、失語症、認知機能障害、運動障害などが緩徐に進行してしまうという疾患です。
実はこのFTLDとALSでは異常蛋白のTDP-43という物質が病理的に共通して同定されています。
つまりこの2つの疾患は実は同じ疾患群なのではないか?ということが言われ始めるようになったのです。
この2つの疾患の違いはこのTDP-43を含んだ封入体と言われる細胞内器官が脳のどこから出現したかによります。
つまりいわゆる大脳の運動野から出現すればALSで、その他前頭葉や側頭葉から出現すればFTLDになるということです。
ですが、実際はきれいに2つの疾患を分けることはできず、どちらの症状も出ることが少なからずあります。
そのため、ALSでも認知症や言語障害が出現しうるのです。
そして球麻痺型ALS(発声などの構音障害や嚥下障害がメインに出現するタイプ)で、特にこれらの症状が多く認められることが報告されています。
球麻痺型ALSでは、その症状から早期にコミュニケーションツールを検討しなくてはならないことが多いです。
しかしここで言語障害の症状がある方だと、その導入に難渋することがあります。
たとえば構音障害のため、筆談でのコミュニケーションになったが、失書のために何を書いているのか推測が必要になったり、筆談も困難となって透明文字盤を使用しているが、文章にならないなどの失語症状のためにコミュニケーションにならないなどがあります。。
なので、発症早期から高次脳機能障害について念頭に入れた評価が必須で、それらの評価に基づいた予後予測に合わせて早期のコミュニケーション支援につなげていくことが大切なのではないかと思います。
しかし疾患や病状の進行の速さに障害受容が追いつかない例も多く、早期のコミュニケーション支援を受け入れてもらえない場合も多いです。
またこのような症例に対して、どのような対策があるのかについてはほとんど検討されていないのが現状だと思われます。
丁寧に根気よく誠意を持ってコミュニケーションツールの導入を勧めていくことをセラピストは求められると思います。
そのためにもこういった高次脳機能障害がALSにもあることを、関わる医療従事者は知っておき、常に念頭に置いた関わりが必要ではないかと常々思い、書かせていただきました。
読んでいただきありがとうございました。
PT(C5)
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