旅のウンチク

旅行会社の人間が描く、旅するうえでの役に立つ知識や役に立たない知識など。

旅とコミュニケーション

2016年01月19日 | 旅行一般
 私にとっては旅先で知り合った現地の人達や他の旅人達とのコミュニケーションは旅の楽しみの大きな位置を占めています。この事は当然、私のたてる企画に影響を与えていて、本当の旅企画に分類している企画の中では様々なコミュニケーションのチャンスを作れるように努力しています。

 過去にも何度も旅と言葉のテーマに触れてきましたが、例えば、海外旅行に英語が必須かというとそんなことはないと思います。あるいは英語ができればオッケーというわけでもありません。自分の”用件”を伝えるだけなら工夫さえすれば何とでもなります。ただし今日はそれを”コミュニケーション”とは言いません。

 旅先でのコミュニケーションというのは自分が相手に発信するだけでなく、相手の考えや気持ちを理解するという側面もあって、その双方向でなければ楽しくありません。

 日本の場合、外国語に対して言語とかコミュニケーションの手段という認識より学問としての意識の方が高く、なおかつ”成績”などと直結するためだと思うのですが、妙なコンプレックスの原因にもなるようです。

 英語の成績が悪かった事へのコンプレックスの裏返しとしての空威張りなのか、ほとんど”都市伝説”としか思えないような非現実的な”英語なんてできなくて大丈夫”というアドバイスが飛び出したりします。

 だいたい、英語が全然できなかったらたいていの国の入国カードも書けません。実際、それで苦労している人は結構目にしますし、”英語なんてできなくて大丈夫”と言っている人のほとんどがインターネットやガイドブックの”記入見本”を見ないと入国カードも書けない人であると想像してしまうと、そのアドバイスを参考にして良い旅ができるのかどうか。

 身振り手振りのコミュニケーション術で軽く触れましたが、身振り手振りで自分の用件を伝えることは不可能ではないとしてもコミュニケーションはできません。自分の身の回りの人に自分の言いたいことを身振り手振りで一度伝えてみてください。そうすれば”身振り手振りは万国共通”という意見がいかに非現実的かわかると思います。
 
 正直な話、”身振り手振りで何とかなる”と言っている人は、”自分の用件さえ伝われば良し”という世界に留まっていることに気づいていないだけではないかと思います。人の話を聞きたいと思ったらやっぱりどうしても外国語が必要になってきます。

 スーパーカブで旅するタイ北部タイ&ラオス路線バスの旅で様々な方とご一緒しました。この旅それ自体に参加して帰ってくる事は誰にとってもそれほど大変ではないと思います。カナダやオーストラリアのオフロードファンライドのようにライディングテクニックが要求されるわけではありませんし、私が同行しているので、一緒に行動している限りはホテルが安宿になり、レストランが屋台になる程度の違いしか通常のツアーとの差はないと思います。(それにすら必死に耐えておられた方もおられるのかもしれませんが...。)

 同時にこの企画、通常のツアーとは違う体験をできる機会をたくさん設けているのでそれを本当に楽しめている人はごくわずかなのだと思います。この企画を100%楽しもうとした場合、語学力の面では他の国の人とたどたどしくてもよいので”雑談”できる程度の英語力、それから”こんにちは””ありがとう”程度は言えるタイ語力(というよりタイ語を話してみようという気持ちですね)が最低限必要です。実際にはこの企画のコンセプトに照らし合わせれば、ここに参加して”やっぱり英語できた方が絶対楽しい”とか、”少しは現地の言葉話した方が楽しい”と気が付いてもらえれば、それもよいとも考えています。

 それから、"本当の旅企画”の場合、基本的に私が同行していますので、”なんて言ってんの?”と尋ねていただければ通訳することもできます。

 ここまでは”英語力”という観点だけの話になりましたが”外国でコミュニケーションが取れた方が楽しい”という事を感じた経験があり、なおかつ”英語は苦手”という人の中には工夫を凝らして来る方もおられます。一つはハイテク機器。電子辞書を使われる方で、最近は”旅行会話”が数か国語こなせて、発音もしてくれるような機器があるようです。現地の人達にはこの”機器”そのものへの興味も良い材料になる時があって、思いのほかコミュニケーションの道具として具合が良いこともあるようです。

 もう一つはアナログ。旅の指さし会話帳という本をお持ちになる方。私は英語もある程度話しますし、現地の言葉を覚えるのも早いのでチラ見させていただいたことしかありませんが、見る限りでは結構使えていて、この本を編集された方々が想定している”場面”がとても現実に即したものなのだろうと大いに尊敬させられます。

 ハイテク機器や書籍に頼ってしかコミュニケーションできないというのも不便ではありますし、なんだかカンニングっぽくもあるので自力で会話するのが一番だと思いますが、外国語が苦手なばかりに外国語の会話になった途端に”われ関せず”とばかりに耳をふさいでいる人よりはツールに頼ってでもコミュニケーションを図った方がずっと良い旅ができると思います。

 一番もったいないのはコミュニケーションをとろうともしない姿勢。あるいは自分なりの方法でコミュニケーションが取れているという思い込みだと思います。


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