旅のウンチク

旅行会社の人間が描く、旅するうえでの役に立つ知識や役に立たない知識など。

チェンマイの想い出その2

2016年02月02日 | 旅の風景
 20歳の私はとにかく経験も知識も不足していました。旅についてだけではなくて全てに関して知識も経験も不足。なのに、何の根拠もなく”自分はすごいんだ”と思い込んでもいたのです。その点では普通に20歳の若造だったという事に過ぎないのですが、私の問題は多分、カッコをつけすぎていた事にあったのだと思います。
 
 チェンマイまでの鉄道の切符を買い、ゲストハウスを自分で見つけて転がり込むことに成功しただけで一人前の旅人気取り。”その辺をウロウロしてるパックツアーの連中とは違うんだ”と鼻高々なのですが、その実、ガイドブックに鼻を突っ込むようにしてやっとできたこと。説明書通りに動いているにすぎません。

 何度も訪れるレストランや屋台で店の人に声を掛けられて常連気取り。少し言葉を交わしただけで、”どうだ、自分は海外に友達だって出来たんだぞ”と。でもその実、他の店に入る勇気がないだけだし、店の人は何度も顔を見せる私の顔を覚えただけ。
 
 英語はそれなりに話せるのですが、恥ずかしい思いをしたくないばかりに”完全な英語”を話そうとして、結局言葉が出てこない事も頻繁にありました。

 おそらく日常生活でも同じだったのだと思います。自分の見識不足で周囲の人に迷惑をかけてしまっても、カッコ悪い思いをしたくないばっかりに勝手な理屈を組み立てて自分を正当化し、さらに周囲に迷惑をかけるような事をしでかした事もありました。

 チェンマイの人達は当時のバンコクの人達と比べて良い意味で旅行者慣れしていて付き合いやすく、英語を話せる人も多いので過ごしやすかったのです。ここが心地よかったという事はもちろんあったのですが、今更他へ移動して新たに宿探しをしたり入りやすいレストランを探す苦労とか、それに挑戦する過程で失敗をする事、そしてそれによってカッコ悪い思いをする事を恐れていたからでもあったと思います。

 タイでの滞在予定が終わりに近づく頃、ゲストハウスに出入りしていたトレッキングガイドからトレッキングツアーに参加しないかと誘われました。どうやら人数が少し足りないらしく、他の人に内緒で1/3の料金でよいとの事。ずっとチェンマイに居ただけというのもカッコつかないと思い始めていた私には渡りに船。このツアーに参加したのでした。このツアーが山岳少数民族の村々を巡る旅の基礎となっています。このツアーではいろいろな事を体験できたのですがその話はまた別の機会に。

 2泊3日のトレッキングから帰ってきた私はガイドに誘われてゲストハウスで食事を済ます事にしたのです。この時泊まっていたオーキッドゲストハウスは宿泊代は格安、部屋は監獄のように味気なく、日当たりも絶望的。そして水シャワーだけだったのですが、レストランの食事の美味しさが少し有名だったようで、他のゲストハウスからもここに食事に来る人が結構おりました。おかげで夕食時は中庭のレストランがほとんど満席です。

 トレッキングのガイドと二人で夕食を取りながら話をしているとトラックの荷台に数人のアジア人が乗ってやってきました。ゲストハウスのスタッフが私に”日本人だから紹介するよ”と声をかけてくれて日本人のご夫婦に紹介されたのです。オーキッドゲストハウスのオーナーのお姉さんが経営しているラチャハウスというところに泊まっている方々で、インドやネパールなどを半年ほど旅した帰りとの事でした。なぜか人を引き付ける人たちで、ラチャハウスの従業員が何人も一緒に来ていました。

 内心不安ばかりを抱えて今まで一人旅を続けてきた私にとって、気さくなこの人たちとの久しぶりの日本語での会話はとても安心できる出会いでした。

 そして、今から思うと、私の頼りない旅人振りやカッコつけた旅人振りは完全に見抜かれていたのだとも思います。

 食事を終えて、一緒にナイトバザールへ行こうという事になって、毎日のように徒歩で通ったナイトバザールへトラックの荷台に揺られて向かいます。

 ご夫婦は欲しいものや珍しいものがあると聞きかじったタイ語や文法なんて無視した英語でお店の人とどんどんコミュニケーションをとっています。一通り値切って商品と金銭を交換したら両手を合わせて”コップンカー、アハハ”と。お店の人もつられたように笑うのです。手の合わせ方を直してくれるお店の人や”男性はカーじゃなくてカッだよ”とか”コープクンカップだよ”と発音を治してくれる人たちとまた一しきり笑い声をあげています。

 その姿を見ていて、今日まで自分が旅先での失敗を必要以上に恐れていた事やカッコ悪いほど”カッコをつけてた”事を意識しました。今までは周囲の人達にナメられたらつけ込まれるとか、そんな事ばかり考えていた自分。それに対して周囲の人達をどんどん味方につけながら旅している姿に衝撃を受けたと言っても言い過ぎではなかったと思います。

 思えば、この出会いがなければ私はタイへの一人旅を”自分の力で秘境を旅したんだ”と人生の武勇伝として飾り付けながら、その実”あんな苦労は2度はご免だ”と思って旅を続けなかったかと思います。

 帰国を目前として、自由自在に旅するコツがカッコつけない事である事を知った私は次回の旅では構えずに旅してみたいという動機からまた近いうちに旅に出ることに強い希望を抱くようになったのでした。

 滑走路へ向けて動き始めた帰国便の窓から外を眺めながら、今回の旅で出会った人達の様々な表情を思い出しながら次の旅への思いが高まるのを押さえる事ができませんでした。バンコクから台北経由で伊丹空港へ向かう間中、様々な旅のアイデアが頭を駆け回り続けて眠る事もできませんでした。そして突然、”次はバイクで”という思いがひらめいたのでありました。


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